別れ
その日の夜、私はジェラルドに話しかけた。
『ジェラルド、一緒に星を見ない?今日はいい天気だったから、きっとよく見えると思って。』
そして、私たちは小さいバルコニーに向かった。
『暗いから気をつけるんだ。』
ジェラルドは小さな明かりを持ってきた。
2人はバルコニーに着き灯りを消す。
しばらくして暗闇に目が慣れると、無数の小さな宝石が散りばめられた夜空が浮かび上がった。
『わあ、綺麗…。』
言葉に詰まるほど美しい光景だった。
しばらく星空に見惚れてたが、ふと横にいたジェラルドに視線を向けた。
彼はそれに気づくと、私を後ろから優しく抱きしめた。
『君のことを何よりも愛おしく大事に思っている。』
私も彼の手の上に自分の手を重ねた。
そして、私に受け入れられた彼は少し力を緩めた。代わりに熱帯びた金色の瞳で私を見つめる。
『ジェラルド…愛してる。』
背の高い彼を少し見上げる形で、そう呟くと私は彼の頬を指で撫でた。
ジェラルドは私の向きを星空を背にするように変え、強く抱きしめると、軽く髪にキスをする。そしてバルコニーの手すりと彼に挟まれ逃げ場を無くした私は遠慮がちに顔をあげた。
優しく私の髪を撫で、目が合うと今度は唇にキスをした。
だんだんと激しく長くなる。
2人はただ普通の恋人のようだった。
翌朝、いつもより少し狭くなったベッドでジェラルドと顔を合わせたが恥ずかしくなり目を逸らした。
しかし彼はそれを見逃さず、スッと耳元で囁いた。
『よく眠れた?』
冗談を言うジェラルドの肩を軽く叩くと、朝食の準備を始めにキッチンへ向かった。
思い返せばジェラルドとの日々はとても楽しいものだった。
あの日以来感情も失い、ひとりぼっちだった私だったが、こんなにも誰かを愛することができたのだ。
食後はいつものように2人で過ごした。
何気ない会話や仕草がとても愛おしく感じた。
これ以上一緒にいると自分の決心が揺らぐような気がして、私は覚悟を決めて言った。
『ジェラルド、少し前にした話覚えてる?』
『どんな話だ?』
『この魔法石に誰かを転移させる願いをかけたらっていう話よ。』
彼は何かを察したか、冷たく拒否するように首を振る。
『あのね、この魔法石に誰かを転移させる願いをかけて欲しいの。代償は私の存在すべて。もともと私がいなければ育ててくれたあの家族は、みんな命を落とすことはなかったのよ。』
『…やめてくれ。』
ジェラルドは悲しそうな表情で首を振る。
『きっと、私の存在がなければ家族の運命も変わるはず。』
私は意志を強く持ち彼を見た。
『そして今の私じゃ、この世界を変えることはできない。ただ、時の流れにのって何度も何度も生まれ変われば、いつかは聖女の素質を持って生まれてくることができるかもしれない。何年後か、何百年後か、はたまた別の世界か、わからない。でもいつか必ずこの世界に戻って貴方に会いに行く。それまで待ってて。』
私は優しく彼に微笑んだ。
『顔も名前も全て変わっていても貴方ならきっと気づいてくれるでしょ?』
そういうと涙で濡れている彼の頬にキスをした。
『私の記憶は全てあなたに預ける。その時が来たら、生まれ変わった私に渡してあげて。』
私の目からも涙が溢れた。
『…本当にそれでいいんだな?』
低く透き通るような声。
『いいの。時を超えて、またきっと貴方に会いに行くから。』
優しい光が全てを包んだ。
私は消えた。
そして魔法石だけがシエルによる導きの魔法で、正しいところへと進み出した。
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