神殿
一体どのくらい走ったかわからないが、少し先に白い建物が見えてきた。
人の気配は全くない。そこはこの世界と隔離されたかのような異様なものだった。
私が中に入ると、全面が白い素材の石で作られていた。
長い廊下の先を行くと何もない広間にでた。
少し歩いて行くと星が降ってきたかのように一面が光り輝いた。
すると、光の中から金色のロングヘアの少女が姿を見せた。
『私はこの神殿を守っているシエルです。あなたはどうしてここに?』
私はこの不思議な出来事に理解が追いつかなかった。
シエルという少女は、私のボロボロの姿を見て何か察したように話を続けた。
『ここはもう随分と誰も来ていませんでした。以前は魔力を持つ者と持たない者が互いに手を取り合い生活していました。しかし聖女の祈りがなくなり彼らは争うようになったのです。』
シエルは悲しそうな表情で言った。
どのくらい昔の出来事かはわからないが、きっと聖女がいたからこの世界は平和であったのだろうと私は理解した。
それなら、私が聖女だったらこの世界を変えることができるのかと思った。
そして、私の言いたいことを汲み取ってくれたシエルは答えた。
『貴方は残念ながら聖女の素質はありません。ただ、ここに辿り着いたのも何かの縁でしょう。』
そういうと、シエルは手から出た小さい光を私に向かって解き放った。
小さな光は、ふわふわと私の方に飛んできて、ポケットの中に入っていた魔法石に吸い込まれた。
『貴方は幸いにも魔法石と魔力を持っているようだったので、私の加護を授けます。導きの魔法はきっと貴方を正しいところに連れていってくれるでしょう。』
そういうと、シエルは星のような光たちと共に姿を消した。
私は今あった出来事が非現実すぎて、しばらくその場を動けずにいた。
すると、先ほどシエルが授けた光を吸い込んだ魔法石がポケットの中で小さく光を放ち出てきてた。
まるでついてこいと言わんばかりにそれは浮遊しながら進んでいく。
その小さな光を追いかけると、そこは静かな水辺だった。
底が見えるくらい澄んでいて魚も泳いでいる。
周りは木々に囲まれていて風の優しい音しか聞こえないような澄み切った場所だった。
先ほどまで光りながら浮遊していた魔法石はすっぽりと私の手の中に収まった。
すると突如、昼間だったはずなのに水辺は暗く深い霧に覆われ木々は激しく風も嵐のように吹き荒れた。