28話『友達に電話で相談』
もう外は真っ暗。
街灯に虫が気持ち悪いほど集まる。
あそこに石を投げたらどうなるんだろうか。
そんなしょうもないことを考えながら歩く。
というか、佳奈パパ大変だな。
佳奈ママに呼び戻されていなかったらまだ仕事してたんだろう?
ちゃんと社畜じゃん。
もしかしたら営業先で土下座しまくっているのかもしれない。
あんなに綺麗な土下座中々見れない。
やっぱりそうなのかしら。
社会人って大変だな。
一生大学生が良いわ。
俺の仕事はまだ終わりじゃない。
むしろ、ここからが本番である。
佳奈を探し出すこと。
今俺に課された使命だ。
どこか遠くで鳴っている救急車のサイレン。
いつもならば、また鳴っているな程度なのだが、今日はもしかしたら……と考えてしまう。
佳奈ママが言うには大丈夫と口にしていたが、やはり人間最悪な想定を常にしてしまうものである。
え、俺がネガティブ人間なだけ?
とにかく佳奈を探さなければならない。
居るであろう場所をまずは考える。
実家には居なかったし、俺の家にも居ない。
帰ってるパターンってありえるのかな。
あまり考えたくはないけれど。
可能性として、佳奈の知り合いの家とかが一番あるだろう。
しかし、佳奈の知り合いとは大して仲良くない。
そもそも交流自体が希薄だった。
俺は佳奈の知り合いと関係を深めようと思っていなかったし、逆もまた然りという感じだろう。
連絡先どころか名前すら覚えていない。
なんなら、顔さえボヤけている。
知り合いの家に転がり込んでいるのならお手上げ状態だ。
ま、それならそれで良いのかなとも思う。
友達が上手いこと機嫌取ってくれるに違いないからだ。
俺が元気付けるか、友達が元気付けるかの違い。
さして大きいものとは思えない。
他に行くならどこだろうか。
あれ、振り出しに戻ってしまった。
佳奈が行きそうなところ。
そう言われて、思い当たるところが出てこない自分が恥ずかしい。
仮にも彼氏と彼女という関係であった。
なのにも関わらず、佳奈が行きそうな場所すらわからない。
何でも知っている気になっていただけに、悵然とため息を漏らしてしまう。
浮気をしていることも知らなかったし、佳奈がフラッと足を運びそうな場所すらも知らない。
何でも知っているところか、俺は何も知らなかったのだ。
俺はスマホを手に取る。
一人で悩んでいても答えは出てこない。
人とは時に支え、時に支えられ生きていく。
友達を支え、また友達に支えられる。
ということで、もう腐れ縁と言ってもなんらおかしくない関係値まで到達した人物へと電話をかける。
時間も時間だ。
夕方から夜にかかるこの時間。
一般的には仕事を除けば一番忙しい時間帯だろう。
あと少し待てば、就寝までの空き時間となるだろうが、この時間だとご飯を食べたり、お風呂に入ったりと忙しいはずだ。
それでも俺が頼った相手は三コールで出てくれる。
持つべきは友だ。
電話に出ただけで勝手に感動してしまった。
『もしもし』
聞き慣れた声がスマホのスピーカーから伝わってくる。
「俺だよ、俺。俺だよ」
『何そのオレオレ詐欺みたいな対応』
呆れたような声が聞こえてくる。
俺はコホンと咳払いをすると、先にあっちが話を進める。
噛み合わなくて、苦笑しつつもしっかりと聞く。
『電話とか珍しいな。何かあったのか?』
「何かあったんだよ」
そう前置きをしつつ、軽く説明した。
数少ないあの修羅場に居合わせた人間である。
その辺の経緯を詳しく説明しなくても良いのが非常に楽だ。
俺の家に佳奈がいて、謝罪し、どこかに消えた。
どこにいると思うか。
簡潔にまとめるとこの二点を訊ねた。
『うーん』
という唸り声がスマホのスピーカー越しに聞こえてくる。
そりゃそうだろう。
俺が分からなくて、薄井に分かるわけが無い。
ここでどこどこに居るんじゃねぇーのっていう完璧な答えが返ってくるとか、絶対佳奈のことストーカーしているだろう。
『ま、分からないけどさ』
と薄井は前置きをしつつ、自信なさげには言葉を続ける。
『敷田との拗れが原因だろ?』
「ま、そうだろうな」
俺の前から姿を消したのもきっと彼女なりに関係を断ち切ろうとしたからだろう。
『じゃあ、あれじゃね。敷田と佳奈ちゃんが付き合ってる時に行った思い出の場所にでも居るんじゃないの』
「何それ、青春じゃん」
『女の子ってのはそういうもんじゃねぇーの』
とりあえず、薄井が女性に対してとんでもない理想を抱いているってのは深く理解出来た。
別れた女の子が思い出の場所で物思いにふけるって、どこのラブコメだよ。
ってか、ラブコメでそんなのあっても甘酸っぱすぎて見てられない。
「うーん、そういうもんかね」
流石にそれはありえねぇわと言えなかったので、濁す。
相談しておいて、頭ごなしに否定するほど俺の性格は腐っていない。
『そういうもんだろ』
「そっか」
『話は終わりか?』
「おう。忙しいのにサンキュな」
『良いってことよ』
こうしてツーツーと電話は切れる。
「ふぅ」
選択してとして、思い出の場所を巡るというものが増えた。
果たしてこれが正解か間違いかなんてものは分からない。
実際に足を運ばなきゃ、そこに居るか居ないかなんて分からないのはごく当然のことである。
しかし、今俺の中には二つの選択肢しか存在していない。
それは非常に簡潔なもので、何もせずに放浪するか、とりあえず思い出の場所を巡ってみるかという、どちらも頼りにならないある意味究極の二択。
ただ、この二択であれば後者を選択するだろう。
途方のなさで比べれば、後者の方が若干優しい。
それでも幅広いことには何も変わらないのだが……。
俺は進行方向を変えて、スタスタと歩き始める。
佳奈との思い出を頼りに、佳奈が居そうな場所を目指して。
ただひたすらに突き進む。




