第二十八話
正面にはドン! と背後に効果音がつけるとしたらこんなにふさわしい人物はいないだろうという貫禄があるお爺さん。高級なソファに座っている。その横に立っているのは細身な恐らく秘書と思わしき男性。背後には三人の屈強な男性達のSP。そして、そのお爺さんの横にちょこんと縮こまって座っている男性。現在の私よりも年上だろうに気弱な性格なのだろうか、実年齢よりも下に見られそうなタイプである。
案の定というべきか、真っ先に正面に座っているお爺さんが口火を切った。
「大女将から話は聞いた。聞き苦しい思いをさせたというのに、こちらには有難い申し出をしてくれたとな。本当に良いのか?」
「はい。ですが、こちらからも条件があります」
「無論だ。あの料亭道山のそれも本店の予約枠を譲って貰えるのに対価としては安い位だとも。喜んで条件を飲ませてもらおう。というより、その程度で良いのかと聞きたいところじゃが」
条件は三人で話して決めた。下手に大きい要求をして後から話が拗れるとかは面倒くさいからパス。しかし、その代わりに懐石のコースは良い高いメニューを選択させて貰う手筈になっている。
「三人で話し合ったことですから」
私としては連が対応するかと思っていたものの、何故かここのところ一歩下がるマネージャーポジションになりたがるのだ。お前はどこの大和撫子だと言いたい。ちなみに空は論外。必然的に私が対応する羽目になっている。そう答えると目の前に居るお爺さんは大きく一つ頷きをみせた。
「わしの名前は古屋敷 権三郎という。この度は恩に着る。ありがとう」
「ぶっふう。古屋敷ってマジモンの古屋敷一族?」
「ほぅ。お主は我々のことを知っているんじゃな?」
「ひいいいいいい。しらないでふうううううううううう」
あの普段から偉ぶる空が異様に怯えてるのが謎すぎるんだけど、一体どんな一族なのだろうか? 何か知っているのは明らかだから後で吐かせる必要があるだろう。
「そして、こっちのがわしの孫である古屋敷 紅夜だ」
「…………ふ、古屋敷紅夜、です」
紹介されてもビクビクと縮こまってしまっている。その姿を見て権三郎は苛立ちを隠せない様子だ。憤慨した様子で更に捲し立てている。
「わしの孫だからと甘やかしているからこんな風になってしもうた。本当に男の癖に情けない。気遣いが出来るお主らを見習って欲しいくらいじゃ。そもそも、ことの発端も紅夜の責任なのだ」
「何かミスを?」
これ以上、怯えさせるのは不本意なのだけれど、話の流れ上は聞かざるを得ないという。可哀想に。
「とある人物からの料亭道山への予約を話の流れでコヤツが直接受けたのよ。そして、それを自分で最後までせずに途中で交渉を秘書に任せた。別段、他の部下に任せるのは問題はないが、確認を怠ったことはいかん。それも特にVIP中のVIPではな。愚か者としか言えんよ。というより相手が誰であれ確認は必要ではあるが、特に重要人物である以上はミスを防ぐためにも、最後まで自身の手で行うべきであった。少しのミスが命取りよ」
「なるほどですね。であるなら、尚更お役に立ててなによりです」
「うむ、感謝しておるよ。何か困ったことがあったら相談に乗ろう」
権三郎はそう言うと横の秘書に目配せをして、こちらに名刺を渡してくる。英語と日本語でシンプルなレイアウトに『古屋敷グループ 会長』の肩書きが書かれていた。人数分渡されたが、特に空がそれを確認した途端更にアワアワしていた。元から偉そうな人と思っていた人の肩書きが会長だと知ってて慌ててるのだろうか?
「そうじゃった。せっかくのお願いついでにこのジジイと一緒に飯を食ってくれんかの? こちらに食事も用意させよう。最近の若者の話が聞きたい」
「え、いや、それは……――団欒のお邪魔になるでしょうし、ご遠慮させてください」
流石に初対面の恐らくめっちゃ偉いであろう会長達との食事は会話も進まずつまらないだろう。特に強面のSPも居ることだし。しかし、その否定は意外な人物に断られてしまった。
「あのっ! そこを何とかお願い出来ないでしょうか? これ以上のお願いを重ねるというのは…………厚かましいというのは重々承知しております。しかし、そこを押してどうかお願い出来ないでしょうか?」
最初からずっと俯きがちでビクビクしていた古屋敷紅夜さんがそう申し出てきたのである。




