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6 オーフェンにて


春が過ぎ、季節は夏になっていた。


あれから私とクトリの二人旅が始まり、港町のオーフェンまでやって来た。


この国の海上貿易の要衝であり、様々な文化圏の人々が入り混じりあう異国情緒に溢れた場所だ。

街を歩けば、様々な言語が耳に飛び込んできて、その賑わいは王都以上かもしれない。


「5年前とはまた大きく変わったな、この街は。夜にもこの賑わい⋯⋯前じゃ考えられなかった」


私は以前、この街の憲兵として駐屯していた事がある。

5年前の内戦下では、国防上重要なこの街には全域に戒厳令が敷かれていて、軍政の元統治されていた。

街は常に監視下に置かれ、陰鬱とした雰囲気が漂っていたが、今ではすっかりその彩りを取り戻した様だ。


そして今回、この街に立ち寄る予定はなかったのだが、クトリに関してある人を頼りに、急遽立ち寄ることにした。


今は待ち合わせした酒場にクトリと一緒に向かっている所だ。


『この街に来たことがあるんですか?』


「あぁ、以前に仕事でね」


メモ用紙をこちらに差し出す彼女を横目に、私はそう答える。


医者は失声症は一時的なものだと、そう言っていたが、2ヶ月以上たった今、彼女に治る気配はあまりない。


時折微笑したり、感情を微かに表に出す事はあるが、本来の彼女からはおよそ遠い状態が続いている。


「あの曲がり角を右に曲がれば目的地だよ」


私がそう言うと、彼女はこくりと頷いた。


程なくして、その酒場に到着し中に入ると、何やら物々しい雰囲気になっていた。


「おい、テメェのその酒を飲んだのはどいつだ! 言ってみろ!」


ガタイのいい男が一人怒鳴り散らしてい

た。


「う、あ⋯⋯」


「大丈夫だよ、隠れて」


わたしは怯えるクトリを後ろにした。


「おい、聞いてんのかお前!」


どうやら彼が少し目を離した隙に何者かによって自身の酒を飲まれたらしい。

そして当の犯人らしき男はというと──優雅に酒を嗜んでいた。それもマイペースに二杯目を注文した所だ。


「だから知らないって言ってるだろう?

キミは酔いすぎだ、ガタイがいいのに案外酒に弱いんだね」


と、その男が挑発するように言った。


「上等だコラァ! 」


男は叫ぶと、あろうことかその男の持っていたグラスを床に叩きつけた。

ガラスが割れる音が鳴り響き、それと同時に酒場にいた客たちが騒ぎ出す。


「テメェ! どうなるか分かってんだろうな!」


そう叫ぶと男は突然掴みかかった。


しかし── 次の瞬間には既にその男は地面へと組み伏せられていた。


その動きは流麗で無駄がなく、目で追う事すらできなかった。体格では明らかに男の方が上回っているにも関わらず、片手でそれを制し、見事な足払いでその巨体を宙に舞わせて見せた。


「これは正当防衛だからね。文句は受け付けないぞ」


そう言うと、酒場に居合わせた客たちに向かって不敵に笑ってみせた。


「おい、マルファ! ウチの店で騒ぎを起こすんじゃねぇ! 何回目だと思ってる!」


「あぁすまないよマスター、この男は私がちゃんと処理しておきますから」


「いや、だからそう言う話じゃ⋯⋯はぁ、まぁいい⋯⋯さっさと外にやってくれ」


「かしこまりました」


マルファと呼ばれたその男。

他でもない、今回この街にわざわざ立ち寄った目的の男だ。


「さてと⋯⋯」 


そして彼は私とクトリのいる方を見た。

しっかりと整えられた髪を今一度整え、彼はこう言った。


「ここじゃ何ですから⋯⋯場所を変えて話しましょうか、キルホフさん」


そこにはなんとも不気味な笑顔が貼り付けられていた。

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