第二十四話
連がマネージャーを自称して以来、細々とした雑用やスケジュール管理なんかはやってくれている。私にはカモフラージュのため売り子をする時間は必要なものの、基本的にはおにぎりを握っていて欲しいとのことだ。
学校があったり、売り子になる分、作れる量が減るのだが希少価値があればあるほど、更に人気が高騰するらしい。勿論、上がり過ぎも問題があるため、どこかで一旦ガス抜きをしなければならない。時間に余裕がある土日はなるべく量産をして、お客さんには納得して貰う他ないだろう。
今日も今日とて私はお米屋さんで連と打ち合わせをしている。
「使っていたブランド米のかぐやの話だ。情報規制していた筈だったが、ここのおにぎりで使われているという話が漏れてから問い合わせが殺到。即座に品切れ状態らしいぞ。こことの契約があるからその分は無論別途確保してはいるが、この間感謝のあまり泣きながらお礼を言いに来てたな」
「なんだか、感謝されてばっかりで擽ったいよね」
「そうは言うが、正当な評価は自信を持って受け取るべきだ」
そう言いながら連はどこか困った顔をした。
「ブランド米かぐやが一躍有名になったのは璃々のお陰だ。だからこそ、ますますそれはバレる訳にはいかない。他の米の品種も是非使って貰い、有名になりたいと考える者が賄賂やら、試供品と称して米を送って来るからウチはてんやわんやなんだぞ」
「それでこんなに店内がごちゃごちゃしているのかー」
「かぐや以外の米もウチの店が評判になるに連れて売上は好調なんだがな。そう良いことばかりではないってことだ」
米屋の棚に雑多に積まれた米袋。賄賂は受け取らないということはできるが、試供品ともなると仲間内の付き合いもあり中々断るのが難しいらしい。とはいえ、少量ではなく軽く10キロなど寄越してくるため、明らかに使って欲しいという意図が見え見えなんだとか。
「それにしても商店街がここまで一致団結するとは思わなかったよね」
「ドンドン盛り上がっていく勢いと熱気が良い方向に作用したな。だが、だからこそ幻の料理人の噂が大変なことになってるが……」
「あはは。もう笑うしかないよ」
「そう呑気なことを言っていられるのは今のうちかもしれないぞ? なにせ、商店街の連中ときたら璃々のおにぎりを例のブツと称し、その日の委託販売の提供先について客にバレない様に秘密の暗号までつくってやり取りしているんだぞ?」
「は? な、なにそれ~~」
「笑えるよな?」
「笑えないよ! も~~」
近況を語り合っていると、唐突に背後から抱きつかれて悲鳴をあげてしまった。
「ぎゃーーーー! 何なになに?!」
「色気の無い悲鳴。もっと可愛く言ってよ、やり直し」
私に抱きついているのはどうやらヨーチューバーのゆーたんらしい。連がすかさず、頭を引っ叩き引き離した。
「あのBBA人をこき使いすぎ。ないわー本当にないわー。HPもMPもギリギリなんだよね。僕ちゃん補給が必要な訳。直ちに。わかる?」
なるほど、抱きつかれたと言うより倒れ込まれて掴んだのが私ということらしい。今日まで散々梅さんのところでしごかれてきたらしいし、しかもネット関連で力になってくれているから、あまり邪険には出来ない。しかも、梅さんから、内密に教えて貰った情報によると、本気で反省して謝ってくれたとのことだ。
「はいはい。今日の分の報酬ね。って、そう言えば僕ちゃんって本名なんて言うの?」
「はあああああああ? このヨーチューバー界で有名なゆーたんを知らないって頭おかしいんじゃないの?」
「有名なのはヨーチューバー界だけだし。思いっきり迷惑系じゃん」
「というより仮に知っていたとしてもネット上のハンドルネームしか知らないだろ。普通は自己紹介ぐらいはするし、名乗るだろうが」
連の言葉にゆーたんは舌打ちするとやっとこ名乗った。
「僕ちゃんの名前は浦見 空。よーーーーーーく覚えとけよ」
「はいはい」
「ま、覚えてやらなくもないな」
「くっそ~~~生意気なんだぞ!」
「いや、お前が言うなよ」
そんなくだらないやり取りをしていると、不意にゆーたんこと空が私の方を向いた。いつもふざけているのに真剣な顔をしていて少し緊張が走る。何か重要な話しなのだろうか?
「ここのおにぎりはガチで美味しいし、無いと狂うレベルだし、食べないと生きていけない体にされた訳だけど……」
「えー」
「おいおい」
「超絶予約困難な有名料亭で提供される最高級のおにぎりって言うのに興味ない? あるよな? あるに決まってるよな?」
「え?」
「何が言いたい?」
「せっかくだから勉強兼、敵情視察に行かないかって提案してやってるんだよ。あ! 予約だとか料金は心配しなくていいぞ。うーん。僕ちゃんってやっぱり優しいよな」
「怪しい。何か絶対に裏があるでしょう」
そんな私の当然の指摘に空は平然と宣った。
「僕ちゃんのおにぎりの報酬を三角型からデコボコの方にランクアップを請求する!!!」
「「………………………………はぁ~」」
どこまでいってもコイツはおにぎりフリークなままだった。しかし、確かに勉強にはなるだろうし、俄然興味もある。私は諾の返事をした。
――――そして、私は知らない。これがやがて大きな騒動に巻き込まれるフラグであっただなんてことを。




