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この恋心は時を超えて  作者: 薄氷さくら
16/21

悪魔

「ジェラルド、久しぶりだな。」

客間に入ると金髪の優しげな男がジェラルドに親しげに話しかけてきた。

「ああ、ルシード久しぶりだな。」

「ようやく、こっちの世界に戻ってこれたんだよ。本当人間って欲深くて悪意に満ちた奴ばかりで嫌になるよ。」

ルシードは口にした後に私の存在に気づいた。

「へぇ、この子があの例の子か。あ、ごめん!つい人間の悪口を言ってしまった。君のことは悪く思ってないからね。」

ルシードは軽く私の手をとり握った。

それをジェラルドがサッと払う。

「気安く触るな。」

「へぇ〜、ジェラルドもそんな顔するんだ。」

少しニヤつきながら、ルシードは軽口を叩く。

ジェラルドの冷めたオーラが全開になったところで、気まずくなる前に私は尋ねた。

「あのルシードさんとジェラルドってどういう関係なんですか?」

「えっと、僕たちはね昔からの友人なんだ。次期魔王を争ってるってところかな?」

ルシードは軽く笑い流した。

「次期魔王…?」

「あれ?知らなかった?ジェラルドってとっても強いんだよ。」

ジェラルドを揶揄うように言った。

「おまえも変わらないだろ?」

「ふふふ。まあね。」

2人の仲良さそうな会話に私もつい頬が緩む。

「なんか君は不思議だね。悪意がないっていうか…なんか可愛い。」

ルシードの赤い瞳が私をじっと見つめる。

すぐにジェラルドが庇うように私を少し後ろに下げた。

「あんまり見るな。」

少しニヤつくルシードをジェラルドが冷たく見る。

「ごめん、ごめん。揶揄いすぎた。」

そして、ルシードはサッと真顔に変わった。

「ここからが本題。魔王に奇跡の聖女の存在が知られた。」

ジェラルドも険しい顔になる。

「魔王も力が弱ってきて、なりふり構わなくなってきているみたいだから、ジェラルドも気をつけて。」

「ああ。わざわざすまない。」

「いえいえ。じゃあ、えっと…。」

ルシードが私をチラリと見た。

「あの、リオです。」

「リオちゃんか!名前も可愛いね。じゃあまたね〜。」

ルシードは軽く手を振り部屋を出ていった。

その横でジェラルドが少し冷たいオーラを出していた。


「じゃあ、俺は少しやることがあるから書斎に行ってくる。君は先に部屋に戻って寝てていいから。」

そういうと、アンナを呼んだ。

するとすぐに部屋をノックする音がした。

「どうぞ。」

そういうと、アンナが部屋に入ってきた。

「ジェラルド様、いかがされましたか?」

「俺は書斎に行くからリオを頼む。」

「かしこまりました。では、リオ様お部屋の方に向かいましょう。」

アンナにエスコートされながら私は部屋に戻った。

「リオ様、何かしたいことなどあればお申し付けください。」

「うーん、あっ!お風呂に入りたいんですけど、使っても大丈夫ですか?」

そういうと、アンナは優しく微笑んだ。

「かしこまりました。では、私がお手伝いさせていただきます。」

「いやいや、教えていただくだけで大丈夫ですので。」

「いえ、そういうわけにはいきません。私にお任せ下さい。」

「…じゃあ、よろしくお願いします。」

私はアンナの押しに負け、手伝いを頼むことにした。


「リオ様のお肌はとてもきめが細かく、色白でお綺麗ですね。」

アンナは私をマッサージしながら言う。

「…いや、そんな恥ずかしいです。」

「ふふ。そんなにご謙遜なさらず。では髪の毛もお手入れさせていただきますね。」

そういうと、アンナは髪を優しく洗い始めた。

アンナの髪を洗う手が心地よく私は彼女に身を任せた。

快適なお風呂時間を過ごすとアンナの用意してくれたシンプルなワンピースのようなナイトウエアに着替えた。

そして髪を乾かしてくれる。

