35話『真実』
あの修羅場から数週間が経過した。
季節は変わり、ジメジメとした蒸し暑さから、カラッとした純粋な暑さへと変化している。
日本の四季はやはり、春、梅雨、夏、冬なんだよ。
花粉、梅雨、夏、花粉、冬。
五季ってことにしておこうか。
冷房をガンガンに稼働させている俺の部屋。
外を地獄と形容するのならば、ここは天国と言えるだろう。
ま、圧倒的に過言だ。
涼しい空間に鳴り響くインターホン。
来訪者を知らせる。
俺は重い腰を上げて、玄関へ向かい、その来訪者を迎え入れるために扉を開ける。
「あーっと……。その、おはよう」
アハハと頬を掻く女性。
ポニーテールは揺れていてテンション高めに感じるが、表情は対極で憂い顔。
なんなら、目元が青紫色に腫れており、目を覆いたくなってしまう。
「おはよう、佳奈」
なんとか声を振り絞り、挨拶を返す。
明らかに殴られたような顔。
これに触れて良いのかどうか悩みに悩んで、何も無いような対応をすることに決めた。
触れて欲しいのならば、本人が先に口を開くだろう。
何も言わないってことは、見て見ぬふりをして欲しいということである。
勝手にそうやって解釈した俺は、何も無かったかのように振る舞い、リビングまで上げたのだった。
俺の向かいにちょこんと座る。
こうやって、一息吐いて、改めて見ると、痛々しい腫れだ。
触らなくとも痛いだろうと思うほど、ちゃんと腫れている。
「あーっと……」
言葉を探すが見つからない。
どうしても、目元の腫れに視線を奪われ、思考もそちらに吸収されてしまう。
結果として、かける言葉を考えるリソースでさえ、残っていない。
今日は佳奈が家に来たいと言い出した。
『お疲れ様です。
突然の連絡すみません。
けーちゃんの予定が合うタイミングで構わないので、今度家にお伺いしてもよろしいでしょうか。
不都合があれば、カフェでも構いません。
私の実家でも構いません』
というよそよそしいメッセージから始まった。
何か用事があるのだろうと、思いつつも、佳奈が口を開かないので俺も黙ったまま。
結局、何も話が進まず、ただ沈黙のまま時間が流れていくだけ。
催促したい気持ちもあるが、その他にも気になる点がありすぎて困ってしまうのだ。
目元の腫れは勿論だが、なんであんなによそよそしかったのかとか、いつもより髪の毛がボサボサなのはなぜなのか……とか。
とにかく気になる点が多すぎて、どこから突っ込めば良いのか分からず、佳奈の言葉を待ってしまう。
きっと、彼女が今からゆっくりと説明してくれるのだろうという期待を込めて。
決して、人任せにしている訳じゃない。
本当だよ?
「けーちゃん」
佳奈はやっと口を開いた。
絶望に満ちたようなトーン。
意味もなく抱きしめて、頭を優しく撫でてあげたくなる。
謎の母性が俺を擽る。
そんな弱々しい声音。
「これ……気になる?」
佳奈は首を傾げながら、目元の腫れを指さす。
ジロジロ見つめていたのがバレてしまったのだろうか。
苦笑しながら訊ねてくる佳奈を見て、そんなことを考える。
「ま、まぁ……」
果たして食い気味に聞いて良いことなのだろうか。
そんな疑問が浮かび上がり、俺は控えめに頷く。
視線を逸らそうとするが、気付けば腫れの部分に吸い込まれてしまう。
「これね、殴られたんだ」
アハハと笑う。
無理に笑っているような感じではない。
本当に心から面白いと思っているのだろう。
目も口も笑っているのが何よりの証拠だ。
これが演技であるならば今すぐに女優にでもなった方が良い。
顔も良くて、演技も上手いとかあちこちに引っ張りだこだと思うぞ。
「ま、そりゃそうだろうな。転んで出来るような痣じゃないし、自分でやったなら引いてた」
殴られないと出来ないような痣である。
