第二十五話
当然のことながら、毎日璃々のおにぎりが店に登場する訳ではない。土日は比較的出勤して量産に貢献しているが、平日は勉強もあるのでそうはいかない。いる日といない日がある。そのため、璃々が一日不在と言う意味合いは周囲の人間の胃袋と利益に大ダメージを与えるのだ。
しかし、清水夫婦は快く了承の返事を出してくれた。いつも頑張ってくれてありがとう! 少しでも息抜きをしておいでと優しい言葉で。しかし、すんなりと超絶予約困難な有名料亭に行ける訳はなかったのである。
「は? ふざけてるのか?」
「ふざけてましぇ~~ん。だって、考えても見ろよ。何で僕ちゃんが気に食わない奴。それも野郎のために貴重な予約枠と奢る様な真似しなきゃならないんだよ。招待券だから金は払わないとはいえ、二人組み用だし。お前の席はねーから!」
「全くいい年をして、もっとまともな言い方は出来ないのか?」
「人の言い方にケチつけたところでいけないもんね~残念でしたぁ」
連を空が盛大に煽り散らかしている。どうやら有名な料亭『道山本店』に行ける招待券は二人用なので、三人ではいけない。それも予約困難店となれば今から一人数を追加という訳にもいかないだろう。
「っていうか、どうやってその権利を手に入れたの?」
「あぁ。僕ちゃん、割とガチでヨーチューバーで人気あるからさ。古参のファンからの貢物ってやつ」
「お前、璃々相手には妙に素直だよな。というか、貢物という名の火付け役の間違いなんじゃないか?」
「火付け役って?」
「璃々、冷静になって考えてみろ。要するにそんなに高級店かつ敷居が高い場所で、迷惑系ヨーチューバーが行ったらどなると思う?」
「あ」
「そういうことだ。その古参のファンとやらは空のやらかしを狙っているんだ。そんなに前から」
「ふんだ。理由なんて関係ないだろ。貰っちゃえばこっちのものだもんな!」
「だけど、そんなに品位を求められる料亭とかって緊張しそう。味分かるかな……」
そう私が呟いた時だった。連が反応して声をあげたのだ。
「だったら予行練習にいかないか?」
「へ?」
「空と行く前に、俺と一緒にもっと気軽に行ける料亭にランチでも行ってみないか?」
「料亭に気軽なところってあるのかな……? と言うか、高校生の身分でランチで料亭って場違い感がありそうな……」
「だったら空とならいいのか?」
「そういう訳じゃないけど……」
見れば、連が珍しくもむくれている様だ。空との誘いに乗り気だったのは、おにぎりを作る様になって最高峰の料理というレベルを知ってみたいという興味だった。だけど、自分の見聞を広めるために色々な場所に積極的に出向くのもありなのかもしれない。問題はお金だけど。
「っていうかぁ、お金は大丈夫なん? 男子高校生のお小遣いなんかじゃ、一般の料亭だって無理無理」
「それは店の経費で落とすさ。必要な勉強だからな」
「経費ぃ~? なになに? お米の味を確認するなら炊飯器で炊けばいいだけの話しなのに、従業員に贅沢させるなんて随分と景気がいい話じゃーん」
「福利厚生の一つだよ。もうお前は黙れ」
ゆーたんこと空には何故かちょっとだけ懐かれていたりする。要因は梅さんのところで空が働かされている時に頻繁に様子を見にいっていたからだろうと思う。勿論、働けば最低賃金のバイト代と報酬のおにぎりも一つ貰える。しかし、とても客商売出来そうな人物には思えなかったし、店が取り扱っている薬や化粧品の知識があるとは思えない。
初日は本当に接客含めボロボロで酷かったし、一から十まで説明しないと変な解釈までされてしまう。うっかりで何度仕事を増やされたことか。
文句も弱音も吐きまくりだった空。しかし、決して自分から辞めるとは言わなかった。裏でこっそり梅さんに謝っていた事といい本当に悪い人物ではないのだろうと思ったのだ。粘り強く指導してここまでこれた。感慨深いものがある。
気分は姉よりもママに近かったかもしれない。しかし、炎上系ヨーチューバーな空が真面目に働いている姿を嘲笑いに来るリスナーが多いのは大変だ。しかし、梅さんが活躍して見世物代とばかりに上手に商品を買わせていた。
たまに男性に化粧品を買わせている光景を見たが、なんと彼女さんへのプレゼントという理由で、後日。彼女が凄く喜んでいたとお礼に来た人物もいたらしい。ゆーたんの言葉を借りるなら本当にやり手BBAという奴なのだろう。
そんなことを考えている中、まだまだ煽り合いをしている二人。仕方ないので私から提案をするしかないだろう。
「全くいつまでやってるつもり! とにかく、皆で予行練習としてまずは一回! 試しに会食とかする様な日本料理店にランチで行ってみよ!」
「「……………………………………」」
途端に仲良く黙り込む二人。解せぬ。
「わかってないわ~、こりゃ」
「璃々らしい結論だな」




