第1話の4 【ごく一般常識的なことですのでご安心を】
コカゲは意味もなく、コホンと咳ばらいをしました。
「話を脱線させてしまい失礼しました。一応ここまで聞かせていただいたお話で、特に問題はないと思います。最後に簡単なスキルチェックをさせていただきます。このあとお時間、よろしいでしょうか?」
「スキルチェックですか!? 時間は大丈夫ですけれど、私、あまり村の学校の成績が良くなかったので・・・」
村にある小さな学校で、他の幼馴染たちと一緒に二年間学んだミノアでしたが、あまりお勉強のは得意ではありませんでした。運動はまずまずで、どちらかと言えばお料理やお裁縫の方が得意な女の子でした。とっても家庭的です。
「それならご心配いりません。採用の可否につきまして、今は何も申し上げられませんが、我々としましても一人ひとりがどのような能力を持ち合わせているのか、きちんと事前に適性を把握しておきたいのです。それにチェック内容は、ごく一般常識的なことですのでご安心を。誰でも簡単にクリアできるレベルのものと考えています」
淡々とした口調でコカゲは説明しました。
「それでしたら何とかなりそうですね。私でもクリアできるのなら、安心です」
ミノアはホッと、やや発育の良い胸をなでおろしました。安心したのかしっぽも機嫌よさそうにフリフリと揺れています。これでハエも追っ払えそうでした。
「ではこれからミノアさんの力量を確認させていただきます。念のため、手荷物もお持ちいただけますか?」
ミノアはそそくさと、自分の手荷物を抱え、落し物が無いか身の回りを確認しました。
「大丈夫そうです」
「それではこれから別室にご案内しますので、こちらへどうぞ」
面接をしていた殺風景な部屋の奥にある扉から出ると、そこは左右に続く幅広で、天井高のある廊下になっていました。大柄な魔族さんでも余裕を持って歩けそうです。
その廊下をコツコツと二人分の足音を響かせながら、次の場所へとゆっくり歩いていきました。
左右の壁にはところどころ小さなくぼみがあり、灯されたランタンが設置されていました。
その壁はとても綺麗に磨かれた白っぽい石の壁でしたが、どこを見ても継ぎ目がありませんでした。
歩きながら何となくミノアは手に触れてみましたが、とてもツルツルして、ひんやりとしていました。普段から体温が高く、汗っかきのミノアは、思わず身体を押し付けて涼みたくなってしまいました。
そのとき、コカゲが口を開きました。
「この砦は『石切砦』と呼ばれていますが、その所以はもともとここが石切り場であったからです。あまり使われなくなった後、その空間を利用して砦に作り変えました。この廊下も、かつて石が切り出されたその名残だろうと思います」
「なるほど、だから『石切砦』なんですね」
「はい。今でも一部で石が切り出され、砦の増改築などに利用されています」
そんなこともコカゲから説明されながら、二人は廊下を進みました。時々木製の扉が目に入ったり、この砦で働いている魔族の方々とすれ違ったりと、ミノアの目には何だかダンジョンのように映りました。
やがて到着したのは、扉も何もないだだっ広い空間のような場所でした。この部屋はランタンの明かりではなく、何らかの魔力が込められているのか、天井そのものが光を放っていました。
「何だか随分と広いところに出ましたね・・・」
ミノアは下から見上げ、ぐるりと一周、首を回しながら言いました。見れば天井部分は階段を逆さまにしたような部分があり、かつて石が切り出されたような跡が見られました。
上の方の壁には鉄格子のはめられた空気穴のようなものが見えたので、元々はそこから下に向かって掘り下げられ、歩いてきた通路とつながったのかも知れません。
「こちらは多目的の広場です。何かの集会が行われたり、砦内のレクとして球技なども行われることがあります。あとはその年の最後に日になると、ここは闘技場と化して、年越しの格闘技イベントなどが行われることもありますよ。せっかくですので、今日はその方向性で行きたいと思います」
「ん? 闘技場って・・・?」
さらりとしたコカゲのその言葉に、ミノアは嫌な予感しか思い当たりませんでした。
(つづく)
(作者さんのニッチなあとがき・改)
テスト版で書いた時に比べると、部屋を出た後のことが書き足されています。
読み返したら短かったので、何とか文字数を稼ぎたいと考えた結果、この砦についての説明を少し挟みました。
当初は単なる『砦』としていましたし、後付けで石切り場だった場所を改装して『石切砦』としたことに別の項目で触れています。
その部分とかぶりますが、改めてここで少し触れました。
あと増築していることが触れられていますね。
増築されていることは以前から設定としてあったのですが、恐らく書き足したこの部分で初めて触れたと思います。
新しい寄宿舎や、新しい厨房、新しいお風呂など、そうした場所があることにしています。
修正前はこの辺りで、ミノアの性格面がやや『おばかちゃん』よりに動き始めました。
ただ五年以上(2025年現在)書き続けているうちに、ミノアの性格面も成長して、何だかんだ言いながらもしっかりしてきたなと感じるようになりました。
なので今回の修正では、問題なさそうな『おばかちゃん』な部分は削ろうと考えています。
性格的にはやや天然なところは残すことにしています。