家族
着いたのは赤い屋根の少し大きな家。
「ちょっと待ってて。」
そういうと少年はドアを開け、先に中に入っていった。
「母さん、ちょっと来て!」
「ルークそんなに慌ててどうしたんだい?」
少年に手を引かれ、恰幅のいい女の人が出てきた。
「おや?誰だい?」
「家に帰る途中で倒れてたから連れてきたんだ。」
女の人は心配そうに私を見た。
「あんた大丈夫かい?それにしても、見たことない格好だね。」
彼女は不思議そうに私を見た。
「とりあえず、その格好じゃ目立つから中に入っといで。」
女の人は私をリビングまで案内した。
「いま紅茶を淹れてくるからここに座って、ちょっと待ってておくれ。」
彼女は足早にキッチンに入って行った。
椅子に座ると赤い髪の少年と目が合った。
「そういえば、自己紹介してなかったよね。僕はルーク。お姉ちゃん、名前は?」
ルークはにっこりと笑った。
「えっと、私は…リオ。」
「リオお姉ちゃんかぁ、よろしくね。」
ルークは私と握手をした。
こうしているうちにキッチンから女の人が戻ってきた。
「さあ、飲んでおくれ。」
テーブルの上にカップを置く。
「ところで、あんたは名前は?」
「…リオです。」
「あたしはリーゼ、この子の母親だよ。」
リーゼはにっこりと笑った。
「リオはどこからきたんだい?この服といい、ここら辺じゃなさそうだけども。」
「えっと…わかりません。気づいたらここに。」
「わからないってあんた、ここに来た記憶がないのかい?」
私は黙って頷いた。
「あっ、ただこれを持っていたらここに…。」
そういうと、私はポケットに入れていた透き通った金色のガラス玉のようなものを出した。
「リオお姉ちゃん…これって…。」
「あんたこれ魔法石じゃないかい!早くしまいな!」
険しい表情の2人に私は驚き、すぐにポケットに戻した。
「これどうしたんだい?」
「私の部屋に落ちてきたんです。それに触れて、気づいたらここに…。」
私は不安になり俯きながら話した。
「あんた、これはね魔法石っていうんだ。魔力を持つものはこの魔法石を手に握って生まれてくる。でもね、ここでは魔力を持って生まれたものは、反乱の可能性があるとみなされ処分されるんだよ。」
「処分…!?でも、魔力を持って生まれたってだけで、なんでそんなに酷いことを…。」
「リオ、あんたは優しいんだね。」
そういうとリーゼは優しく微笑み、真剣な表情で話し始めた。
「昔はね、魔力を持つ者と持たない者が互いに手を取り合い生活していたんだ。しかし次第に両者が対立するようになり、魔力を持たない者が持つ者を排除し始めた。もともと魔力を持つ者は少なかったから滅びるのはあっという間だったらしい。」
リーゼは少し悲しそうな表情だった。
「そんなことがあったんですね…。」
こんな話をさせてしまったことに少し罪悪感を抱きながら、リーゼの淹れてくれたテーブルの上のカップに目線を逸らした。
「それでも一定数の魔力を持つ者が生まれてくることがわかった。しかし、そういった者は生まれながらに殺められたり森に捨てられたりしたんだよ。きっと生きてはいけなかっただろうね。」
そういうとリーゼはカップの紅茶をグッと飲んだ。
「とりあえず、あんたも飲み物を飲んで少しゆっくりしな。この後のことは落ち着いてから考えるよ。」
しばらく、ルークと一緒にリビングにいると玄関のドアが開く音がした。
「おーい、帰ったぞ。」
「お母さん、ただいま。」
「父さん、姉ちゃんおかえり!」
ルークは2人に向かって走っていった。
「おや?お客さんかい?」
「外で倒れてて心配だったから連れてきた。」
「あの…すみません。はじめまして、リオといいます。」
私は申し訳なくなり頭を下げた。
