第十四話
反感を抱いたのも束の間。梅さんは強かった。自分が買ったおにぎりが取られたと認識するや否や、もう一度取り返しに挑んだのだから。
「私のだよ! お返し!」
「はぁ? 嫌なこった」
おにぎりを奪おうとする梅さんと避ける不審人物。だけど、不審人物は諦めずに挑んでくる梅さんを鬱陶しく思ったらしく、なんと突き飛ばしてしまった。
「梅さん!?」
「け、ケガっ。骨折とかしてない? 大丈夫?!」
大慌てで駆け寄る志保さんと私。しかし、ソイツは全くのお構いなしの様子だった。
「はーい。とんだ邪魔が入ったけど、配信をすすめていくね。え~改めて自己紹介すると、ヨーチューバーたる僕ちゃん。名前はゆーたんでっす。皆、チャンネル登録しとけよな」
スマホに向かって語りかけているソイツは一向に悪びれた様子は微塵も感じられなかった。おばあちゃんを突き飛ばしておいて、有り得ない。私は腹が立った。だから、そのままの勢いで捲し立てる。
「はあ? ふざけないで! 配信だかなんだか知らないけど、人に乱暴してはいけませんだとか、悪いことをしてはいけませんだとかママに習わなかったの? 僕ちゃん」
「うるさいぞ、ブス。挑発してるつもりかもしれないけど、そんなの僕ちゃんにとってはどうでもいいことだし」
「挑発? バカ言わないで。常識を言っているだけでしょ。大体、あんたのやってることは強盗に暴力行為。警察呼ぶわよ。いや、だったら梅さんに謝って今すぐ出て行って」
幸いにも梅さんは転んだだけで怪我はなかったようだ。しかし、トレードマークの赤い帽子が転がってしまい埃まみれだった。志保さんが埃を払っている。梅さんはゆっくりと立ち上がると血気盛んに再びやってこようとしていたが、今度は志保さんに止められている。
「別に警察を呼びきゃ呼べば? その程度でなんて怯む僕ちゃんじゃないし……って、強盗?」
「そう! 暴力を働いて梅さんが買ったおにぎりを奪ったじゃない。この泥棒!」
悪いことをしているのにひょうひょうとしている態度がムカついた。だから、相手に少しでもダメージを与えられる様に言われたら嫌そうな言葉を投げつけたのだ。
そのせいもあり、少しだけしかめっ面した時は効果があったのかとも思ったんだけど、そんな善良さは残念ながらなかった様である。
「ふん、なら金さえ払えば問題ないでしょ。そこの老害には新しいのでも渡してあげたら? こーんなに売れ残っているんだし。ってか、こっちのボロボロなおにぎりも売り物な訳? え? やばぁ~! ねね、見てみて。カメラズームにする。てかさ、崩れかかってるし! 客にゴミを売りつけるの? キャハハ!」
私の足元に二百円を投げつける不審者迷惑男。さっきまで、あれほど神聖で輝かしいと思った二百円だったのに、床に落ちたお金は鈍い色で光を反射していた。
「はーーーい! じゃあ、コレ食べます。ってか、え? これ僕ちゃんが食べなきゃダメな感じ? こんなボッタくりな癖に貧乏臭い塩むすびなんか食べたくないし。つーか、客に出せるレベルになってから品出ししろよって言いたいね」
「……………………」
何を言ってもコイツには通じない。その悔しさから唇を噛んだ時だ。不審者迷惑男が忌々しそうにフードパックを剥ぎ取って床に放り捨てた。
そしておにぎりに大きな口でかぶりついて――――瞬時に顔色を変えたのだった。




