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この恋心は時を超えて  作者: 薄氷さくら
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出会い

『俺を呼んだのは、おまえか?』

黒く深い霧の中からゆっくりと実体が現れた。

少し長めの黒髪で端正な顔立ちの男だった。

そして、その男は透き通った金色の瞳で私を見た。

驚くほど冷たい視線で私は思わず目を逸らした。

『何も言えないなら俺がお前を消してやろう。』

そういうと、私の体は強く締め上げられた。

直接ではなく間接的な目には見えないものだった。

苦しく息もできなかったが私はそれを受け入れた。

私さえいなければ、あの家族も幸せだった。

いま受けているのはその罰だと。

そして、あの時感情を置いてきた私は何も感じることはできなかった。

『お前はなぜ苦しみを見せない?どうして許しを乞うたり、死に怯えたりしないのだ?』

男は怪訝な表情で私を見た。

それでも私は黙って苦しみを受け入れ続けた。

すると、次第に見えない力が弱まっていく。

死すらも怯えず、純粋にただ苦しみを受け入れている私に不思議と男は興味を持った。

私を締め付けていた見えない力はなくなり自由になった。

思ったより体に負担は少なく、すぐ動くことができた。

水面を見ると、頬には血と土がこびりつき、顔色は酷く、短い茶色の髪の毛がばさばさと広がっている自分の顔が映った。

少し小さめの手も土と血がこびりつき汚れていたので、水につけ綺麗にする。

そして、その手で水をすくい顔を洗った。

髪の毛も指ですくようにして少し整える。

その間、男は自分の顎を触りながら考えるようにじっと眺めていた。

『お前は、悪魔の俺が怖くないのか?』

私は黙って頷く。

そして、1人で森の中に入り果物を取りに行った。

男の分も合わせて少し多めに持って帰り、そっと渡した。

『俺はいらない。』

そういうと男は私に果物をそっと返した。

私はその果物に齧りつきお腹を満たした。

そして夜が近づき寝床がなかったので、近くにあった浅い洞穴で一晩過ごした。

次の日、穴から出ると男がいた。

『いるか?』

そう言って昨日取った果物と同じものを手渡す。

私は黙って頷き、果物を齧った。

食べ終えると次は近くに何かないか見て回ることにした。

すると、小さな家を見つけた。

もう随分と使われていない様子で、あちこちがボロボロに荒れていた。

中に入ると埃が溜まっていてかなりの間放置されていた様子だった。

私は部屋の中を少し歩き回り使えそうなものを探した。

そこで見つけた布切れと辛うじて底に穴の空いていないようなバケツを持って、先ほどの水辺で水を汲んだ。

家に戻り布切れを濡らし、まずはテーブルと椅子を拭いた。

長年放置されていた家具についた埃は拭いても拭いてもなかなか綺麗にならず何度も拭きなおしていた。

男は私のそばでその様子を黙って見ていたが痺れを切らし言った。

『そんなんじゃ、何日経っても終わらない。』

そういうと男はサッと手をかざし振り下げた。

すると家全体が綺麗になり、まるで新しく建てたばかりのようになった。

私は黙って頭を下げた。

そして、汚くなったボロボロの布を洗いに行った。


その日の夜は、昨日と比べものにならないくらい快適だった。

この家にあったものは全て綺麗に新しいもののようになり、ベッドやお風呂、キッチンまでもが使えるようになっていた。

そして、布団やタオル、衣類、消耗品など家にあったもの全てが新しくになっていた。

私は汚れた服を脱ぎ、お風呂に入り、この家にあった服を着て眠った。

朝起きると、男が同じ果物を持ってきてくれた。

私は黙って頭を下げて、今日もまたその果物を齧る。

それからというもの自然と一緒に行動するようになった。

ただ会話はほとんどなかった。

いつも男が話すことに頷くか首を振るかだけ。何も答えず黙っていることも多かった。

しかし、一緒にいることで空気感が合うようになり、お互い少し警戒心解かれ始めていた。

そんなある日男は言った。

『あの時は痛めつけてしまってすまなかった。』

男は申し訳なさそうに私を見た。

『言い訳になってしまうが聞いて欲しい。』

そういうと男は真剣な表情で話し始めた。

『悪魔を呼び出す条件は未だにわかっていない。しかし、呼び出した人間は皆、悪意を持って俺を利用し多くの罪のない人の命を奪い、争いを生み出した。時には幼い子供に呼び出されることもあったが、その子供も例外ではなく多くの人を苦しめた。』

男は苦しそうに話を続ける。

『ただ人間の悪意に漬け込まれる日々。俺は孤独だった。悪魔といえども心はあった。だから、呼び出した人間にあえて恐怖を与えることで俺は逃げてきた。謝っても済むことではないが、お前を怖がらせて本当にすまなかったと思っている。』

そういうと男は少し悲しそうな表情をした。

そして1人部屋を出た。

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