第十八話
意味がわからなかった。目玉がドコー状態である。連の時は勘で察知して、止めることができたものの、今度の土下座は阻止することができなかった。予測がつかなかったことも理由の一つなのだが、なにせ大人の男達が揃って本気になっての土下座なのだ。覚悟が違う。
当たり前だが、驚かない訳はなく、私はとても面食らっていた。どう対処して良いのか分からず、焦ってパニックになっていたと思う。
しかし、ここで冷静に動いたのは連だった。落ち着けと言うように私の背中を優しく叩くと、おじさん達に声をかける。どうやら連が代わりに対応してくれるみたいだ。
「なにがどうして、こんなことになっているんです? 順番に説明して貰いますよ? あんた達の言う救世主様が怯えてる」
(おい~~~! どさくさに紛れて人をからかうなよ!)
内心でツッコミを入れている中、代表者になっているらしい野菜屋のおじさんが大慌てで説明し出した。どうやら怯えさせるのは本意ではないらしい。
「お嬢さんが売っているおにぎりが人気があると聞いたんだ。だが、人気と言ってもそれ程じゃないだろうと見くびっていた。それがどうだい? 蓋を開けてみりゃ、それを買いに来る人があまりに多くってな。一時的なのかもしれんが、実は商店街に人が少しづつでも戻って来ている傾向だ。我々としても、このビックウエーブに乗るしかない! いいや、是非乗らせていただきたい」
「つまりは美味しい儲け話に一枚噛ませて欲しいって訳ですよね? 図々しいというか都合が良すぎると思わないのですか?」
「そこをどうにかお願いしたい!!! 米屋の和人だけ、売上がV字回復なんて裏やましいやら、妬ましいやらでスナックに行く頻度が増える始末だ。お陰でカミさんにバレて怒られるしよぅ」
「いや、それは普通に関係ないじゃないですか」
「しかしだね、何もこちらの店を宣伝して欲しいという訳ではないんだよ、便乗して商売するのを許して欲しい!」
野菜屋のおじさんはかなり熱を帯びた口調でヒートアップして言葉を続ける。
「平和通サンロード商店街はもうダメだとばかり思ってたんだ。閉店する店舗は増えるし、やる気の無い店ばかり。残っている他の店だって客が来ないんじゃどうしようもなかった。けどな! これは起死回生の大チャンスよ! 皆、もう一度頑張ろうと声を掛け合えばかつての賑わいが戻ってくるかもしれない! だから、頼むよ嬢ちゃん! ”伝説の料理人と繋ぎ”をとって許可を貰ってくれ!!!」
(ん?)
咄嗟に連とアイコンタクトをする。作っているのは私なのだが、伝説の料理人とはこれいかに? 一体どういう意味なのだろうか? しかし、私が混乱しているのを躊躇っているのだと思った――おじさんばかりだと思っていたが影に女性もいたらしい――果物屋のおばさんが、補足説明をしだした。
「わかるわ~。秘密の存在なのでしょう? でもねぇ、流れの伝説の料理人がいることはもう噂になっているのよ? なんでも姿は一切見せなくて、潰れそうな米屋を哀れに思って手助けしようと姿を現したのよね? でもって、まだまだ修業中の身だからって表舞台に立たないとか何とか……きっとクールなイケメンよね! きゃーーーーー!」
「イケメンだってよぉ! バカ言っちゃいけないぜ。グラマー美女って噂だぞ。美しすぎる料理人とチヤホヤされて、肝心の料理の腕を見てもらえないからと姿を隠しているんだぜ」
「そんな訳はないと思いますよ。なにせ、こんなにも美味しいおにぎりを作るのにはもう何年も何十年も修行が必要な筈です。ならば必然的に該当者は老人に決まっているじゃないですか!」
「そ、それは確かに……」
「でもぉ、そうやって聞いたんだもの!」
「本当は誰の説が正しいんだ?」
この場はカオスとかしていて、ちっとも落ち着く素振りがない。どうしようかと思っていると、ついに私までに飛び火したのだ。
「売り子のお嬢ちゃんなら会ったことがあるんじゃねぇか?」
「そうよね? 何か知ってるの?」
「なんでも良いから教えておくれよ!!」
連が前に出て抑えてくれたのだが、皆に詰め寄られてしまうのだった。
この噂をこのままにしておくか、事実を話すべきか、分かれ道だ。究極の選択。人生の分岐点な気がした。
私の選択は……━━




