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魔族さんたちのニッチな話  作者: @篩獅師(ふるいしし/shi_shi)
魔族さんたちのニッチな話 第1話(改)『働く魔族さん』
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第1話の9 【あっ、そっちのお乳のことでしたか】

 ミノアがフルアーマーを脱いで着替えを済ませてから、二人はまた先ほどの部屋に戻って、簡単に面談の続きを行いました。


 不在の間に用意されたのか、いつの間にかそこには美味しそうなお茶と焼き菓子が置かれていました。お客さんへのおもてなしです。裏はあるかも知れませんが。


「もう面談も終わりに近づきましたので、少しリラックスしていきましょう。よろしければお茶と焼き菓子でもどうぞ」


「ありがとうございます。いただきます」


 こういう時は遠慮する方が失礼に当たるので、ミノアは促された通り、お茶菓子を食べてお茶で喉を潤しました。


「本日は午前中からずっと、随分長い時間引き止めてしまいました。それこそこのままお泊り会に突入して、夜通し語り合いたい気分ですが、それはまた別の機会もあることでしょう。兎に角遠いところからこんな辺境までわざわざ御足労いただき、大変ありがとうございました。ここまでかかる往復の運賃とまでは行かないかも知れませんが、決められた金額分はお支払いいたしますので、お持ち帰りください」


「そんな、殆ど道中はてくてく歩いてきましたので、お金はいただけません!」


 ミノアは丁重にお断りをしました。人から無用にお金をいただいてはならないと、両親からしつけられて育っていました。


「う~ん。それでしたらご飯代ということで、麓の町で使える食事券を差し上げましょう。ちょうど今夜は夏恒例の『石の祝祭』の前夜祭が行われています。十枚つづりですが、お祭りの間、これを使えば食堂でも屋台でも、一食分いただくことが出来ます。ここに私が押した『石切砦』の印と私の承認印があるので保証も大丈夫です。これは『石切砦』からの気持ちと思ってください」


 そう言ってコカゲは、まるで手品のようにどこからか取り出すと、ミノアの方にその食事券を差し出しました。


 ミノアは一瞬考えたような間をもうけましたが・・・。


「わかりました。それでしたらありがたくいただきます。食べることは大好きなので、今夜は美味しく食べ歩きたいと思います」


 もしかしたらこの土地に来るのは最後かもしれないと思ったのか、ミノアは素直に受け取りました。


 それをふところに仕舞いこんだのを見てから、コカゲは話を続けました。


「それと本日の件につきまして、採用の可否を問わず、後日必ずご連絡させていただきます。なるべく早く結論を出しますので、少しの間、お時間をください」


 そう述べてコカゲはミノアに頭を下げました。


「わかりました。よろしくお願いいたします。それまでは実家の手伝いでもしています」


 そう言ってミノアも丁寧なお辞儀を返しました。これでようやく、今日の採用試験はおしまいとなりました。


「これで終了です。どうもお疲れさまでした」


 コカゲも少し安堵の息を漏らしながら、書類などを片付け始めました。


「お疲れさまでした」


 ミノアの方も手荷物をまとめ始めました。


「ところでミノアさんのご実家は、農業で収穫された作物で何か別のご商売もされているのですか?」


 コカゲは片付けながらそんなことを尋ねました。


「いえ。我が家は農家オンリーです。近い親族たちと一緒に畑で作物を作ったり、あとはちょっとだけ、鶏さんや山羊さんなんかも飼っています。田舎なので畜産や農業を営む家庭が多いですけれど、農業以外のお仕事についている者もそれなりにいます。どうしても種族柄、力仕事が多いですけれど」


「確かにみなさん、とても力強そうなイメージがありますね。神話や伝説も各地に残っていますし」


「みなさんのイメージは、ちょっと誇張していると思います。基本的に私たちは呑気な種族ですので」


「そうですね。今日の様子を見ているとそんな印象を受けました」


 コカゲは納得したようにうなずきました。


「あと、毎朝の日課として乳搾りとかもしています」


 そう言ってミノアは発育の良さそうなお胸を少し揺らしながら、にこやかな笑顔を見せました。


「それはとても大変そうですね・・・」


 ミノアのお胸に視線を落として、コカゲはそう言いました。


「山羊さんのお乳は生活に欠かせませんからね。よその農家さんの作物と交換することもあります」


「あっ、そっちのお乳のことでしたか」


「そっち?」


「いえ。気にしないでください。何でもありませんので」


 コカゲは小さくかぶりを振りました。


(つづく)

(作者さんのニッチなあとがき・改)

 私が子どもの頃、一般的なミノタウロスのイメージはギリシャ神話に登場するそれでした。

 狂牛のような顔で、理性もなく、まさしくモンスターという位置づけです。

 恐らく昭和時代には『魔族』という言葉もなく、ゲームブックなどでは人間以外全て『モンスター』としてひとくくりになっていました。

 エルフもドワーフもです。


 三十年以上が経過して、当時モンスターと呼ばれていた魔物も、いつの間にか可愛らしくなったり、凛々しくなったり、受け入れやすいキャラクターに進化しました。

 ゲームやアニメ、コミックやラノベ(の挿絵)などの影響が強いものと思われます。


 私の中でのミノアのイメージは、乳牛さんを擬人化したような感じなのです。

 性格も純朴で、素直で、誰からも好かれるようなキャラを目指しています。

 暮らしている場所も農村で、牧歌的な暮らしを営んでいます。


 こうした異世界ファンタジーに最初に触れたのは、昭和の終わりごろ。

 そこから数えると随分と長い時間、特に若い頃は多岐に渡って触れ、今もなお少なからずそれを積み重ね続けています。

 若い頃に比べると、いつの間にか人間さんも魔族さんも、みんな仲良くしているのが良いと思うようになりました。

 なのでこのシリーズでは暴力的なシーンや、誰かが痛めつけられるようなシーンは出てきません。

 その分、面白い展開にはならないでしょうけど、素人が趣味で書いているだけですので、別にそれで良いんじゃないかなって思います。

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