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43話『テスト前の惰性』

 セミの鳴き声が俺の耳を刺激する。

 喧しいと叫びたくなるような音。

 ミンミンという音だけでなく、ツクツクとかジリジリとかどこか耳に残る音たち。

 眠い時は耳障りだなと思うのだが、テンションが高い時に限っては夏を象徴する良い音だなと解釈する。


 「ふぁぁぁ」


 冷房の冷たい空気を体全体で浴び、ぐーっと背を伸ばす。

 誰も見ていないのを良いことに、大きな欠伸を一つした。


 目を擦りつつ、ベッドへ飛び込む。

 夏といえば、冷房でキンキンに部屋を冷やし、布団に包まる。

 これこそが醍醐味と言えるだろう。

 贅沢してるなと文字通り肌で感じるのが堪らない。


 『お疲れ様です。

 先日のお誘い頂いた件なのですが、敷田、栗原共に行きます』


 と、適当な文章を打ち込みそのまま推敲することなく、送信する。


 ボランティアの誘いについてだ。

 具体的に言うのならば、体験学習へ向かう小学生のサポートである。

 交通費支給、宿泊費ゼロ!

 向かうは栃木!

 こんなもん、行かない理由無いんだよね。


 目指すは日光東照宮。

 徳川埋蔵金を掘り当てて、億万長者目指しちゃうぞ。


 ってのは、置いておくとして、一応就職の時にボランティアへ行きましたと口に出来るのは強みだと思った。

 高校や大学の入試とは勝手が違うだろうから、ボランティアへ参加しましたなんて言葉響かないとは思うが、やらないに比べたら幾分かマシだと思う。

 少なくとも話の種としては十分すぎるだろうからね。


 ふと思い出してみると、大学生のお兄さんお姉さんたちが小学生の頃、ボランティアとして手を貸してくれていた記憶がある。

 きっとアレに似たようなものなのだろう。

 であれば非常に分かりやすい。

 想像もしやすい。


 『了解! ありがとう! 助かるよ』


 牧原からそのメッセージが返ってきた。

 俺は確認するだけして、そっとスマホの画面を暗転させる。

 そして、限界に達している脳みそを休ませることにした。


 ……夏バテ。



 「お前もボランティア行くんだって?」


 パシンと肩を叩かれる。

 振り向くとそこには薄井が立っていた。


 「ま、お前の彼女に誘われたからな」


 叩かれた部分を頑張って擦りながら歩く。

 肩甲骨辺りを叩くのはやめて欲しい。

 触るのに一苦労する場所だ。

 じわじわと痛みが広がっていくのは結構辛い。


 「俺の彼女……ね」


 うんうんと薄井は満足そうに頷いている。


 「うわ……なんだよその顔」

 「お前の彼女……って、めっちゃ良い響じゃない?」

 「うるさ、あー、ふーん。お前、そうやって彼女がいない人間に対してマウント取っちゃうんだ」

 「あ、そうだったな。お前もう彼女いないもんな」

 「へー、そういうこと言っちゃうんだ。いつか別れた時、覚悟しておけよ」

 「ふふ、お前らとは違って俺たちは別れたりしねぇーよ」

 「甘々じゃねぇーか」


 煽ろうとしても、幸せの上書きをされてしまう。

 結果として惚気のような話を聞かされる羽目になる。

 もうこれ以上の惚気話は俺の胃袋に収まらない。

 胃もたれちゃうからね、もうやめて。

 供給過多よ。


 「それよりも……」


 薄井はコホンとわざとらしく咳払いをした。


 「別に行かなくても良いんだぞ? 俺は半強制的に連れて行かれるんだけどさ」


 真意は分からない。

 なんか裏があるような言葉にも捉えられるし、そのままの意味だとも捉えられる。

 ちょっとばかし難しい。


 「うーん」


 唸りながら、思考を巡らすが早々に放棄した。


 「大丈夫。俺が行きたいって思っただけだから」

 「そうか」

 「もしかしてダルいかな?」

 「そりゃ小学生の相手なんてダルいに決まってるだろ」


 どうやら薄井はちびっこに対して良いイメージを持っていないらしい。

 こんなこと直接言うと怒られるだろうから心に留めておくが、想像通り過ぎる。

 解釈一致だ。


 「今度ボランティア行くメンツでミーティングがあるらしいから」

 「へー」

 「他人事みたいな反応してるけどお前も参加だからな」

 「分かってるって」


 そんな理解していないような顔していたのだろうか。


 「それにしてもなー」


 薄井は両手をグッと天井へ向けて伸ばし、そのまま肩甲骨のストレッチを始めた。

 その行動をしつつ、俺の隣で足を進めながら、口も動かす。

 マルチタスクも良いところだ。


 「お前ってこういうの嫌がるタイプだろ」

 「何が?」

 「ボランティアだよ、ボランティア。しかも泊まり込み」

 「お前もしかして俺の事極悪非道な人間だと思ってねぇーか? 俺だって慈善活動くらいするぞ」

 「いや、ちげぇーよ」


 手をぱっと降ろした薄井は苦笑する。


 「お前って家でダラダラしたいような人間だろ?」

 「それはそうだな」

 「だろぉ? だから不思議なんだよ」


 俺もどこか腑に落ちていないし、あっちはあっちで俺に対して疑問を抱いていたらしい。

 なんだろうね、別に信用してないとかじゃないんだけど。

 お互いに心のどこかで人は信用しちゃいけないと思い込んでいるのだろうか。

 ま、直近で人を信用するなという前例を目の当たりにしているわけだし、こうどこか疑ってしまうのも不自然ってわけじゃない。

 むしろ、人として当然だとさえ思う。


 「家でダラダラするのも好きだし、外出てダラダラするのも好きなんだよ」

 「ボランティア行ってもダラダラする気なのかよ」

 「適当に小学生と戯れてれば良いんだろ?」

 「概ね間違ってないな」

 「だろ? なら、くっそ簡単じゃん。余裕でダラダラ出来るだろ」


 別にあれやれこれやれって仕事を次から次へと投げられるわけじゃないだろう。

 どうせ、小学生のお目付け役を任させるんだ。

 適当に見守りつつ、自分は自分でダラダラしていれば良い。


 「なんか納得したわ」

 「そうか、そりゃ良かった」


 俺たちはそのまま教室へと向かう。

 期末テストに四苦八苦したのは言うまでもないだろう。

ゆっくりですが投稿再開します。

よろしくお願いします。

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