第十一話 金髪男side 後編
腹が減っているとはいえ、無意識に形が割と綺麗めな右側のおにぎりを取ったのは正解だったのか未だに分からない。
「うぉつ。うっま! なんだコレ?」
空腹は最高のスパイスなんて良く表現があるが、そんな可愛いものじゃない。
塩加減と米の水加減が絶妙だ。噛めば噛むほどもっと味わいたくなる。これは癖になる。
「うまっ。うまっ」
その美味しさから自然と声が出た。これはコンビニのおにぎりなんて目じゃない。
というか、中々イケるってレベルを軽く超えて来ている気がする。
(こんな塩だけの味付けなのに、こんなに美味しいなんてあり? 無限に食えそ〜。売ってたら毎日買う)
そこまで考えて、皿が空になっている事に気が付いた、つい心から悲しそうな顔をしてしまう。
彼女は笑いながら次の皿をこっちに渡してくる。
次のおにぎりはデコボコしている。形が歪であった。
しかし、不安感はない。さっきのが美味しかったから不味くはないだろうと思っていたからだ。
とはいえ、実際問題としてそれは甘い考えだった事を思い知った。
口にして、あっ、飛んだ。と思った。食ってみろ飛ぶぞと人に食べ物を勧める表現があるが、コレがそうだったのかとはっきり理解した。この感覚なのだと断言出来る。
精神が飛んでしまいそうなほど最高であり、ハイになる。正しくそれだった。
こんなことが現実に起こり得るのかと、脳みそがバグってしまったのかと思ったくらいだ。
さっき一つおにぎりを食べたとはいえ、まだまだ腹が減っていて食べたい筈なのに、空腹の欲求よりも、一口一口味わって食べたいと言う感情が勝った。
一転してじっくりと噛みしめる。
「〜〜〜〜〜っ!!」
しかし、その幸せも続かない。いつの間にか食べきってしまっていたからだ。
優しい彼女はまた悲しそうな顔をする前にと、既に最後の皿を差し出してくれていた。
それを見た時、今度は複雑な顔をしてしまう。何故なら、それは正直おにぎりの形をしているか微妙だったのだ。
形が崩れている。辛うじて形を保っているものの、おにぎり? と疑問符が飛ぶ印象だ。
二つ食べたものの満腹にはなっていない。じゃあ試しに食べてもなんて、思った。
あれだけ、彼女が作ったおにぎりを侮ってはいけないと学んでいたと言うのに。
口にして、幸福感で脳が真っ白に染まった。じんわりと言った優しさはなさった。
ガツン! と横殴りにされた衝撃だ。事前にどう予測するんだという話だが、身構えてないせいで、不意打ちでめいいっぱいの幸福感を詰め込まれた。
その衝撃を何とか耐えて乗り切った時。次いではっ、と鋭い閃きが脳裏に走る。確信したのだ。
(体が求めて止まない。今、最も自分に必要な栄養素とはコレのことだったのか……!!)
と、震えが走った。細胞規模で求めている。胃袋がぎゅうぎゅうと吸収しようと動いているのが分かるのだ。
そして、そのままぷるぷる震えること一分。あれだ。今までのおにぎりとは何だったのだろうか。
(単なる米か。米の塊か)
先ほどコンビニのと比較してしまったが、何で愚かだったんだ。
比べる事すらおこがましい。もう他のおにぎりは食べられない気がする。
いや、なまじっか食べられたとしても到底美味しいと感じることはないだろう。
このおにぎりを食べられる幸運に感謝しながら、最後の一口まで堪能したのだった。
(美味しさはケタ違いだけど、昔、母さんが作ってくれたおにぎりに似てるかもな。見た目だけは……)




