9話『お酒は人を変える』
お店のシステム的にそろそろ退出の時間。
食べ放題、飲み放題というシステム上、時間制限が設けられているのは致し方ないだろう。
ラストオーダーでわざわざ注文がないか確認してくれて、ラストオーダー後も時間をたっぷり作ってくれる。
それだけでも十分ありがたいものだ。
割り勘なので、こんなちっぽけな会だったが一応幹事的なポジョンである高橋がそれぞれから集金を開始する。
ゆっくりと回り、最後に俺と川瀬。
「川瀬さん、川瀬さん。起きてください」
酔っ払ってしまい、俺の膝元で気持ちよさそうに眠っている川瀬を揺すって起こす。
何回か揺らすと目を擦り、小さな欠伸をして目を覚ました。
「なに?」
「お金出してください」
それだけ淡白に言い放ってから語弊を生みそうだったなと気付き、慌てて言葉を足す。
「割り勘代、出してください」
「……。お財布」
「はい?」
「お財布出して」
寝て、酔いが覚めるかと思ったがそう甘くはないらしい。
「お財布ですか。どこにあるんです?」
「私のバッグの中」
「って言われても……。バッグどこに置いたんですか」
翻弄されながらも、川瀬のバッグを見つけ出し、そこから財布を取り出して、隣でボケーッと座っている彼女に手渡す。
渋い顔をしたが知ったこっちゃない。(仮名だと分かりにくい)
すごく眠そうに財布と睨めっこする川瀬。
段取り悪く、面倒くさくなってきた。
ここでふと、ファミレスでの出来事を思い出した。
今度なにか奢ってよというニュアンスの言葉。
あの時の恩を今返してしまおう。
我ながら中々賢いことを思いついてしまった。
「じゃ、僕の方から川瀬さんの出しちゃいますね」
「良いの?」
「川瀬さんには少々恩があったので」
「へー」
高橋は訝しむように俺と川瀬を見つめたが、深く言及することはなかった。
お金を受け取れればそれでオッケーというような感じである。
彼女も酔っ払っているので細かいことは気にしていないのかもしれない。
「川瀬さん、こんなにお酒弱いのになんで連れてきたんですか?」
「彼氏と別れてから明らかに落ち込んでたからだよ。友達が機嫌悪かったらそりゃ飲みに連れてくるでしょ、気晴らしになるからね」
ということらしい。
この人も案外優しい人なのだろう。
高橋と川瀬の関係なんて俺は知らないし、今後知ることも無いはずだ。
しかし、川瀬の精神状態をしっかりと把握出来るくらいには周りを見ているということである。
ちょっとだけポイントが上がった。
そもそもがあまりにもマイナスすぎるから焼け石に水なんだけどさ。
「川瀬さん」
高橋が去ってから俺は川瀬を介抱する。
高橋、大久保ペアは何か良い雰囲気になっているし、薄井とその隣にいる女性もなんだか良い雰囲気だ。
あれはお持ち帰り成功したパターンだろう。
この俺が言うんだから間違いない。
となると、残されたのは俺と川瀬。
持ち帰るつもりはサラサラないが、川瀬をこのままここへ置いていくわけにもいかない。
放置して、変な男に付き纏われたとかって話は聞きたくないからね。
面倒だなと思っても、後々の事考えると俺の手でやった方が良い。
お金も無事に払ってあとは流れ解散。
それぞれが幸せそうに帰っていく中、俺は川瀬をおんぶする。
「恥ずかしくないんですか?」
「恥ずかしくないよ」
ということらしい。
お酒一杯でこんなになるなら、もう断って欲しい。
「……」
あれ、本当に一杯だけだったか?
たしかトイレ行く前に頼んでたチューハイ二杯最後の最後まで来なかったよな。
んで、机には不自然なジョッキが二つ、ドンドンと置いてあった。
さては飲みやがったな。
「お酒弱いって言いながらグビグビ飲むのやめてください。困るの俺なんですよ」
「困ってるの?」
「困ってますよ。家まで送らなきゃいけないんですし」
社会人であればタクシーに乗っけて、サヨナラバイバイで良かっただろうが、学生だとそうもいかない。
諭吉一枚渡せば足りるかな。
足りるだろうけど……彼女でもない人にそこまでの大金をポイッと出す余裕はない。
ましてや、飲み代俺が出しているんだ。
もう既に俺の財布はワンワン泣いている。
「で、川瀬さんはどの辺に住んでるんですか?」
「私住んでるのは大学の近くだよ」
「あ、そうなんですか」
「慧斗の家の近くだよ」
なんだ、それを先に教えて欲しかった。
それなら目的地もそこまで大きく外れないし、ついでって感じで気持ちも楽になる。
説明責任果たさなかった薄井のせいってことにしておこう。
うん、そうしよう。
「じゃあ、このまま帰りますよ」
「レッツゴー」
俺の背中で陽気な川瀬を駅まで運んだのだった。
飲み始めたのがまだ早い時間だったこともあり、「もう終電無くなっちゃったね」的な展開もない。
あったとしてもこんな酔っ払いには欲情しないがな。
そのまま電車に揺られ、自宅の最寄り駅へと到着したのだった。
この短い間にぐっすりと眠っていた川瀬。
彼女を起こし、肩に手を回して歩かせる。
川瀬の指示に従いつつ、歩き慣れた道を俺は歩いたのだった。
どこまで歩いても歩き慣れた道である。
そして、到着したのは俺の家。
もう一度言おう、俺の家である。
なんで?




