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第三十話

「良い案と言うかなんというか……」


 言葉を濁して逃げようとしたのだが、そうはいかないらしい。


 紅夜さんが一筋の希望に縋るような眼差しになるし、権三郎さんは何やら興味深いものを見る目でみている。

 この難題をくぐり抜けられると思われているかは不明だが、どこか期待させてしまったようだ。


「下世話な言い方と思われるかもしれませんが、お金なら糸目をつけません。コネがお望みでしたら、目的の人物と繋が取れるように尽力してみせます! 欲しいブランド品があるのでしたら取り寄せますよ?」

「あ〜〜う〜〜ん。あれだ。そこには別段困ってないのよ」

「そ、そんな……」

「まぁ、わしの話に断りを入れた時点でわかっている話しであろう」

「じゃあ、労働力にしたらどうっすか? あ、お坊ちゃまくんには無理かー。あー。そうだよなぁー。残念だなぁー」


 わざとらしい位の煽りを入れてくる空。一体何が目的なのかと目線を寄越せば、近寄ってきた。

 小声で一応気を遣ってはいるが、内容が酷かった。


「おにぎりの売り子やらせようぜ。人員不足って言ってたろ?」

「そりゃ、まあね」

「どうせお願いされて力を貸すんだろ? だったら貸しだけじゃ、勿体ないったらないよ。せっかくなんだがら庶民体験でもして、充分苦労させてあげないと、恩を売りつけるならそれくらいしなくちゃだろ?」

「いや、別にそこまでは望んではないけど……」

「僕ちゃんだって必死でやって出来たんだから出来る筈だし! 何より普段から金と権力にズブズブで、他人任せなお坊ちゃまくんには、辛い環境だろうぜ? 厳しい環境においてこそ、人は成長するんだぜ?」


 そんな事をほざく空に向って連が一言。


「とか何とか言って、本音は?」

「高みの見物できるじゃん。これぞメシウマ」

「全くこれだからお前というやつは」


 しかし、テキトーな事を言うかと思いきや、案外良い考えかもしれない。

 なにせ、今居る人員ではおにぎりの人気に殺到する人々を捌き切るというのは難しいものがある。

 皆さん日本人なため、ちゃんと待ってはくれるが大変なのだ。


 空には直接的に私がおにぎりを作っている事はまだ知られていない。

 けど、件の美食家達にしても恐らくあのおにぎりは未経験だから情報を教えて助けてあげると思われたのかも。

 

 そこで空なりに考えた結果。メシウマ要素があるにしろ、おにぎり担当で単純に売り子が二人居れば対応力が二倍になると計算したのだろう。


 もし仮に紅夜さんが手伝ってくれた場合、私はおにぎり作りをずっと担当することも可能だ。良いかもしれない。


 こちらを確認している連に私は一つ頷く。


「じゃあ、二週間くらい……━」

「一ヶ月!!!」

「空?」

「甘いんだよ、璃々は。簡単な仕事をさせるにしたってさぁ。休日も挟むだろうし、ちょろっと慣れた頃に終了じゃ、教え損だろ?」

「わ、私は一ヶ月でも構いません。いいえ、寧ろやらせて下さい。お願いします。これで悩みから開放されるなら、何だってします」

「え? 今、何でもって言った?」

「ちょっと! ややこしい部分に嬉しそうに過剰反応しないの!」


 自分が散々、梅さんの店で大変だったものだから、同様に相手が苦労して困っているのを見たいのだろう。本当に困った奴である。


「ふむ。話は決まったかの?」

「はい。そちらの難題を解決してみせましょう。代わりに、古屋敷グループに更なる貸しの追加。また、古屋敷紅夜さんを一ヶ月売り子のバイトとして働いて頂くというお約束でいかがでしょうか?」


 連の言葉に権三郎さんは首を振った。


「今回の顔見せは紅夜自身がどこまで出来るかのテストでもある。対価として、古屋敷グループの貸しでは、わしが手助けした様なものになってしまうでな。貸しとするならあくまでも紅夜にとせねばならんよ」

「そう上手くは行きませんか」

「上手く行けばさらなる貸しになると期待して狙っておったな? 若い若い!」

「仕方がありませんね。ならば、紅夜さんの将来に投資としましょう」


 という訳で、紅夜さんのためとはいえ、美食家達との対決になってしまうのであった。

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