第1話の7 【任せてくださいっ!】
相変わらずハニワ・ゴーレムさんは大きな口を開けたままでした。実は二人のやり取りを見て、ポカーンとしているだけなのかも知れません。
「じゃあ、ミノアさんの得意な勝負で構いません。何かご希望はありますか? もちろんハニワ・ゴーレムが可能な範囲になりますが・・・」
コカゲが最大限の歩み寄りを見せました。壁ドンくらい、近寄っています。
「希望よりも今は絶望に近いものしかないような感じなのですが・・・。子供の頃は幼馴染たちとお相撲をよくしていましたけれど、サイズ的にそれはちょっと無理だと思います。さすがに得意の尻相撲を挑んでも、簡単にはじき返されそうで・・・」
そう言って何となくクルリと身体をひねって、コカゲの方にお尻を向けました。フル装備中なので、プラプラした尻尾しか見えません。
「先ほど見る限り、とても立派なお尻に見えましたが、確かに体格差がありますから、これはフェアではないでしょう。他に何かありますか?」
「そうですね・・・。あっ! それならジャンケン! ジャンケンはどうでしょうかっ! 私、ジャンケンにはちょっと自信があって、ふるさとの学校時代は子どもたちの間でリーグ戦を行って、優勝したこともあります。滅多なことでは、負けませんでしたよっ! 何を出すかって、表情と匂いの微妙な変化を読み取れば、だいたいわかるんですっ!」
急にやる気スイッチが入ったのか、ミノアはペラペラと饒舌に話し始めました。
「ジャンケンですか・・・。まあ、良いでしょう」
ミノアと埴輪ゴーレムさんを交互に見比べて、ちょっと考えるような素振りを見せましたが、コカゲはその条件にOKを出しました。これならば体格差も体力差も関係ありません。
ハニワ・ゴーレムさんにも意図が伝わったのか、独特の丸っこい手を軽く振って、その挑戦を受けました。さりげなく、最大のヒントを与えています。むしろ答えそのものでした。
「なら、『最初はグー!』でいきましょう。『グー』ですよ?」
しつこいくらい、コカゲは『グー』を推しました。まさに推し活です。
「わかってますっ! 任せてくださいっ!」
ふんすと鼻息を噴出して、本能的に闘牛モードになったミノアは、ざっざっざっと、右足で砂を後ろに蹴り上げました。この動作を入れたところで、特に勝敗には関係ありません。
「あと勝っても負けても、罰ゲームは無しです。ホントはあった方が盛り上がるのですけれど、さすがにまだ『お客さん』ですから、それは出来ません」
「採用されれば罰ゲームありってことですね? それを目指して頑張りますっ! ふるさとの学校では、罰ゲームとして肥溜めの汲み取りとかよくやりましたっ! もしこの砦で働くことになったら、汲み取り作業はお手の物ですよっ!」
ミノアは鼻息を噴き出して、意気込みを語りました。
「目指す方向性がよくわかりませんが、その意気込みに期待が持てそうです。それではジャンケンですが、掛け声は私の方で取らせていただきますね」
汲み取りの話題に舵を切りたくなかったので、コカゲは話を戻しました。
さあ、いよいよ大一番です。
(つづく)
(作者さんのニッチなあとがき・改)
ガチの戦闘シーンって、表現が全然思いつかないんですよね。
これ、ラノベになる前のファンタジー小説の時代から苦手なシチュエーションで、読んでいても頭に入ってこないし、率直に言えばつまらないのです。
自分が執筆するきっかけとなったある冒険ファンタジー小説も、戦闘のシーンは全く面白味も無くて、むしろ嫌いでした。
延々と戦う様子を文章で書かれましても・・・。
根本的に嫌いだから、自分でも書けないのでしょうね。
そんなわけで、単純明快に済むジャンケンにしました。