第三十一話
さて、対決と言ってもどうするべきか。
会食を終え、古屋敷さん達と分かれて商店街へと戻って来ていた。米屋の二階のリビングで各自くつろぐ。
砂糖を一匙入れたホットミルクを片手に作戦会議だ。
「解決してやるぞーなんて大見得切った訳ですが、具体的にどーするよ?」
「どうするも何も、おにぎりを作っている幻の料理人に頼むしかないだろう?」
空の疑問に連が返答をしたのだが、それはどうやら求めていた答えではなかったらしい。
チッチッチ、と指を一本立てると左右に振りながら口を開く。無駄に腹ただしくなる仕草である。
「仮にその幻の料理人とやらが引き受けてくれたとしてさ。得意料理のジャンルは? 和食の懐石じゃないにしろコース料理は作れんの? あれだけのおにぎりを握る人物なんだし、おにぎり特化キャラって可能性だってあるじゃんか」
「「あ」」
連と同時にハモる。確かにそうだ。幻の料理人設定だとしているが、私はおにぎり以外をマトモに作った覚えはない。
練習をすれば出来なくもないかもしれないが、期間が必要になる。すぐすぐなんてとても無理だ。
しかも相手は地位も立場も経済力も段違いな美食家達なのである。
連にアイコンタクトで問われたため、軽く首を振る。連の場合、普通に私が料理が得意だと勘違いしているから困るのだ。
毎回否定しているのだけども。
「幾らおにぎりが美味しいとはいえ、それだけでは物足りなさを覚えるだろうな?」
「もち。だから山盛りにして出すのもありかも。レアな品を思う存分味わうってやーつ」
その提案も案外良いかもしれない。そう思った時だった。
不意に思いついたことがある。
「ねぇ、連。ブランド米かぐやにあやかりたいって沢山お米の試供品があるんだよね?」
「?あぁ。ランクも様々ではあるがな」
「じゃあさ、他のブランド米も試したり、塩おにぎりじゃなくて中に具材とか入れてみたらどうかな?」
その途端。二人は雷に打たれたかの様なリアクションをした。
大きな衝撃を受けた顔をして、垂直にぴんと張り詰めて硬直したのだ。
「あの塩おにぎりがうますぎてその発想はなかった!!」
「限定レア商品の新作なら必ず食いつくじゃん!!」
ちなみに、前提として二人共おにぎりだけで予約困難な高級料亭の懐石コースにですら、対抗どころか勝てると信じ込んでいるのである。ある意味凄い話だ。
とはいえ、先ずは話を進めようと私から口火を切る。
「取り敢えずどうしようか?」
「提案するにしても、ある程度方針はこちらでまとめておいた方が良いだろう。ブランド米は数が多い。後で確認するとして、だ。」
「問題はおにぎりの中身だよ。下手すれば戦争がおこりますわ」
「戦争? まぁた、冗談言っちゃって。あはは……━━は、は?」
仮にあるとしても論争が正しい。空のいつもの冗談だと私は思ったが故に笑い飛ばしていたのだが、二人は決して笑わなかった。
(え? つまりは冗談ではないってこと??)
「無論。比喩表現の一種ではある。あるが……戦争になるな。まず間違いなく」
「塩の種類ですら論争になりそうなのに、火種を自ら放り込むスタンスに等しいってか。地雷の上でタップダンスしてるようなもんよな」
「えっ、えっ?」
しかし私が戸惑っている内にも話は進む。
「王道は梅干し。次点でシャケ。しかし、テンプレ人気のツナマヨは外せないっしょ!」
「む。そうは言うが、こんぶ。おかか。たらこに明太子。変わり種で肉巻きおにぎりなんかも確実に推していきたい所存だな」
「あ〜〜〜〜わかりますわ〜〜〜〜。けど、こればっかりは譲れないと言いますか。絶対に大ウケ間違いなしのラインナップだしゴリ押しする。つか、食べたい」
「普段であれば、自分が食べたい物を言っているだけじゃないかと指摘するところだが、こればっかりは自分も同じ事を考えていると認める他ないだろう。いや、だからこそ、こちらも断じて譲れない。このラインナップを是非とも味わいたい」
「塩むすびの段階ですらあれだけうまいなら、中身に具材を入れたら更にうまいに決まってるっての」
「(ごくりっ)あ、あれ以上のが来るのか………??」
二人共どうやら、美食家達との対決は頭から抜けてしまっている様子だ。
自分らが食べたいおにぎりの具材で盛り上がっている。
仕方がないので魔法の言葉を一つ。
「おにぎりの試作して貰わなくて良いの? 材料の買い出しとかしたら作ってくれるかもよ?」
この言葉でピタリと論争が止まったのには笑うしかない、のかな?
お知らせがあります。
作者が入院のため、4月1日から4月7日まで更新が出来ません。
また4月8日から来て頂けたら嬉しいです。宜しくお願いします。
お気に入り&感想&評価なども是非是非お待ちしております。




