第二十七話
その怒鳴り声に真っ先に反応したのは流石というべきか大女将だった。恐らく廊下にここまで声が響くのは扉がうっすらと開いているからだと察しがつく。一言、私に向かって失礼、少々お待ちくださいませと告げると扉をきっちり締めに向かった。
しかし、その扉が閉まるよりもその怒声の方が先に耳に入る。
「秘書の管理も含めたお前の責任だ!! どうやって落とし前をつけるつもりなんだ? まさかコネを使うと言うまいな? 格式高い料亭道山の予約はコネは一切通じないんだぞ! わかっておるのか!!!」
「あ……――」
大女将が扉を閉めたため、声はハッキリとは聞こえないものの、何やら引き続き怒っているというのだけは伝わってきた。しかし、今スルーできない単語が聞こえてきた『料亭道山』というワードだ。
聞こえてきた会話を察するに秘書が予約をミスったのだろう。きっと何かの接待で使おうとしていた『料亭道山』の席が取れなくて偉い人が部下に怒っている。
(関係ないといえば、関係ないけど。助ける義理なんてないけど……)
私は人並みの優しさはあるけれど、わざわざしゃしゃり出てまで親切の押し売りをしようとは思わない。だけど、偶然にも友達がその予約枠を持っていて助けられる手段を持っている。私達は別に誰かを接待する訳でもなく、単純に食の勉強をしに行くだけなのだ。確かに貴重なお店ではあるものの、絶対にこの店でなくてはならないという理由はないのである。
(………………う~~ん。こりゃ、作戦会議だわ)
私自身が予約枠を持っていたら譲るのは構わないかもしれない。だけど、空が持っている権利だ。空に聞いてみるのが一番だろう。そう思い、大女将が案内する部屋へと移動したのだった。
特別室へ入室すると、二人は神妙な顔をして座っていた。思わず吹き出す。
「ちょっと、何でそんな顔してんの?」
「いや、無駄に高そうな部屋って僕ちゃんには合わないっていうかさ。こういうのが良いのかよ? 金持ちの好みってのは分からね~~」
「急に部屋がランクアップしたから何事かと思ったが、大丈夫だったのか?」
まだ料理は届いていないようだ。そこで、二人に今までの経緯を説明する。連はすんなり頷き私が良いならと頷く。その一方で、空は明らかに面倒くさそうな素振りを見せた。
「別に僕ちゃんが譲る必要なくね? 勝手に部下の失敗で困ってたらいいんじゃないっすかね。金持ちのじいさんは権力とか持ってそうなのに通じないって愉快痛快じゃね? ザマァ」
「でもさ、考えようによっては利用出来ないかなって」
「はあ? 何言ってんだよ、璃々」
「確かに超予約困難店の料亭に敵情視察に行くのはありだし本当に有難いなって思ったよ。ありがとね。けど、必ずしもその店でなくてはいけないという訳じゃないよね。でしょう?」
「それはそうだけど、プレミア物の価値がある招待の権利だぜ?」
「それはそう。だから、その権利を譲る代わりにここでの店の食事代を奢らせよう」
「! へ~~いいじゃん。だけど、そこまで安い訳じゃないだろ?」
「当然。同様に逆にコネがないと難しい高級料亭の予約を取ってもらってそこも奢らせよう。そして、その対価としてこちらが、有名料亭道山本店の招待券を渡す。それならいいんじゃないかな?」
「へ~~~やるぅ。いいじゃん。それなら僕ちゃんも納得かな」
人助けはするけど、自分にメリットがあっての話だ。完全な善意じゃない。そこまでお人好しじゃないしね。予約が困難な貴重な権利であるなら、その分の対価を貰っても良いに違いない。そう思い、お水を運んできた中居さんに大女将に伝言をお願いすることにした。
ところがその後直ぐにこちらの部屋に顔を出した大女将が言葉を述べる。
「先程の最高ランクのお部屋をご利用のお客様が、皆様にお礼と今回の件での打ち合わせをご一緒にしたいと申しておりますの。お礼の一貫として、お食事もグレードアップしたものをご提供させて頂きたいそうでございますわ。ご一緒にお越しいただけませんでしょうか?」
空が話し合いと交渉のために、これ以上場違いな高級感ある場所へ出向かないといけないことに、やっとこの時点で気づき絶望顔になる。私と連は二人で顔を見合わせて笑った。
(実はちょっと最高ランクのお部屋も見てみたかったんだよね)
私はそんな呑気なことを考えていたのだが、話は予想外の方向へと向かう事になるのだった。