「私が自分でやるわけないでしょ」
何馬鹿なこと言っているんだというような視線。
「仮定の話だよ。仮定な」
「分かってる」
佳奈はうんと大きく頷く。
顔を動かす度に揺れるポニーテール。
今まで気にしていなかったが、こいつポニーテール似合ってるな。
「何? なんか着いてる?」
佳奈は顔を歪めながら、髪の毛をこれでもかと触る。
「すまん。なんでもない」
俺は首を横に振る。
「誰に殴られたんだ?」
そう言いつつも、話している最中に大体の目星は付いていた。
このタイミングで、佳奈を殴ったりする人間は一人だろう。
と、分かっていながらも聞いてしまう俺はきっと性格の悪い人間だ。
「長谷川……先輩」
俺の頭の中にあった人間が彼女の口から出てくる。
殴られたことをまずは慰めるべきなのだろう。
そう理解はしている。
しているのだが……、佳奈の口にしていたことは真実だったということに安堵してしまった。
「そっか……」
重々しい雰囲気を出しつつも、内心は嬉々としている。
「とりあえず、お茶出すから待ってて」
表情を綻ばせる前に俺は一旦この場から退避する。
最低だと、佳奈に言われる前に。
お茶を出す。
「ありがとう」
佳奈はそう言いながら、受け取り、呷る。
「話して良いかな? 殴られた経緯とか」
グラスを机にトンと置くなり、話を進める。
真剣な眼差し。
茶々を入れたり、断ったりできない雰囲気だ。
元々する気は無いが。
「頼む」
俺はコクリと頷く。
俺の反応をしっかりと確認してから、佳奈はなぜ殴られたのかというのとを事細かに説明し始めた。
「川瀬先輩に証拠を残してこいって言われたでしょ? あの後すぐに連絡をとったの」
「長谷川とか?」
念の為に確認しておく。
ここで、違う人のことを話すようなことはないだろうから、意味の無い確認だとは思うが、念には念を……だ。
「うん」
佳奈はコクリと頷く。
「けーちゃんに別れるって言われた日からあの人とも連絡取ってなかったから、ブロックされてるかもって思ったんだけど、すぐに返信が来たの」
佳奈はそう言うと、スマホの画面を見せてくれた。
スマホの画面に表示されているのは、メッセージアプリのトーク画面である。
丸みを帯びた吹き出しに、こちらのメッセージと相手のメッセージがそれぞれ書かれている。
「お久しぶりです。もし良ければご飯食べに行きませんか?」
『佳奈ちゃんお久しぶり。
そっちはそっちで色々大変だったでしょ?
労いも兼ねてどっかご飯食べに行こうか』
「ありがとうございます」
というメッセージとその後に続く、日程を決めるやりとり。
所々に女の子らしい絵文字を使っている。
このやり取りを目にすると、心がズキズキと痛む。
まるで、誰かの手によって握りつぶされているんじゃないかと錯覚するほどに。
「こんな感じ」
全てを達観しているような、でもどこかに優しさがあり、辛い時には抱擁してくれそうな……そんな甘い表情。
「で、行ったと」
「そういうこと」
佳奈はそう言うと、スマホをしまった。
「ご飯食べに行ったのは普通のファミレス。けーちゃんと良くデート帰りに寄ったところ。懐かしいなぁ……」
佳奈は物思いにふけるような表情で壁を見つめる。
某ファミリーレストランだ。
学生御用達のあそこである。
「で、ご飯食べつつ色々話したの。ちょっと気持ち悪いことも言ってたけど、我慢した」
「気持ち悪いこと?」
ボヤかされると気になってしまう。
これは別に佳奈が隠したからとかじゃなく、純粋に人間の本能としてだ。
「聞きたい? ボイスレコーダーに録音してあるよ」
と、ボイスレコーダーを取り出す。
いや、長谷川の肉声で気持ち悪い言葉は聞きたくない。
色々思い出して、吐き気が催されそうな気がする。
