第十三話
決戦当日。土曜日の今日は、晴れていて客足が伸びそうな予感がする。これは期待が出来そうだといいたいが、そうもいかない。
なぜなら平和通サンロード商店街は寂れているからだ。皆無まではいかないものの、出歩いている人は限られている。そのため、いくら気合を入れたところでお客さんが来なければ意味がないということだ。
「せっかくつくってくれたのに……お客さん、来ないわねぇ。ごめんなさいね」
「いえ、別に志保さんが悪いわけではないので」
連の母親の志保さんはどこかのんびりとした様子だが、それがデフォルトなのだ。内心では本当に申し訳ないと思ってくれているのだろう。
「だけど、勿体無い。こんなに美味しいのに。私が全部買っちゃダメ?」
「ダメですって。売らないと意味ないじゃないですか。というかあんなに練習の時に食べたのにまだ飽きないんですか?」
「だって、頬っぺたが落ちるくらいに美味しいんですもの。何度だって食べたいわ。売るのが勿体無いくらいだもの。売れ残ってくれないかな~」
「あはは、ありがとうございます」
恐らくガチで言っているのだろうけど、のほほんオーラで気迫が中和されている。場に、どこかほのぼのとした空気が流れた。そんな時だ。ひょっこりと赤い帽子をかぶったおばあちゃんが顔を出した。
「どれ、聞いたよ? 新しくおにぎりを売り始めたんだって?」
「わ、梅さん。来てくれたんですか?」
「梅さん?」
「そう。二件隣で薬とか化粧品とか売っているお店をお嫁さんとやっているのよ、昔から」
「へ~じゃあ、商店街の重鎮なんですね!」
「歳食ってるだけだぁ。重鎮なんて偉そうなもんじゃねえさ」
もしかしたらおにぎりを買って言ってくれるかもしれないという期待感からお世辞を言ってみたのだけれど、予想以上にどこか嬉しそうだった。やっぱり商店街に愛着があるらしい。ここぞとばかりに押してみよう!
「どれ、見せてみい。試しに一つ買ってっちゃるよ」
「ありがとうございます! 実は2タイプあります。どちらも塩おにぎりでブランド米『がくや』を使用しています」
「ありゃまぁ。一方は割と形になっているけども、もう片方は随分と頑張って握ったもんだねぇ」
「すみません。でも、味はとっても美味しい筈、です」
ブランド米の『かぐや』は良好なものに該当するAランク判定だ。しかし、ポテンシャル自体は特Aにも値されてもおかしくないと連の父親である和人さんが太鼓判を押している。毎年コンテストは行うため、来年度は確実に特Aをとると踏んでいて、現段階では品質の良い米を比較的安く入手出来るとこの米が選ばれた。
梅さんはひょいっと気軽な手つきで、ラップで握ったものではなく、型で作った方の塩お握りを一つ手にとった。おにぎり用のフードパックに入っているので、これ以上崩れる心配はしなくて良いのだけれど、私のクオリティだとちょっとした振動で崩壊しそうな気がしてハラハラしてしまう。
「取り敢えず、食べてみようかね。どれ、二百円だよ」
「あ、ありがとうございます……!」
(わわわ、初めて私が作ったおにぎりが売れた……!)
正直、感動の瞬間だ。二百円は正直大きい金額ではないけれど、受け取るのにめちゃめちゃドキドキした。しかし、その興奮は不躾な声に遮られた。
「うへえ~~~~。なんだよ、これ。ボッタくりじゃね? 単なる塩むすびが二百円とか。コンビニですら百八円だし。僕ちゃん的には有り得ないと思う訳で。どうよ? 皆」
「これ! なにすんだい!」
「老害がなんか言ってる。ちょっと見てるだけですけど」
なんと唐突に店に入ってきたかと思えば、梅さんが持っていたおにぎりを横からぶん取ったのだ。片手に自撮り棒を持っていて、声を張り上げている。
(な、なんなのコイツ……!!)