「リオ様、髪の毛は少し纏められますか?それとも下ろしたままにされますか?」

「じゃあ、そのままでお願いします。」

「かしこまりました。」

アンナは笑顔で返事をした。

そして私の栗色の髪を丁寧にとき、軽くオイルをつける。

ふわりと香る甘くフルーティーな香りが心地よい。

いつもよりサラサラ艶々の髪になった。

「アンナさん、ありがとう。とってもすごいわ。こんなに綺麗になるなんて。」

髪をサラサラと手で確かめながら触る。

触り心地もいつもと違うような柔らかさである。

「とんでもありません。リオ様のもともとの素材がよかったからです。」

アンナは少し照れた様子で答えた。

「では、また何かありましたらお声掛け下さい。」

そういうと部屋からアンナは出ていった。

1人になり、自分の身だしなみを鏡で見てみた。

薄手の黒いシンプルなワンピースのようなナイトウエアに、いつもより白く輝きを感じる肌。

栗色の髪は艶が出て少し色気を感じる。

「なんか、自分じゃないみたい。」

そう独り言を言いながら、私はベッドに入り眠ることにした。


朝起きると、ジェラルドはいなかった。

昨日は戻ってこないまま忙しかったのだろうかと心配になった。

そしてベルを鳴らして、アンナを呼んだ。

「おはようございます。リオ様、よく眠れましたか?」

「はい。おかげさまでぐっすり眠れました。アンナさん昨日はありがとうございました。」

「いえ、今後呼んで頂ければいつでもお手入れさせていただきますので。」

「ありがとうございます。それと、着替えのお洋服を持ってきていなくて…。」

「ご心配なく、用意させていただいております。こちらからお選び下さいませ。」

アンナは手前にあったクローゼットを開けた。

中には色とりどりのワンピースやドレスが入っていた。

「わぁ、すごいですね。どれを選んでいいか決められないのでアンナさんに選んでいただいてもいいですか?」

「かしこまりました。では、こちらのネイビーのシンプルなワンピースはいかがでしょう?」

出してきたのは、シルエットが綺麗なワンピースだった。

「素敵ですね。お願いします。」

「はい。かしこまりました。髪型はいかがされますか?」

「じゃあ、軽く纏めていただいてもいいですか?」

「では、この服に合うよう軽く纏めさせていただきますね。」

アンナは慣れた手つきで素早く髪を纏め、軽くお化粧を施してくれた。

「リオ様はそのままでもお肌が綺麗なのでお化粧は軽く素材を活かす程度にさせていただきますね。」

着替えも身だしなみも整え終えると、アンナと話をした。

「あの、ジェラルドはどこにいるんでしょうか?」

「たぶん書斎にいらっしゃると思います。ご案内いたしましょうか?」

「じゃあ、よろしくお願いします。」

2人は部屋を出ると長い廊下を歩いた。

飾ってある装飾品がどれも豪華で少し肩身が狭くなりながら進んでいく。

「こちらです。お呼び致しましょうか?」

私は勝手に来てしまったことに怒られるのではないかと不安になり、少し考えたが黙って頷いた。

アンナが部屋を扉をノックするといつも私が聞いているより冷たい声がした。

「どうした?入れ。」

「失礼致します。」

アンナが扉を開けた。

大きな机に向かい考え込んでいるジェラルドがいた。

ジェラルドは私を見つけるとすぐに椅子から立ち駆け寄った。

彼は無言で口元を抑えてながら私を見つめた。

「ごめんなさい。なにも何もなかったんだけど起きても部屋にいなかったから心配でつい。」

ジェラルドは珍しくぼんやり私を見たまま固まっていた。

「…ジェラルド?」

私はジェラルドの前で手を振ってみた。

「リオ…とても綺麗だ。」

私の手を取り、ふわりと抱き寄せた。

「ちょっと、待って。アンナさんも見てるから。」

私は少しジェラルドを押してアンナを確認する。

「あれ?アンナさん、どこ?」