特に、あの営みが頭をチラつくだろう。
チラつくだけなら良いが、主張激しいかもしれない。
「大丈夫。男には興味ないから」
俺は首を横に振って断る。
「そう。知ってたけど」
佳奈は少しだけ寂しそうに頷いた。
なぜ、寂しそうなのかは分からない。
俺の精神を崩壊させたいのかな。
そんな適当なことを考える。
「で、その後ホテルに誘われたの」
「行ったのか?」
食い気味に確認した。
佳奈は首を横に振った。
「ホテル行ったら絶対に襲われるから丁重にお断りした」
「英断だな」
「私これでも学習するから」
瞳に哀愁を漂わせる。
「その代わりに公園行きませんか? って、提案したの。そしたら普通に乗っかってくれたから公園に行ったの」
「公園か」
「そう、で、ベンチに座って色々話してたら殴られた」
それでこれだと言わんばかりに、目元の腫れを強調させてくる。
「どうせ信じられないでしょ? 今までの私は信じて貰えないような行動をしてきたから仕方ないよね。だから、これ聞いて」
佳奈はそう言うと、ボイスレコーダーのファイルを再生し始めた。
長谷川と佳奈の会話が鮮明に聞こえてくる。
俺は頬杖をつきながら、ボイスレコーダーから流れてくる音声に耳を傾けたのだった。
◇
『潤一さん、ごめんなさい。公園に行きたいなんて言って』
『良いんだよ。無理矢理ホテルには連れて行きたくないからね』
風の音が時々ボイスレコーダーに吹き込まれている。
どういう録音環境なのだろうか。
少なくともポケットにしまっているわけじゃなさそうだ。
『ありがとうございます』
『せっかくこう味気のある公園に来たし、ある意味ちょうど良いかもね』
『ちょうど……良い……ですか』
『そう。ちょうど良いね。
俺は佳奈ちゃんの事が好きなんだ。もう知ってるかもしれないけど。
今の俺はフリー。真衣とはもうキッパリ別れたし、他の言い寄ってくる女とも一旦距離を置いている。だから、佳奈ちゃん。俺と付き合って欲しい。
この通りだ』
という声と共に聞こえてくる、パサっと言う布と布が擦れる音。
何をされているのかは分からない。
これが音声の悪いところだ。
『潤一さん。とりあえず顔上げてください』
佳奈の言葉で長谷川が頭を下げていたことが分かる。
お辞儀をしていただけなのか、土下座をしていたのかは分からない。
ま、プライドとか高そうだし土下座はないか。
勝手にそう解釈する。
『返事は? 俺の思い伝わったよな。
佳奈ちゃんだって、あの冴えない男と別れられて良かったよな?
今フリーだろ? 俺と付き合わないか?
絶対に幸薄そうなあの男よりは佳奈ちゃんを幸せに出来る。
俺にはその自信がある』
ペラペラと早い口調で、押してくる。
自信がある男ってのはこうも自分を全面に押し出すことが出来るのかと、感心してしまう。
少なくとも俺には無理だ。
相手のことをバカにできるほど、自分ができた人間じゃないのは理解しているし、そもそも幸せにするとか宣言できない。
『だからさ、これからは俺と人生楽しもう。
幸せをすり減らした佳奈ちゃんはこれからは人生を楽しむ権利があるからね。
俺と幸せを掴もう!』
勢いだけは一丁前だ。
『すみません。本気ですか?』
『俺は本気だ』
面倒くさそうな佳奈の声に対して、熱意が凄まじい長谷川の声。
あまりの温度差に笑ってしまいそうになる。
『そうですか……。お断りさせてください』
『ありがと――え?』
成功するビジョンしか描いていなかったのだろう。
意気揚々とした声音から突然、地獄へ落ちたような声音へと変化する。
人ってここまで声のトーンを変えられるんだとビックリするほどだ。
『なんで?』
『いや、潤一さん。私の事殴ったり、蹴ったりしましたよね?』
