第1話の1 【今日はよろしくお願いいたします!】
(作者さんのニッチな前書き・改)
テスト版として書いたのが、2018年から2019年頃。
その後は色々と細かい修正を積み重ねてきましたが、2025年時点で書かれている話と開きが出てしまった感じがしていました。
当初は矛盾点など最低限の修正だけにとどめていたのですが、やはり少しずつ違和感も感じるようになったのです。
それがどうにもならなくなる前に、ある程度推敲した改訂版を作ろうと思いました。
改めて最初から読み直しながら、内容の大きな変化は無いように気を付け、表現を書き改めたり、会話や行動を増やしました。
テスト版の時はまだ慣れていないこともあり、1回分がとても短いものも多々ありました。
それだと読み応えがないと感じていました。
またその頃は全体的にもや~っと、霧がかかったような状態で、見えないことも多くありました。
キャラの立ち位置もはっきりせず、性格面でもやや異なる設定になっています。
あまり面白い内容ではないままですけれど、当初に比べればキャラも背景もだいぶクリアになったんじゃないかなと。
楽しめるかどうかはわかりませんが、この改訂版を読んでいただけるとありがたいです。
その殺風景な部屋の中は、ちょっとだけピリピリした空気が漂っていました。
「事前に応募されていた履歴書を拝見させていただきました。改めてお名前を確認させていただきますが、『オチチチ村のミノア』さん・・・でよろしいですね?」
丸い木製テーブルを挟んで向かい合っている浅黒い肌に黒い瞳の女性、この『石切砦』の現砦長代理でもある闇エルフさんのコカゲは、子どもっぽい丸い文字ながらも丁寧に書かれた名前を確認するように、もの静かな口調で尋ねました。
書面を見ていた顔を上げた時、流れるような漆黒の長い髪が、少しだけふんわりと揺れました。とてもつややかで、綺麗な黒でした。
「はいっ! 今日はよろしくお願いいたします!」
緊張した面もちを見せつつもはっきりと返事を返したミノアは、ナタを振り下ろすように深く頭を下げました。
彼女は綺麗な緑色の瞳の上から眼鏡をかけていました。例えるなら、『もしゃもしゃ』した感じの癖のある長い黒髪をポニテ風にまとめ、清潔感のある白いうなじを見せています。同じ黒髪でも、こちらは若干、日に焼けてパサついた感じの黒でした。
半そでの紺色のシャツの上に、茶色のワンピース風の質素な女の子らしい服を来ている姿は、素朴な村娘を連想させました。実際彼女は農村の出身です。
ただ普通の女の子と一つだけ異なる点は、その頭から牛さんのような小さな角が左右一本ずつ、ちょっとうねった感じにニョキッと顔を覗かせていることでした。
彼女もまた、コカゲと同様に魔族の一種族、ミノタウロスさんの娘だったのです。
背丈はやや小柄で、全体的には成長期の女の子に見られるややふっくらした体型でした。むしろ発育良好でした。
「それでは始めましょうか。特に難しいことはありませんので、そんなに硬くならず、気持ちを楽にしてくださいね」
「普段からお肉は柔らかくて美味しそうだとよく言われるので、モウマンタイです!」
力強くそう言って、ミノアは鼻息を噴き出しました。
コカゲは『面白い反応をする牛さんだな』と思いましたが、特に余計なことは言いませんでした。
さてこの日、現在求職中のミノアは採用面接を受けるため、魔族さんたちの働くこの『石切砦』へと、遠路はるばる、てくてく歩いてやってきました。
今はその施設内でとても大切な面接が行われようとしていました。
やっぱり落ち着かないのか、ミノアはスカートの後ろから垂らした尻尾を、振り子のように揺らしていました。いわゆる貧乏ゆすりです。現世であろうと、異世界であろうと、大切な採用面接時にはやめておきましょう。
コカゲは改めて手元の書類に目を落とし、滑るような目線で軽く内容を確認しました。
「なるほど・・・。ミノタウロスさんの実年齢はあまりわからないのですが、見るに随分とお若いようですね。ふるさとの学校を卒業された後、しばらくはご実家の農業の仕事に従事していたと。更にその後、比較的最近まではよそ様でお仕事をされていたわけですね」
彼女の履歴書を読み取っているコカゲは言いました。
この世界の各種魔族さん、見た目と実年齢は大きく異なります。およそ若そうに見えて、実は数十歳、数百歳ということもざらにありますが、そこはあまり気にしないでください。
因みにミノアの年齢的な容姿は、ニンゲンさんに換算すると十六歳から十七歳くらい、コカゲの方は二十代中頃の容姿をしていました。
ミノアは村の学校で二年ほどの教育(と言っても、読み書き計算と、あとは就業体験のようなものが主な内容)を終えた後、実家での農業を除くと職歴は前職だけ。それも僅か数か月程度のキャリアしかありませんでした。現在はまたふるさとの農村で、実家の農業を手伝っていました。
ですが彼女の家庭は大家族であったため、農作物はあるものの、他のことについては経済的にも余裕があるとは言えません。そこで兄弟姉妹の中で最年長でもある彼女は、賃金の良いよそへと出稼ぎに出ることにしました。
そして今、この場所で面接官のコカゲと相対しているわけなのです。
(つづく)
(作者さんのニッチなあとがき・改)
闇エルフという表現は、現在では殆ど使われていないだろうと思いますが、要するにダークエルフのことです。
昭和時代のゲームブックでは、まだ異世界冒険ファンタジーとしての表現が確立されていなかったためか、闇エルフと表記されていました。
多分、ゲームやファンタジーに詳しい人が翻訳したわけではなく、従来の翻訳者さんが翻訳したからだろうと思います。
でもあえてこの闇エルフという表現をここでは採用しました。
その闇エルフであり、現在『石切砦』の砦長代理をしているコカゲは、いわゆるクール・ビューティーみたいなイメージです。
名前も闇エルフらしく、涼しくも薄暗い感じにしました。