最終話 ともだちになってください!
翌朝。
私は自分の目を疑っていた。どうして下級寮までアシュレイ殿下が足を運んでいるのだろうか。誰を迎えに来ているのかな? それは大層ロマンチックだね?
その相手が私、ミーリャ=フォン=デイバッハ以外ならば。
「何しに来たんですか。あなたが余計な行動をするたびに護衛の人たちの仕事が増えているんですよ?」
「つれないなぁ。婚約者と少しでも一緒に居たいという気持ちがわからない?」
「わかりません。私は猫と女の子にしか興味ありませんので」
そしてもうひとつ、おかしな光景を目にすることになる。
私の教室の前で高貴な令嬢が頭を下げているのだ。
特に声をかけてくるわけでもない。ただ誰かに声をかけてもらえるように、ずっと。
そんな光景を前に、殿下が私の頭に無駄に唇を落とす。……うん、これは猫に舐められたようなものだ。気にしたら負けである。
しかもあろうことか、殿下は耳打ちするわけでもなく堂々聞いてきた。
「それにしても、どうしてテラスなんて人の多いところで断罪なんてしたの? デイバッハ家を敵に回したら怖いってことを見せしめるため?」
「そんなわけないじゃないですか。殿下に邪魔されたけど、私はあの後でさらに交換条件を出す予定だったんですよ」
「おや、意外と計算高いね?」
そんな軽口を話しているのに、彼女・セレニカ=フォン=コンスタンチェさんは一向に頭をあげる気配がない。
「お願いがあります」
「なんなりと」
「本当に詫びるつもりがあるなら、謝罪をいただけますか――ごめんね、と」
そう、私が真剣に告げると。
セレニカさんが一瞬、驚いたように顔をあげる。私と目が合うやいなや、すぐに頭を下げてしまうけれど。
「その節は、大変申し訳ございませんでした」
「いいよ!」
「え?」
再び、セレニカさんが顔をあげる。後ろの殿下は笑いを堪えている様子だ。こう見られているとすごく恥ずかしいけれど……今言えないと、きっと永遠に言えないだろう。
だから、私は勇気を出して告げる。
「『ごめんね』って言われて、『いいよ』て返したら、それで喧嘩はおしまい……ですよね? ……ともだちなら」
セレニカさんの心拍数、眼球運動から読み取れる感情は単純だった。
『信じられない』その感情を隠すことなく、彼女は疑問を返してくる。
「あなた……思いのほかひどい女ね」
「ごめんなさいっ!」
そんなに手汗がひどかったかと、私は慌てて服で拭くも。
セレニカさんは「違うわよ」と嘆息する。
「勝てる見込みのない恋敵と友達になれとか……拷問に近いじゃない」
「なんでですか、私はただセレニカさんといつかパジャマパーティーができたらなって」
「それで二人の惚気話を一晩中聞けっていうの? 精神的苦痛も甚だしいわ」
「ちがうっ、本当にそういうつもりじゃ――」
私は持ちうる限りの少ない語彙で説得しようとするも、背後から殿下が言葉のナイフを刺してくる。
「それは正直、俺も思った。いやぁ、さすがデイバッハ家だなって」
「えぇ~~⁉」
誰も逆さづりで一晩過ごせとか、爪を剥ぐとか言ってないのに⁉
私が非難の声をあげると、セレニカさんがクスクスと笑い始める。
その目端にはうっすら涙が滲んでいた。
だけど、彼女の顔がどこかスッキリしている。いたずらな顔がとても愛らしい。
ひとめでわかった。この人は今、初めて私を受け入れてくれたんだと。
だから、私は改めて用意していたお菓子を差し出す。
「これからどうぞよろしくお願いします!」
すると、セレニカさんは悪い顔で笑う。
「――この、悪魔令嬢め」
【悪魔令嬢はともだちがほしい!! ~友達はいないけど猫ならいる。だから殿下の溺愛はいりません! 完】
最後までお読みいただきありがとうございました!
物騒だけどかわいそかわいいヒロインを目指してみたのですが、いかがでしたでしょうか?
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どうかよろしくお願いします。
ちなみに、本当は「婚約者候補4人」の中にミーリャも入ったよエンドにする予定を、それでは【完結】としての後味が微妙かと思って急遽変更しました。
なので、もし長編化するならキスする箇所をほっぺあたりにして呪いを維持、そしてミーリャが他の婚約者候補と一人ずつ友達になっていく……みたいな流れですかね。
出版社の方々、ご参考にしていただければと思います(強欲)
また要望が多くあがるようでしたら長編連載版も検討しますので、読者の皆様も感想いただけると嬉しいです。
私は悪魔宰相パパが書きたいです。ぜったいに娘らぶ。兄弟も妹らぶ。
最後に、↓のランキングタグ部分に【4月10日】に発売する新刊の表紙と公式サイトへのリンクを置いてあります。よろしければチェックしてみてください。
「戦うイケメン中編コンテスト」で受賞した、イケメンがわちゃわちゃ運び屋を営むお仕事ものです。
それでは、本作が皆様の有意義な暇つぶしになれたことを願って
ゆいレギナ