『それはそうだけど。でも、それは佳奈ちゃんがホテルで騒いで、襲われたから警察行くってヒステリック起こしたからで……』
『ヒステリック!? 酔ってた私を襲ったのは誰ですか?』
『あれは同意の上であって――』
『同意なんかしてませんよ。私はなんて言ってましたか?』
返答はない。
暫く沈黙が流れる。
『答えられなくて当然ですよね。私は同意なんてしてないですから。襲われて、殴られて、口封じされて。私の幸せを奪い取った挙句、私の好きな人を罵倒して、で、自分だけは幸せになろうなんてそんな甘ったれた話ありますか?』
声は震えている。
『殴ったり蹴ったりしたのはあの一回だけじゃないですよね。私が少しでも潤一さんから逃げようとしたら必ず暴力を振るってきましたよね。あれは何なんですか? 愛情表現だったんですか』
『それは――』
『少なくとも私にはそういう趣味はありません。私の幸せを返してくださいとは言いません。ですが、私は潤一さんを幸せにしようとも思えません。
今日は付き合っていただきありがとうございました。
そこは感謝しています。
でも、金輪際私に近寄らないでください。これ以上私を不幸にしないで下さい』
この言葉と同時に聞こえてきたのはパチンという激しい音。
『言いたいように言わせてれば、随分と生意気なこと言ってくれるじゃん』
口調が凶変したのは多分長谷川だ。
一瞬、違う人が乱入してきたのかと思ったが、長谷川の声っぽさが若干残っている。
『こんなにイケメンで頭も良いし、親のコネももちろんある。就職だってもう決まったようなもんさ。
そんな俺からの告白を佳奈ちゃんは断った。
それってどういうことか分かる?』
と、質問を投げかけるが、佳奈が答える隙も与えない。
長谷川はハハハと高笑いをして、主導権を握り続ける。
『バカに何をしたか分かるかって聞いたって分かるわけないか』
『なんですか。暴言を吐けば頷いてくれると思いましたか?』
佳奈は負けじと挑発する。
『佳奈ちゃん。俺が君のことを好きだからってあまり舐めた口聞かない方が良いよ』
『舐めた口ですか……。私はあくまで本心をそのまま口に――』
ゴンッという骨と骨がぶつかった音。
『いたっ……』
佳奈は声を漏らす。
『なんで目殴るんですか……。失明したらどうするつもりなんですか』
『挑発してきたのはそっちだろうが。
俺は売られた喧嘩を買っただけだ』
『暴力をすれば従えることが出来ると思いました?
残念ですね。頭が良いならそれぐらい分かるはずだと思うんですけど……。
髪の毛引っ張るのやめて貰えませんか。痛みます』
『お前な! 覚えとけよ。周りの人間に感謝の言葉でも伝えておけ。
で、涙を流す準備でもしとけば良い』
『ふふ、忠告ありがとうございます。私の前から立ち去ってください』
『調子に乗るなよ!』
という長谷川の叫び声。
足音がどんどんと小さくなっていく。
そして、足音が聞こえなくなった辺りで、佳奈が『痛すぎる……。目見えなくなっちゃうのかな』と、呟いた声がボイスレコーダーにしっかりと記録されていた。
◇
「どう? これなら信じてくれる?」
芝居染みた口調に、芝居を彷彿とさせる表情。
俺は佳奈の肩をギュッと掴む。
「佳奈!」
「え、あ……はい」
佳奈は頬を紅潮させ、視線を逸らす。
俺は構い無しに言葉を佳奈へとぶつける。
「お前何してんだ」
「え……何って――」
「なんでそこまで煽った? なんで暴力振るわれて叫ばなかった! 死ぬつもりか!?」
「何でって……。私がずっとやられてきたことだったから。それに、最後くらい清々したかったし」
そうか。
佳奈にとってこれくらい普通なのか。
いつもこういう暴力を振るわれ、時に暴言を吐かれ、これから逃げるために言いなりになっていたのか。
扱いがもう奴隷だ。
