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第三十五話 美食家ジジイ達side 前編


その日の古屋敷一族の顔見世は座敷や店舗で行われるものではないらしい。無駄に時間と権力と金を余らせている爺さん達は呼び出しを受けて古屋敷の屋敷へと招かれていた。

 屋敷と表現されるに相応しい広大な敷地を一等地に構えており、庭園も整えられている。掃除に関してはほんの微かにも手は抜かれていない。調度品は磨き上げられており、床に埃一つない。隙を見せれば文句を言われるだろうというのが分かりきっているため、厳しい視線にさられることを特に意識していたのだ。


 第一段階として、この出迎えと会場が整えられているかと言うポイントは大きい。かつて、ここで不手際があったとゲストが帰ってしまったことすらあるくらいだった。まずはホッと息をつく古屋敷紅夜であったが、本番はここからといえよう。


 古屋敷家の客間の座敷の一つに集められた客人は五名。少ないと取るか多いととるかは個人の意見ととれるかもしれない。しかし、この人数というのは顔見世の繋ぎの期待値の表れなのだ。本来ならば倍の十名が居てもおかしくはないし、それだけ紅夜と繋ぎを取ることにメリットを感じていないのだ。

 格下であるならばこぞって古屋敷グループのトップ候補まで行く行くは立つであろう紅夜と交流を深めたいだろう。しかし、今回は立場が逆なのだ。こちらからアピールして来て貰わねばならない立場なのである。


 権三郎の孫だからと期待して来てくれているというよりかは、権三郎の顔を立ててだとか、いつも古屋敷家の顔見世には顔を出しているからだとか、時間にゆとりがあったからという理由が多い。ちなみに、ダメだしを目的に来ている者もいる。

 更に今回はタイミングが最悪だった。この顔見せの前に何度か接待の会食が続いたのだ。その中には仲間内の会だけではなく、有望株を売り込もうとする動きや、この紅夜の会を潰そうと企んでわざと日程を組む者もいたのだ。その結果、不参加が相次ぎ人数が五名となってしまった。


「フン。ケータリングか。面白みのない……」

「まぁまぁ、いいじゃないですか? 良いと思いますよ? ライブ感があって単に店で食事を取るより好みの量を指定出来ますから」

「小食な貴殿らしいですな。しかし、在り来りな有名所が来たら期待はずれですよ。私は新規開拓に余念がないのでね」

「阿呆。いくら新規開拓したとて、我々の舌を満足させる品を作れる店などある程度決まっているではないか」

「はっはっは! 違いありませんねぇ」

「権三郎ならしも、その孫には興味はない。というより大して期待しとらんわ」

「これは手厳しい。もしかすると我々の度肝を抜く可能性だってあるかもしれませんよ?」

「そうだったらどんなに素晴らしいことでしょうな。ここ最近、めっきり驚くことなんて少ない」

 

 各自が好き勝手なことを言いながら、会話をしているとやっと顔見世の張本人が登場となった。――古屋敷 紅夜がやってきたのだ。


「皆様、今回は私の顔見世の会にお集まりいただき、誠にありがとうございます。皆様と交流をし、縁を深められたらと思い、ささやかではありますがお食事をご用意させていただきました」

「待っておったよ!」

「俺は期待外れであれば帰らせて貰うぞ」

「ケータリングだと思っていましたが、火を取り扱う設備のセッティングがないようですねぇ。今回は寿司とかですか?」


 各々の言葉に紅夜はここで不敵に微笑んでみせた。それには五人とも軽く目を見張る。プレッシャーをかけたつもりが、軽く躱されたのだ。否、それだけの自信が用意されている料理にあると感じ取り、自然と期待が湧き出る。

 そんな五人の様子を感じ取り、紅夜はここで間を開け勿体ぶってから口を開いた。


「最高の美食をご用意しました。それも今の皆様にはこれ以上なく相応しいものを。是非ご期待下さいと言いたい所ではありますが、その期待ですら生ぬるいことを痛感するこでしょう」

「そこまで言える自信があるとは期待出来ますねぇ」

「おおっ。ワクワクしますな」

「とはいえ、本当ですかな?」

「凄いではないですか」

「嘘だったら分かっておるのか?」

「はっはっは! 若いとは素晴らしいではないですか? しかし、期待が外れてしまった時は……ねぇ?」


 好き勝手な言葉を浴びせられても紅夜は全く動じなかった。その様に今度は期待感から転じて相手の本気具合を感じ取り、場の空気がピリリとした。


「勿体ぶってはいけませんと思い、既にご用意は整っております。お食事を早速ご用意しましょう。……――入って来て下さい」


 そして、屋敷の使用人がお膳を運んでくる。しかし、途端に場は怒声で溢れた。


「有り得ない! 正気なんですかねぇ? そんな訳はないですよねぇ?」 

「ふざけるな!!!!」

「我々を馬鹿にしているので?」

「あの言葉は嘘だったと?!?!」

「フン。これが相応しいだと、ここまでコケにされたのも馬鹿にされたもの初めてよ。わかっておるだろうな?」


その立派なお膳には水が一杯。それとデコボコしていて歪なおにぎりらしき丸い形の物体が、一つの高級な皿に二つ並んで置かれていたのだ。


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