「いやいや、気にしないでゆっくり休んでおくれ。私はルークの父のロイだ。」
「私はルークの姉のローズよ。」
短髪で少し細身のロイと、長く少し赤みがかった髪のローズはにっこりと笑った。
「おかえり!あんたたちも早く手を洗っておいで、そろそろお昼ご飯の時間だよ。」
リーゼがキッチンから大きな声で言った。
2人がリビングに戻ってくると、リーゼは先ほどルークと3人で話したこと伝えた。
話を聞き終わるとロイは悩みながら言った。
「リオさんは、行くあてもないんだよね?」
私は黙って頷いた。
「この森のさらに奥に今は使っていない家があるんだ。昔は避暑地として使っていたが今はもう使っていない。誰も寄り付かず街からはかなり遠くて不便だが、しばらくそこを使わないかい?」
「いや、そんな申し訳ないです…。」
「でも、あんた行くあてないんだろ?」
リーゼがグッと話に割り入ってきた。
「本当はあんたもうちにいてもらえばいいんだけどね…。」
彼女は考え込むように言った。
「奴らに見つかるといけないんだよ。」
「奴らって?」
「敏感に魔力を感じ取ることができる兵士だよ。そういった奴を使って、かろうじて生き延びた魔力を持つ者も徹底的に排除していってるんだ。」
「そんなの…ひどい。」
私は思わず顔をしかめた。
「この森の奥の家だったらきっと見つからないだろうからそこに行きな。遠慮なんてする必要ないよ!これも何かの縁さ。」
リーゼは豪快に言った。
「…すみません。ありがとうございます。」
そう言うと私は頭を下げた。
「じゃあ、みんな今日はシチューだよ。リオ、あんたも食べていきな。」
シチューに喜ぶルークとローズがキッチンに手伝いに行った。
そして、テーブルの上の具材がゴロゴロ入ったシチューが並べられた。
「いただきます。」
一口食べると何故だか涙が溢れてきた。
「リオお姉ちゃんもシチュー好きなの?」
大好きなシチューを口いっぱい頬張る無邪気なルークを見て、私は微笑み頷いた。
食べ終わるとルークとローズに森の奥の家を案内してもらうことになった。
「あんた、これも持って行きな。」
そういうとリーゼは食料や着替えなどを紙袋に詰めて渡してくれた。
「リオさん、何かあったらいつでもおいで。」
ロイは優しく微笑んだ。
こうして2人に見送られ、森の奥の家に向かった。
かなり深い道を3人で歩いていくと緑の屋根の家が見えてきた。
「ついたよ!」
ルークは家の鍵を渡した。
「リオさん、またうちに来てね。」
ローズは少し赤みかかった長い髪をふわりとさせながら手を振る。
「じゃあ、リオお姉ちゃんこれで僕たちは帰るからね。」
そういうとルークとローズは帰っていった。
とりあえず、家の鍵を開けて中に入ってみる。
定期的に掃除には来ていたようで、中は綺麗に片付けられていた。
家の中で少し休んだ後、私は外に散歩しに行くことにした。
するとポケットの中に入れていた魔法石が小さく光を放ち中から出てきてた。
まるでついてこいと言わんばかりに、それは浮遊しながら進んでいく。
それを追いかけていると水辺に辿り着いた。
底が見えるくらい澄んでいて魚も泳いでいる。
周りは木々に囲まれていて風の優しい音が聞こえる澄み切った場所だった。
なんだか懐かしい気持ちになった。
役目を終えた魔法石は私の手の中に収まった。
そのとき突如、昼間だったはずなのに水辺は暗く深い霧に覆われ木々は激しく風も嵐のように吹き荒れた。
すると、霧の中からゆっくりと何かが現れた。
少し長めの黒髪で驚くほど端正な顔立ちの男だった。
彼はすごく愛おしそうに、私を見た。
「…ずっと待ってた。これは君に返すよ。」
透き通った低い何処となく懐かしい声。
そして、私の頭の中に何かが流れ込んできた。