アンナは気を利かせたようで静かに部屋から退出していた。

すると、今度は後ろからふわりと抱きしめられた。

「アンナは今はいない。」

そういうと耳元をくすぐられる。

そして露出していた首元にキスされた。

「リオ、髪を上げてる姿もとても綺麗だ。」

「…ちょっと待って。」

私は少し体をよじらせて抵抗しようとするが、彼の力は弱まることはなかった。

「もうこれ以上は待てない。」

そういって唇にキスをしようとした、その時扉をノックする音がした。

「ジェラルド様、緊急事態です。」

この前聞いた男の声だった。

「はぁ…。今度はなんだ?」

彼は少し不機嫌そうな声で答えた。

そして私は締め付けていた腕の力から解放された。

まだ残る彼の温もりと耳元の熱の余韻が続いていた。

「いまから行く。そして部屋にアンナを呼んでこい。」

「かしこまりました。」

「リオ、すまない。俺は少し用事ができたからアンナが来るまでここで待っていてくれ。また済んだら部屋に行く。」

そしてジェラルドは頬に軽くキスして部屋を出た。

私は部屋でアンナを待った。


それから、アンナと一緒に部屋に戻ると私は彼女に話しかけた。

「ねぇ、アンナさんとちょっとお話ししたいのだけど大丈夫?」

「はい、もちろん大丈夫ですよ。どのようなお話でしょうか?」

「私、ここにいても迷惑にならない?ジェラルドはとても忙しそうだし、私がいたら余計に…。」

そういうと、アンナはグイっと顔を近づけて首を振った。

「全く迷惑などありません。リオ様がいてくださるおかげでジェラルド様が穏やかに過ごされているのですから。」

「そう?」

「もちろんです。以前は近寄りがたい威圧感のある雰囲気で、こんなに穏やかに過ごされていることなどなかったのですよ。」

確かに昔初めて会った時はかなり冷たく威圧感のある雰囲気だったような気もする。

「ただ、リオ様と一緒にいらっしゃったとき初めて誰かに優しく微笑まれてるジェラルド様を拝見しました。」

そういうとアンナは優しく微笑んだ。

「そういえばアンナさんって、ジェラルドとどのくらい一緒にいるの?」

「ジェラルド様は私が幼い頃に兄のカインと一緒に他の悪魔に虐げられていたところを助けていただいたのです。」

「お兄さん?」

「はい。兄もこのお屋敷にいるので、すぐに会えると思います。でも兄はいつもタイミングが恐ろしく悪い人なんですよね。」

私はなんとなくピンときた気がした。

それからアンナは話を続けた。

「そして私と兄は自分の魔法石を使ってジェラルド様に忠誠を誓い、ここに住み込みで働くようになりました。なので、人間に呼び出されることもなく悪魔に虐げられることもなく穏やかに過ごすことができているのです。」

「え?悪魔にも魔法石があるの?」

「はい。基本的にコア部分に魔法石があり、それを捧げることで忠誠を誓うことができます。まさに人間で言う命のようなものですね。」

「そうなのね。あと、思ったのだけどアンナさんって人間に対して嫌悪感とかないの?」

「そうですね、正直あまり接することがなかったのでよく分からないです。でも、リオ様はジェラルド様が大事にしているお方なので私にとっても大事な方ですよ。ですから、リオ様はここにいてください。」

アンナは優しく笑った。

「アンナさんありがとうございます。」

私は優しくアンナの手を握った。

「では、ごゆっくりおくつろぎ下さい。お飲み物とお食事を用意して参ります。」

そういうとアンナは部屋を出ていった。

1人になり部屋でゆっくり過ごしていると窓の外で何かが当たる小さな音がした。

何かと思い窓に近づくが何もなく、窓を開けてみた。

すると突然黒い霧のようなものが部屋に入ってくる。

それに包まれると私は意識を失った。

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