第1話の5 【さっき、『ごく一般常識的なこと』って言いましたよね!?】
さて闘技場としても使われる大きな広間に案内されたミノアですが、取り敢えず村娘のような質素な格好から、今は貸してもらったアーマー姿に変身していました。半裸のようなアーマーではなく、頑丈そうなフル装備です。
むしろ金属の塊のようになっていました。普通なら結構な重さですが、ミノタウロスさんならばミノアくらいでもそこそこ力があるので、特に問題は無さそうでした。
また普通の兜だと邪魔になる角も、特殊仕様の兜のお陰で邪魔にならなくなっていました。だいたい角の辺りが切り込みのようになっていて、かぶった後は革と留め金で固定するようになっていました。顎ひもで留める代わりに、角で留めている形になります。
そんな立派な甲冑姿のミノアでしたが、彼女の前には既にこの日の対戦相手が立ちふさがっているのは、異世界にある古墳時代の焼き物のようなゴーレムさん。自分の背丈の三倍以上はありそうなその大きさに、ミノアはカチャカチャと甲冑を鳴らして縮こまっていました。
「あわ・・・、あわわわわっ!? 何か、すごいハニワさんが立っているんですけどっ!?」
ミノアは大きなハニワさんを指差し、コカゲの方に顔を向けました。
「私が作り出したただのハニワ・ゴーレムです。武器はお好きなものを使っていただいて結構です。この場合はウォーハンマーやメイスなど、鈍器の方がよろしいかと・・・。もちろん、武器などに頼らず、格闘戦を挑んでいただいても構いません。立ち技でも、組み技でもどちらでもオーケーです。むしろ個人的にはそちらの方を期待してしまうのですが、何なら『白いマットのジャングル』的なものもすぐにご用意できます。オプションでトデスマッチ用の金網を設置したり、それにビリビリする魔力を流すエネルギーボルト爆破マッチ仕様にすることも可能ですが、イカがいたしますか?」
コカゲは至極真面目な顔をしながら、何やら格闘技っぽい振付を見せました。何だかノリノリです。
「イカもタコもありませんっ!! と言うよりも、これ、何ですかっ!? さっき、『ごく一般常識的なこと』って言いましたよね!?」
あたふたとミノアは身の危険を感じた美味しいお肉の牛さんのように、かなり必死の形相でしコカゲに抗議しました。
「ええ・・・、そうですが・・・? 何か問題でも?」
コカゲは不思議そうに首をかしげました。
「モウマンタイじゃなくて、これじゃヤウマンタイですっ!! 問題ありありの、ありがた迷惑ですっ!」
ミノアはちょっと荒くれた牛さんのように、地団太を踏みながら訴えました。
「聞きなれない異世界の言葉みたいですが、だいたい言いたいことはわかります」
「わかってるなら何とかしてくださいっ!!」
その傍ら、先ほどからボーッと佇んでいるハニワ・ゴーレムさんは、掴みどころのない無表情で、古墳ではなく二人のおかしなやりとりの方を見守っていました。
いつだって、どの世界にいたってハニワさんはポーカーフェイスなのです。
(つづく)
(作者さんのニッチなあとがき・改)
昭和末期の昭和五十年代後半から昭和六十年代、私が子どもの頃になるのですが、プロレスがとても流行っていました。
記憶にあるのは、土曜日の夕方五時から日本テレビで全日本プロレス(これは録画)、金曜日の夜八時からテレビ朝日で新日本プロレス(これは生中継)でした。
あとは見ていませんでしたが、フジテレビで多分土曜日の夕方、女子プロレス中継がありましたね。
とにかくプロレスが人気でした。
ゴールデンタイムに、民放で生中継とか、今ではありえないことですね。
試合途中で中継が終了とか、まさかの展開もありました。
コカゲの口から出た『白いマットのジャングル』は、タイガーマスクの主題歌からです。
これ、パート1だったか、パート2だったか、もう覚えていませんけれど(私がリアルタイムで見たのはパート2の方で、パート1は夕方の再放送だった)、80年代前半、実際にリング上にタイガーマスクが登場したときは、華麗で強くて、大人気になりました。
この『魔族さんたちのニッチな話』では、こんな感じで筆者が子供の頃に経験した出来事などが、ところどころ挟まれます。
ハニワ・ゴーレムですが、日本の冒険ファンタジーが黎明期の頃(昭和末期から平成初期ですね)、何かの挿絵かコミック(冒険ファンタジーもの)で埴輪として描かれていました。
ギャグだったのでしょうけれど、そのイメージが今も残っているのです。
何でもありの思い付きで書いている話ですので、いっそのことハニワ・ゴーレムにしてしまえと。
弱そうですけれど、ゆるキャラみたいな愛嬌はありそうです。