ep54 変化
*
午前中。
かるく朝の勉強をしてから、俺は外をランニングしていた。
そう。最近はこれが日課になりはじめていた。
いくら不登校とはいえ、俺も最低限の体力はつけておかなければならないと思ったからだ。
「はっ、はっ、はっ」
「大丈夫か?フミヒロ」
「ああ、うん。大丈夫だよ。それよりトラエ、付き合ってくれてありがとう」
「こういうのはワタシの〔ストロングプログラム〕の管轄だしな」
トラエとの一件は、今の自分自身について改めて色々と考え直させられた。
かなりの荒療治ではあったけど。
まあ物事の良し悪しは別として、きっかけにはなったということ。
「フミヒロ。そろそろだ。クールダウンして家に戻るぞ」
「ああ、うん」
「水分だ。飲んでおけ」
「ありがとう」
幸い、あれからトラエはずいぶんと丸くなってくれたので、今となっては俺にとって心強いパートナーになりつつあった。
もちろん今でも厳しく感じるところはあるけど、なんというか...ネーコよりもずっと真面目で、良いお姉さんという感じだった。
ネーコは優しいけど、トラエは頼り甲斐があって頼もしかった。
「おかえりなさいませ。フミヒロ様」
「ただいま、ネーコ」
「......」
「ネーコ?」
「なんでもありません」
「そう?ならいいけど...」
「......」
「?」
ただひとつ、若干気になることがある。
トラエが良い感じになったのに比例して、ネーコが大人しくなったような気がする。
実はここ数日、〔セクシープログラム〕も鳴りを潜めている。
今朝もネーコ自身ではなくトラエにやらせていたし。
「気のせい...かな」
俺は部屋でひとり、勉強机に向かいながらつぶやいた。
「アンドロイドも、元気がなくなったりするのかなぁ」
ネーコは自分やトラエにも感情があると言った。
それは人間と同じように気分が落ち込んだりするようなこともあるということなのだろうか?
「......」
ちょっと待て。
なんで俺はネーコのことばかり考えているんだ?
ネーコが大人しくなったのなら、それはいいことじゃないか!
そのぶん困らされることもなくなるんだ!
俺はトラエと体力をつけながら、あとは静かに勉強に集中すればいいんだ。
そうすれば近い将来、不登校から立ち直れる日もやって来るはず......。
「フミヒロ様。どうぞお召し上がりください」
昼。
いつものようにネーコが給食メニューを用意してくれた。
「うん、ありがとう。いただきます」
食卓についた俺は、いつもどおり昼食を食べはじめる。
「それでは私は席を外していますね。何かあればいつでもお声がけください」
ネーコはすぐに立ち去ろうとした。
「あっ!ネーコ!」
俺は思わずネーコを引きとめた。
「フミヒロ様?」
「あっ、ええっと...」
「どうしたのですか?」
「いや、その......ネーコは、元気なかったり、する?」
「え?私が...ですか?」
「いや、なんとなく、だけど」
「フミヒロ様。ネーコはアンドロイドですよ?」
「でもアンドロイドにも感情はあるんだろ?」
「まあ、そうですけど......。でも、なぜネーコに元気がないと思ったのですか?」
「な、なんとなくだよ!なんとなく!(セクシープログラムはどうしたの?とは言えない!)」
「......では気のせいですよ、それは。きっとフミヒロ様の気のせいです」
「そう。ならいいんだけど...」
「はい。では私は失礼しますね」
ネーコは薄く微笑んでスッと退出していった。
(やっぱり......ちょっと違う気がする...)
改めて俺は思った。
でも、改めて思ってみても、それが何なのかはよくわからなかった。
俺はひとり、物思いにふけりながら箸を進めた。
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