世が世なら性奴隷扱いされるだろう。
「ごめんな、佳奈」
俺はゆっくりと肩から手を離し、ゆっくりと俺がさっきまでいた場所へ戻る。
「俺が助けてやるべきだったな。この録音だって俺が手を貸してやれば良かった。せめて、近くで見守ってやれば良かった」
「それじゃあ川瀬先輩は……」
「佳奈に死なれるのはもっと困る」
「生きてるよ? 私」
首を傾げながら、微笑む。
「それに今まで私は十分助けてもらったから。今回くらいは自分の手でやらなきゃ」
「でも今まで佳奈が苦しんでいる間、俺は何もせずにのうのうと生きてた。俺は幸せだし、佳奈も幸せだ。そう思ってた。俺はまだ佳奈を助けられてない」
「ううん。けーちゃんには沢山助けてもらったの。それにけーちゃんと居る時だけは幸せだったから。それだけで十分だったの」
佳奈は机上に左手を置き、体重をかけ、俺の唇に人差し指を置く。
「良いの。もう終わったことだから。自分を責めないで」
佳奈はニコッと微笑む。
痛々しい腫れをそのままにして。
「それに私だって悪かった。アレと体を交えたのは事実だし、それでけーちゃんを傷付けちゃったのも事実だから」
アハハと頬を掻く。
「何度も思うし、何度も言ってるけど。もしもあの時の私に助けを求める勇気があればきっと今も幸せに手繋いで、抱き合って、笑いあってたんだろうなって」
感情が綺麗に無くなったような無を佳奈は顔に作る。
俺にも葛藤があり、佳奈にも葛藤があった。
二人とも進むべき道を間違えた結果が今の惨状だ。
あれ、なぜか目から水が……。
泣くつもりなんて全くなかったのに。
俺はこの泣き顔を晒したくなかったこともあり、佳奈へ思いっきり抱きつく。
「佳奈。ごめん。助けてやれなくて。本当にごめん」
佳奈の温もりを感じる。
ギュッと力のある抱擁。
今だけは許して欲しい。
これが最後だから。
◇
気付けば佳奈も泣いていた。
二人で泣いて、泣いて、泣いた。
大の大人二人がもう立場とかそういうこと考えずにひたすらに泣いた。
ここまで泣きじゃくったのは何年ぶりだろうか。
ちゃんと泣いていた。
しばらくすると、落ち着きを取り戻す。
俺は佳奈から離れ、目を擦る。
佳奈の目は真っ赤だ。
こう見ると、今殴られた人みたいになってしまう。
「その証拠さえあればアイツは一発でアウトだろ」
「私のこれもあるし」
佳奈は楽しそうに腫れた目元をゆびさす。
「そうだな」
ふと、思った。
「てか、病院行かないの?」
「うーん。そろそろ行こうかな」
「両親はなんて言ってるんだ?」
「顔見せてないから」
思ってもいない発言。
俺は首を傾げる。
「ほら、けーちゃん、私の実家に顔出したでしょ?」
「お前が家飛び出した時か」
「飛び出したって大袈裟だけど」
佳奈は口元に手を当てながら笑う。
「あの後家帰ったら、ママとパパに物凄い形相で怒られたの。最初は謝ってたけど、私が浮気をしてないってことを一切信じてくれなくて、ずっと私のことを悪者扱いしてたの。でも、それも私が悪いことしたから。だから、受け止めてたの」
「おう」
「でもね、『お前は慧斗くんを愛していない』って言われて堪忍袋の緒が切れちゃったの。で、喧嘩してお互いに顔合わせずに生活してるって感じ」
だから、佳奈パパや佳奈ママから状況を確認する連絡が無かったのか。
娘が突然目元に大きな痣と腫れを作ってきたら、病院に連れていくし、事情を確認するために知ってそうな人間に連絡もするだろう。
納得だ。
てか、この喧嘩の原因間違いなく俺だよな。
不用意に家へ上がって、事情を全部話して、その後は放ったらかしにしてしまった。
結果として、栗原家に軋轢を生じさせた。
「いやー、常々なんかすまんな」
俺は髪の毛を触りながら謝罪したのだった。




