第1話の8 【私、負けちゃいました・・・】
ミノアとハニワ・ゴーレムさん、双方が向き合って相対しました。
それを確認したコカゲは、行司さんのようなポジションに立ちました。
「それではいきます。最初はグー! じゃんけんポン!」
『ポン』のタイミングでミノアはチョキ、ハニワ・ゴーレムさんはグーを出しました。
「が~んっ!?」
ひび割れたデザインの『が~んっ!?』のロゴが、ミノアの後ろから後光のように飛び出しました。
がっくりと手と膝をついて、牛さんのようによつんばになると・・・。
「負けました・・・。私、負けちゃいました・・・。ゴーレムさんって、表情も匂いも変化がないから、相手の考えが全く読めませんでした・・・。これで私の不採用は決定的です・・・」
ほろほろと涙を流して本気で悔しがりました。
「いえ、このゴーレムは、どう見たってグーしか出せませんから、表情や匂い以前の問題かと・・・」
コカゲの言葉に、ミノアはハッとしたように顔を上げました。
「そうでしたあっ!!」
ミノアは兜から突き出た自分の角の辺りを押さえると、その場にしゃがみこみました。
「念のためあれだけヒントを与えたのに、まさかチョキを出してくるとは、さすがに私でも考え付きませんでした。裏の裏をかくどころか、裏表のないメビウスの輪くらいの衝撃でした」
呆れることもなく、相変わらず淡々とした口調のコカゲでしたが、手持ちの履歴書にメモされていた先ほどの『おばか』の『お』に×印をつけたのでした。
ミノアとは対照的に勝ち誇った・・・様子も見せないハニワ・ゴーレムさんは、敗者をさげすむこともなく、相変わらず無表情でその場に佇んでいました。
ようやくミノアは顔を上げると、ハニワ・ゴーレムさんを見上げました。
「これがおごりなき勝者の立ち振る舞いなんですね。敗者をおもんばかり、喜びの表情すら欠片も見せない。私もいつか、こうなりたいものです・・・」
ミノアは何故か手を合わせてハニワ・ゴーレムさんを拝みました。
「いえ、私のハニワ・ゴーレムは最初からずっと変わっていませんが?」
恐らくこれからもずっと、ハニワはハニワのままなのでしょう。
ミノアはようやく立ち上がりつつ、蒸れて熱くなった鉄兜を外しました。
ひんやりとした空気がミノアの頭を少し冷やしてくれました。これで少しは冷静になれるかも知れません。
癖毛も蒸れて、寝ぐせのように暴れていました。
「ところで・・・ひとつ気になることをお聞きしてもよろしいですか?」
「はい。何でしょうか?」
「やっぱり罰ゲームの汲み取り作業はありますか?」
「先ほども言った通り、罰ゲームはなしです。それにこの砦は汲み取り式ではなく、魔力を使った最新鋭の水洗式です。更にし尿処理として、通称便所スライムさんを放し飼いにしています。この子たちが綺麗さっぱり消してくれるので、砦はいつも清潔です。ちょっとした自慢の設備です」
「私の汲み取り能力さえも、便所スライムさんに勝てそうにありません・・・」
ミノアは更にショックを受けた様子でした。
「汲み取りに勝ちも負けもありません」
コカゲはきっぱりと言い切りました。
(つづく)
(作者さんのニッチなあとがき・改)
世の中に深く浸透している『最初はグー!』で始まるじゃんけんは、ドリフのネタであったことは有名です。
私はリアルタイムに見ていた世代なので、その後の罰ゲームも知っていますが、今だったらアウトでしょうね。
それを生中継で全国放送していたのですから、昭和って、本当に何でもありな時代だったのだろうと思います。
最初に書いたテスト版では、負けた後のやり取りはありませんでした。
便所スライムという表記はずっと後になって出てきたものですが、遡ってここに使いました。