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第三十八話

「いらっしゃいませ。なにかお探しですか? マダム」

「やぁだぁ、マダムだなんてえ」


 デレデレとしたご年配の主婦が頬を褒めてデレデレしている。しかし、それを行っている古屋敷紅夜は至極真面目そうな顔をしており、冗談さや照れなど一切みせなかった。

 それがまた嬉しくも擽ったいらしい、先程から何度も紅夜と目が合ってはニヤケながら勧められるまま、流れを止めることなくスムーズにおにぎりを購入させていたのである。


「つまんねー少しはキョドったりしろよ。面白みがねーやり直し」

「あれはスマートな対応なのか? 余計な言葉が些か多い気もするが、嬉しそうだから良いのだろうか?」


  条件の一つとして、一ヶ月のアルバイトを強制されていた紅夜。通常はどうなることかと心配していたのだが、それは無用のものであった。”何故かいつの間にか人が変わったかのように”堂々と優雅な態度を自然と繰り出せる様に進化していたのだ。


 オドオドビクビク。更には人の顔色をばかりを伺って、権三郎に守られていた古屋敷紅夜の姿はどこにもいなくなっていた。この変化にいち早く気づき大喜びをしたのが権三郎だ。真っ先に評価し、後継者としてかなりの株を上げてたとされている。

 反対に青ざめたのは紅夜の態度を見て侮り見下してきた連中だ。一転して、後継者の有力候補に浮上。更に今までの嫌がらせが通じないどころか、逆に弱みを握られて揺さぶりをかけ脅してくるのだ。今更後悔しても、もう遅い! である。


 そんなこんなで接客姿を眺めていた三人だが、紅夜がこちらに心底嬉しそうな表情で駆け寄ってくる。


「あの時は本当にありがとうございました。なんとお礼を言っていいのか!」

「何回もお礼は聞いているよ~もう十分だよ」

「そうですか? しかし、あれだけの品を提供して頂いたにも関わらずおにぎりの料金が一つたったの二百円というのが信じられないのですが……あのご遠慮されているのでしたら無用です。というか、私としては全く納得しておらず、出張料は別として一つ一万だったとしても安いと断言出来ます。そもそもにして窮地を救って頂いたのですし、もっとお金を積んでお礼をさせて頂きたいのですが……」

「い、いやいやいやいや」

「ん? どうして璃々さんが否定を?」

「えっとお、その料理人の人からも規定料金以外は取らない様にって厳命されてるんで!」

「なんと善良な! というか……ふふっ」

「急に笑ってどうしたんです?」

「いえね、つい思い出し笑いを」


 心底おかしいと笑いがこみ上げている紅夜。不思議そうに眺めていると種明かしをしてくれた。


「実はあの後、あのおにぎりの値段を聞いてジジイ共……ごほん。いえ、ご老人達はあまりの安さに阿鼻叫喚だったのですよ? その騒ぎ方と言ったら非常に無様……ではなく見苦しくてですね。この上なく面白くて、思い出す度に……ね?」

「ね? っていうけど、微妙に隠せてないから!」

「ふふふ、つい璃々さんと居るので気が抜けているのでしょう」

「僕ちゃんだって、一応清水だっていますがそれは?」

「野郎なんて別段気にすることはないでしょう」

「それを断言するのか……」


 どうやら色々と吹っ切れてしまった紅夜さん。しかし、急に真顔になったかと思えば爆弾を投下した。

 

「例の私の顔見世に出席出来た人たちはこの上なく幸運だったと噂になっています。勿論提供された料理が、です。しかし、あの五人は料理の内容を口にしなかった。どんなつもりか知りませんが、噂が噂を呼び、ますます熱を帯びて出回っています。――――『至高の料理』が実在すると」

「至高の料理ぃ~? ただのおにぎりだぜ?」

「しかし、あながち間違いではありません。一口でも食せば、忽ち誰しもが虜になる。純然たる事実ですから」

「「確かに」」

「皆して納得してどうするの?!」


 私の渾身のツッコミはスルーされた。地味に悲しい。しかし、そんな私達が仲良く会話している姿を見られているとは全く意識していなかった。


「ふ~~~ん。なにあれ。男侍らせてオタサーの姫気取りとか? 何かムカつく。あれって、クラスの上本でしょ。調子乗ってんじゃねーよブス」


 偶然通りがかった同じクラスの美々川 麗華に目をつけられていたという事も。



 

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