第十九話
私の選択。それは答えを先延ばしにすることだった。まだおにぎりは売り出し始めたばかり、人気なのは嬉しいけれど、自信なんて持ってない。なのに、あんなに期待をされてはプレッシャーに押しつぶされてしまうだろう。一旦ここは保留にして、この熱狂が落ち着いた頃を見計らってカミングアウトする方向に持っていくことにしたのだ。
「おにぎりの製作者のことは何も言わない。黙秘します」
途端に落胆の声があちこちから聞こえるもこればかりは仕方がないと割り切って貰う他ないのだ。和人さんが私を困らせるなとなだめてくれている。だけど、それにしたって疑問だ。
「ところで、おにぎりの人気に便乗したいって言っていたけど、商店街にお客さんが戻ってきているなら勝手にお店を開けて商売すれば良いと思うんですけど、別に頭を下げてまで許可を貰う必要ってなかったのでは?」
「それがだな……」
果物屋のおじさんこと河野さんが言うには、ただお店を開けていても目的がおにぎりなので、素通りされることが多いのだそうだ。だから、少しでも足を止めて貰える様にコラボをしたいということらしい。私は話を聞いて思ったことを口に出した。
「えーっとコラボって言っても接点や共通点がないと難しくないですか?」
「そうなんけどよ。あ! あの行列に移動販売するってのはどうだ? 待っている間、飲み物を売りに行ったり、軽く摘めるものを売ったりとかだな」
「おにぎりを買うために並んでいるのに軽食を売るなんて絶対に売れませんよ。本末転倒です」
今度は連が提案にズバッと指摘すると河野さんが更に唸りながら悩む。落ち込まないあたり、めげないタイプらしい。ポジディブだ。
「それにですね。販売するのに必要な資格はともかくとして、警察から道路利用の許可が必要なんです。しかし、それは原則祭りでもない限り降りないんです」
「えっ。そうだったのか?」
「はい。路上ライブくらいなら許可は降りる可能性がありますが、それこそ路上で勝手に販売されてしまえば、店舗を構えるお店が大打撃ですよ。それにそんなことを許しては勝手にやって来た人が商売をしてしまいます」
「あ~~~くそ~~~せっかく、儲けるチャンスだったのによぅ」
「せっかく商店街にお客さんが来てくれているのはいい流れなんですから、地道にお店を営業してやっていくのが一番じゃないですか?」
そう言って連が良い感じ? に話を纏めた時だった。ふと、頭にアイディアが浮かんだ。けど、そんなに効果があるか分からないし。あまり意味がないのかもしれない。そう思っているのが顔に出ていたらしく、それに気づいた連が話を振って来た。
「璃々。もしかして、何か良いアイディアでも思い浮かんだのか?」
「えーあー。良い案かはわからないかな。だって、あんまり儲かるって訳ではないだろうし……お店次第ってところも多いし」
しかし、私が口を開いた途端に場に居た全ての人の視線が集中した。
(こ、これは言いにくい……そんなに大したことじゃないのにぃぃ)
しかし言わない訳にはいかない。注目を浴びる中、私は指を二本立てた。
「私から提案が二つあります」
途端にどよめくおじさん達。連もこちらを目を見開いて振り向いてくる。皆、二つもアイディアがあることに驚いているみたいだけど、話を聞く前から目をキラキラさせて見つめるのは一種の圧力でしかないと気づいて欲しい。
「一つ目は割と直ぐに出来ると思います。ただ、もう一つの方は少し難しいかもしれないというか、やってみないことには良いか悪いか何とも言えないです。そのため、実験期間を設けましょう。そして町内の人限定にするとかで狭い単位でやってみたいんです。あ! 後、当然ですがお店の皆さん自身も努力して貰う必要がありますよ」
私は思いついたアイディアを話した。するとやはりパッと思いついただけなので粗が目立つ。そこで、すかさず連が補足説明をしたり、カバーする提案をしてくれる。
(連って頼りになるな……というか一人で頑張りすぎなくても頼ってもいいんだ……)
こんな時にと思うものの、私は連の横顔を見つめてしまった。が、そんな最中でも話は進む。やがて各自の意見が飛び交い提案事項がドンドン形になっていき、すっかり最後には皆がやる気がみなぎっていた。
しかし、言いだしっぺの法則で、何故かリーダーは私になっているのだけが解せない。普通は大人が主導だろう。主におにぎりを売っている店の店長たる和人さんだとか。しかし、皆は何故かノリノリだ。乗せられてしまった私は仕方なく、掛け声をあげる。
「最初は実験からのスタートですが、ゆくゆくは商店街を大賑わいにしてみせましょう! 成功には商店街の皆さんの協力が不可欠です! 皆さんよろしくお願いしいます!」
「「よろしくお願いします!!!」」
こうして何故かおにぎりを売るのと並行して商店街復興計画がスタートした。




