第二十一話
「くそっ! どこだ?! 今日はどこに来る!」
「俺の計算だと意表を突いてケーキ屋だな。取り敢えず、他の連中より先に行くしかない」
「例のアレ、実際に食べた人がいたんだけど、やっぱり凄まじい美味しさだったってさ!」
「く~~~~~探せええええ! 探すんだ!!!」
現在の平和通サンロード商店街では、人々が声を掛け合いながら、忙しく行き交っていた。
「おい、米屋本店は売り切れだったが、和菓子屋に今日は例のブツが用意されているらしい!」
「えっ。本当に? そう言って前はデマだったじゃない。デマに踊らされている内に他の店舗で販売をしていて、買いそびれたこととかあったし……」
「いや、だけど。確かな筋の情報だって話だ! とにかく行ってみようぜ!」
璃々の第二の案それは――――商店街の食べ物を取り扱っている店にランダムにおにぎりの委託販売をすることだ。
ネットで話題になりすぎて米屋で直接買うにはかなりの争奪戦でありハードルが高いのだ。誇張などではなく、何時間も並ぶ必要があるくらいなのである。それが運が良く見つけられたならあっさりと買える可能性があるのだ。手当たり次第に店を覗いていく者。予想をして見当をつけていく者。なんとなくで行ってみる者など様々だ。
おにぎりが目当てで他店に足を運ぶ訳だが、そこの店の商品が目に入れば気に入って買う可能性だってあるのだ。これも立派な作戦である。
本店が一番だが、無理であるなら二番手でも構わない。誰もが先んじて密かに売られているおにぎりを探し求め食べたいと思っているのだ。しかし、例のブツだの例のアレだの”おにぎり”という直接的表現を使うと過敏に周囲が反応をしてしまうため、オブラードに包んだ言い方で誤魔化しているらしい。最も、皆が察してしまうため誤魔化しきれているかは非常に怪しいのだが。
しかし、貴重だからこそ、写真投稿アプリでハッシュタグをつけての投稿企画で選ばれたいとますます熱が入り、人が商店街を訪れては知名度があがっていく。また、優先購入権の価値が高まるというものだ。
そんな熱を帯びた空気の中、悠々ととある地元民のおばちゃんが八百屋にやってきていた。
「ん~大根と人参。それから椎茸とじゃがいもを頂戴な、あとついでにこれも買おうかしら」
「おう! 毎度あり」
「それから…………これ」
「!……中々やるじゃないですかい、お客さん」
「ふっ、見てなさい。こまめな買い物術の賜物でもう直ぐでランクが上がるところよ」
さりげなく隠しながらとあるカードを提示しての小声のやり取りだ。大っぴらには出来ない。特に今外を走り回っておにぎりを求めている連中には。二人はアイコンタクトを交わす。八百屋のおじさんがカードに手早い動作でスタンプを押した。
璃々は案が二つあると言っていた。二つ目の案の『表向き』が委託販売であり、『裏側』が地元民限定の秘密の案のこれなのである。せっかく身近な商店街の人気商品なのに地元民が全く買えないというのも不満の種になると考えたのだ。
――――ポイントカード制度の導入とランク制度である。
商店街での買い物千円ごとに1ポイント溜まっていく。カードが一杯になれば次のランクへ。昇格特典で同時におにぎりの優先購入権を手に入れることができるのだ。これが中々溜まりづらい。ポイントをかなり稼がないといけないからだ。しかし、あの何時間もうんざりするくらいの行列に並ぶくらいならと皆で秘密の共有をしながら楽しんで買い物をしてくれている様だ。
地元民だけの特別なサービス制度というのが、優越感をくすぐっている。
そして、これだけ人気だと当然偽物も現れる様になった。もちろん、ブランド米は同じにしたりしなかったりするのだが、あっという間に排除された。味が圧倒的に違うため必然的に駆逐されるのだ。ちなみに、同じ味を求める人が自宅でつくっても、よりこれじゃない感が出るため、余計に欲しくなる有様だったりする。
噂が噂を呼び人気が加速するだけではなく、味わった人が皆虜になる旨さという劇的な体験により、リピーターがひっきりなしなのである。おににぎりブームは加熱し、平和通サンロード商店街は間違いなく璃々が作ったおにぎりを中心に回っていたのだった。




