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この恋心は時を超えて  作者: 薄氷さくら
3/21

記憶

***

『今日はいい天気ね。』

私は姉に話しかけた。

『そうね。森の果物も食べ頃だわ。そうだ、今日はお散歩に行きましょう。』

風が吹き、姉の少し赤みがかった長い髪をふわりとさせた。

『僕も一緒に行きたい。』

後ろから赤い髪の可愛らしい顔つきの弟が近づいてきた。

『あんたたち、家のこともしないで何してるんだい!』

恰幅のいい母は明るい声で3人を叱った。

『母さんをあんまり怒らせるんじゃないぞ。遊びに行くのは家のことが終わってからだ。』

短髪で少し細身の笑顔が優しい父は言った。

『はーい。』

3人は大人しく家の手伝いを始めた。


私は幼い頃、森に捨てられていたところをこの家族に拾ってもらった。

どうやら魔力を持って生まれたきたようで、この森に捨てられたていたらしい。

もともとはもう少し街の近くに住んでいたが、魔力を持つ私を拾ってから、さらに森の奥のこの家に住むようになったのだという。

なんとも魔力というのは厄介だなと思った。

使えもしないのに、見つかれば処分されてしまうそうだ。

私はいつもポケットに入れている透き通った金色の魔法石を恨めしそうに見た。


私たちが家の仕事を手伝っていると、ワクワクした表情で弟が話しかけてきた。

『ねえ、明日のお祭り楽しみだね。』

『ちょっと!その話は…。』

姉と弟は少し気まずそうにした。

『気にしないで、全然大丈夫だから。たくさんお土産買ってきてね。』

私は2人に気を遣わさないように無邪気にニッコリと笑った。

明日はお祭りなのだが、私は魔力を持っているため街に出ることができない。

2人は顔を見合わせて言った。

『そうだ。こっそり私たちと一緒に行ってみない?誰にも内緒で、少しだけ。』

『僕のフード貸してあげるから一緒に行こうよ。あんなにたくさん人もいるんだし誰も僕たちのことなんて気にしないって。』

そういうと2人は私の手を握った。

『いいの?』

私は行ったこともないお祭りに胸をわくわくさせた。


お祭りの日、姉と弟が先に家を出て、次に私が森へ散歩しに行くと言って家を出る作戦でいくことにした。

『森に散歩しにいってくるね。』

『遅くなる前に帰るんだよ。』

いつものように母が声をかけた。

私が少し森の方に歩くと2人の声がした。

『こっちこっち。』

声の聞こえる方に小走りで向かった。

見つからないように、弟から貸してもらった灰色のフードを被る。

3人で行った初めてのお祭りはとても楽しかった。

見たこともないようなお菓子や飲み物、おもちゃもいろいろあった。

人混みに驚き、賑やかで綺麗な街の装飾に感動を覚えた。

『2人のおかげで初めてお祭りに来ることができたわ。今日はとっても楽しかった。ありがとう。』

私は興奮して顔を赤くさせながら2人の手を握った。

『僕たちも楽しかったよ。ねえ?姉ちゃん。』

『ええ、とっても楽しかった。また一緒に来年も行きましょう。』

3人とも笑顔でとても楽しそうにしていた。

ただその陰で誰かが見ていたことに気付かずに。


次の日、弟が熱を出した。

『こりゃあ、昨日のお祭りはしゃぎすぎたんだろうね。ゆっくりベッドでお休み。』

母はそういうと弟に布団をかけ、額にのせる冷たいタオルを取りに行った。

『大丈夫?』

『大丈夫だよ。はやく元気になって遊びたいな。』

弟は私を心配させないように、熱により赤くなった顔でにっこりと笑った。

そんな弟を見ていると早くよくなってもらいたいと思った。

そこで、私は1人で森に果物を取りに行くことにした。

『ちょっと、森に果物を取りに行ってくるね。』

『気をつけてお行き。今日はあの子の好きなシチューだからね。早く帰ってくるんだよ。』

そう母に言われ、私は急いで森に向かった。

幸いにも果物はすぐに見つかった。

私はそれをちぎり、カゴに入れる。

いくつかカゴに入れたところで私は家に帰ることにした。


緑の屋根を目印に戻る。

しかし家の近くまで来ると、そこはいつもと違う雰囲気が漂っていた。

兵士のような男たちが家の周りをうろついていた。

男たちがその場を去るとこっそり家の中に入った。

私は小さく悲鳴をあげた。

家具や壁紙はぐちゃぐちゃにされ、私を拾い我が子のように育ててくれた両親と、本当の家族のように仲良くしてくれた姉と弟は、私の知らない人のように変わり果てた状態で倒れている。

昨日、街のお祭りに行ってはいけないと言われていたのに行ってしまったことを後悔した。

きっとそのときに見つかって跡をつけられていたんだ。

私のせいで。

床に膝から崩れ落ちた。

頬を流れる涙を止めようと手で拭うが、床についた拍子に手に付いた血で顔が汚れる。

もはやそんなことも気にならないほど気が動転していた。

なんてことをしてしまったんだろう。

私が約束さえ守っていれば。

声を殺して泣いた。

そして、この現実から逃れたいという一心で私は家を出て走り出した。

無我夢中で走る。

行くあてもなく森の奥へ奥へと走っていった。

途中、石に躓き転んで膝に怪我をした。

体は土で汚れ、顔はあの時の血が乾いてこびりついている。

どうして、ただ当たり前の幸せが皆平等に来ないのか。

魔力を持って生まれたってだけで処分されたり、なんでそんなに酷いこと受けなければならないのか。

そして罪のない人の命を何の躊躇いもなく奪ってしまうのかと。

私は深くこの世界に憎悪した。

そして、私はその気持ちを最後に感情を全て置いった。

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