日記
次の日私たちは昔住んでた家に行ってみることにした。
一応リーゼからもらった食料を荷物にまとめた。
「たしか、この辺に…。」
そう言いながら、木の間を進んでいくと見覚えのある小さな家を見つけた。
「ここよ…!」
「懐かしいな。」
ジェラルドは優しく微笑みながら私を見た。
「そうね。貴方が綺麗にしてくれたんだよね。」
近くまで寄って見ると、相変わらずもう随分と使われていない様子で、あちこちがボロボロに荒れていて、中も埃が溜まっていた。
「一生懸命拭いてたの覚えているか?」
「ええ。全然綺麗にならなかったのよね。」
私は笑いながら言った。
「君は何事にも一生懸命で、俺はそういうところに惹かれたのかもしれないな。」
ジェラルドは私の空いてた手を優しく握った。
「不意打ちなんてずるい。ジェラルドはしばらく会わないうちに卑怯になったのね。」
私が照れ隠しに冗談っぽく言うと、彼は握っていた手をグッと引き寄せ抱き締める。
「昔からだ。」
そういうとそっとキスをする。
その間に片手をサッとかざし振り下げた。
私が気づいた頃には、家はあの頃のように新しくなっていた。
この日はこっちの家で過ごすことにした。
前の家から持ってきた食料を使って夕食をとる。
「こうやって、ここで2人で食べるの懐かしいね。」
「ああ。君は相変わらず食べるのが遅いな。」
そういうと2人は笑い合う。
それから、ジェラルドは優しく微笑みながら、私が食べているのを眺めていた。
食事を終えるとバルコニーへ向かった。
宝石のような星たちが夜空に輝く。
何度見ても感動する景色で、2人は静かに眺めた。
次の日の朝、ベッドから降りると自分の使っていた部屋にある本棚に目がいった。
1冊のノートのようなものが薄く光を放っている。
以前住んでいたときにはこんなことはなかったので、不思議に思い手にとった。
【ここに住み始めた日からこの日記を気まぐれで書くことにした。私は聖女としてここの近くの神殿で祈りを捧げることになった。聖女が何かよくわからないが祈りを捧げることで平和になると住んでいた街の人は言っていた。】
私は、ここは昔いた聖女が住んでいた場所なのだと気づいた。
そして彼女が書いた日記を少し悪いなと思いながらも読み進めていった。
【今日は神殿で祈りを捧げた。家に帰ると、街の人たちがこんなに森の奥まで遊びにきてくれていた。うれしい。】
【神殿には綺麗な女の子がいた。シエルというらしい。友達になれたらいいな。】
【いつまで祈ったらいいんだろう。夜1人でこの家にいるのが淋しい。家族や友達に会いたい。】
【ここ最近は誰も来ない。なぜだろう。私も帰りたい。】
【今日は祈るのをやめて、街に帰った。街は私の記憶と全く違うほど栄えていた。楽しそう。たまに祈りをやめて遊びに行こうかな。】
【街に行ったのがバレてしまった。そして無理やりここに連れ戻された。こわかった。】
【街から交代で人が来た。神殿についてきて祈りを捧げているかを監視しているみたいで嫌な人たちだ。】
【シエルはときどき悲しそうな表情をしている。どうしたのかな。私に話してくれるようになったらいいな。】
そして、徐々に日記の文字が乱れていった。
【毎日祈りを捧げていると体がすごく疲れる。寝たら良くなるかな。】
【今日は神殿でいつもより強く祈りを捧げさせられた。体がふらつき倒れそうになったところをシエルが支えてくれた。疲れが溜まっていたのかな。】
【ベッドから起き上がれない。でも街の人に無理矢理神殿まで連れて行かれた。ゆっくりしたい。】
数ページの白紙を挟んで衝撃なことが書いてあった。
【私は祈りの代償が命であることを知った。】
【最後に私の全ての力を使って、この日記にシエルの加護で導きの魔法をかけてもらった。どのくらい先になるかわからない次にこの世界に誕生する聖女に向けて。】
【貴方の命は貴方のものよ。私みたいに何もわからず後悔しないで。】
私は読み終えるとしばらく動けなかった。
そして、このノートを隠すように本棚に戻した。
ジェラルドに悟られないように、寝起きのふりをして顔を洗いにいった。
この日はジェラルドと散歩しにいく予定だった。
2人で朝食を食べ終えると少し家の片付けをして外に出た。
私はジェラルドの横に来ると自分から手を握った。
彼は少し驚くような顔をしたあと、優しい笑顔になり私の手を握り返した。
森の空気が澄んでいて気持ちいい。
小鳥の鳴き声や風が吹いて葉が揺れる音、そして隣を歩く彼の足音全てが私の心に入ってくる。
そして私はこのひと時を忘れないように心に刻む。
少し歩くといつもの水辺についた。
2人は繋いでいた手を離し、木陰に腰を下ろした。
横にいる彼の肩に頭を傾ける。
彼は優しく私の髪を撫でた。
この日の夜は自分の部屋にいたが、なかなか眠れずリビングに戻りソファーに腰掛けた。
しばらくするとリビングに私がいることに気付いたのか、彼も部屋から出てきた。
「どうした、眠れないのか?」
そういうと彼は私の横に座った。
「…うん。なんかちょっと寝付けなくて。少しそばにいて。」
そういうと、私は彼に寄りかかった。
彼はそれ以上は何も聞かず優しく肩に手をまわした。
「ねぇ…ジェラルド。私の名前を呼んで。」
私は少し甘えるように言った。
「…リオ。俺はそんなに余裕はないぞ。」
意地悪そうに笑った彼の顔を私は優しくつまんだ。
「リオ…。」
再び呼ぶと顔をつまんでいた私の手首を掴み、キスをする。
少し力が抜けたところで、彼に優しく抱え上げられた。




