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浮気現場を目撃するドン底から始まった異端なラブコメ  作者: 漆田
一章 〘浮気はきつし怒る乙女〙
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21話『心配と恐怖』

 暴走機関車は止めたくても止められない。

 勢いがあり、体ではもちろんながら止められないし、ブレーキは壊れているので機械的にも止められない。

 動力自体をストップさせても、勢いはあるのでそのまま進んでいく。

 ま、要するに暴走機関車となった時点で敷かれたレールの上に障害物が無いことを願うのみなのだ。


 で、俺は今、暴走機関車元い川瀬真衣を引き留めようとしていたが、呆気なく撃沈した。

 高橋への恨みを原動力で動いている。

 そもそも高橋は恨まれるほどのことを口にしていたので、こればっかりはしょうがない。


 怒りを露わにする程度なら俺だって止めやしない。

 むしろ、一緒になって怒ったって良い。


 しかし、だ。

 高橋に直接会って話をするとか言い出したのだ。


 学校で会っているだろうと思うかもしれない。

 最低限の理性はあるらしく、今のところは何も無かったかのように振舞っているらしい。

 これも川瀬本人の言葉なので、第三者から見るとまた変わるかもしれないが。

 とにかく、本人は普通に振舞っているつもりだ。


 川瀬の考えを深く聞くと、自宅に高橋を呼び出し、徹底的に責め立て、再起不能にするのだという。

 周りに聞かれないという密室空間。

 逆に捉えると、助けを求めても助けが来ないとも考えられる。


 だから、必死に止めようとしていたわけだ。

 ま、聞く耳を持たないのでもう諦めた訳だが。


 諦めたとはいえ、見捨てたわけじゃない。

 川瀬の目的を実行させつつも、安全な方向へ持っていくことにした。

 現状、俺が出来るのはこのくらいしかないと思う。


 「本当に家でやるつもりなんですか?」


 学食で昼食をとる俺と川瀬。

 向かいの席には川瀬が座っており、トロリとした玉子が被さったオムライスを美味しそうに頬張る。


 「それ以外にどこがあるって言うのよ」

 「……それはそうですけど」


 代替案。

 これは分からない。

 車と思ったが、これじゃあ密室という結論は変わらない。

 じゃあ他にどこがあるって考えると答えに悩む。

 密室が良い川瀬と密室を避けたい俺。

 根本としているところが違うので、両者が納得できる答えなど出るはずがない。

 どちらかが妥協しなきゃならない。


 ま、今の川瀬が妥協するなんて有り得ないけどね。


 高橋の言葉だけであれば、ここまで川瀬は怒らなかっただろう。

 もっと周りが見えて、いつもの大人っぽく冷静に物事を考えることが出来たはずだ。

 しかし、今回はどういう形であれ長谷川が関わってしまった。

 高橋の一方的な関わりだとしても、関わっている事実には変わりない。


 「ないんじゃない」


 しばらく黙っていたからだろう。

 そう川瀬はまとめた。

 気付けば、川瀬はオムライスを食べ終えていた。


 ふぅ、と小さく息を吐き、立ち上がろうとしている。


 「川瀬さん、ちょっと待ってください」

 「何よ」


 不機嫌そうに俺の事を見つめてくる。


 「何? もしかして、慧斗もあっち側の人間なの?」

 「違います……。僕が高橋さん側ならそもそも言いませんって」

 「それもそうね」


 納得したように空の皿を机に置いて座る。


 「僕は川瀬さんが心配なだけなんです」


 押せば行ける。

 そんな甘い考えを持ってしまった俺は追撃するように言葉をかける。

 しかし、川瀬の表情は明るくなるどころか、曇り始める。


 「高橋さんは、その、えーっと……。な、何してくるか分からないですし」


 川瀬の圧に屈してしまい、言葉を吃らせてしまった。

 視線も川瀬へ向けることが出来ず、ツーっと他の方向へ逸らしてしまう。


 「慧斗は私の事心配してくれているのね」


 頬杖をつく川瀬は俺の事をじろりと見つめる。

 口元こそ笑っているのに、目元は全く笑っていない。


 「ま、そりゃ。境遇とか同じですし。これでも僕、川瀬さんのこと尊敬してますし」


 我ながら恥ずかしいことを口にしてしまったと思う。

 頬に火照った感覚があった。

 今俺は顔を真っ赤にしているだろう。

 鏡がないので、どうなのか分からない。


 頬に両手を当てると、ほんのりと温かさがあった。

 やはり、顔を赤くしているらしい。

 頬を隠すように、そのまま手を当てる。


 「……私の事尊敬してるんだ」


 目を丸くしてこちらを見つめる。

 一応これでもそのような素振りを幾つか見せてきたつもりだった。

 直接口に出していなかったので、気付いていなくても責められない。

 とはいえ、伝わっていなかったのかと少しショックだ。


 川瀬とはいえ、超能力は使えないだろうから致し方ない。


 コホン。


 気持ちをもちなおすために、一度わざとらしい咳払いをしておく。


 「同じ境遇なのに大人な立ち振る舞いできる川瀬さんに尊敬の念を抱いたんですよ。僕はなんだかんだ言ってワガママでしたから」


 あの時のことを思い出す。

 完璧な対応だったとはとてもじゃないが言えない。

 もっと、彼らの心を抉り取ることが出来たと思うし、クールに片付けられた気がする。


 あの映像を見せるのだって結局は薄井が行ったことであり、俺は金魚の糞のように着いて回って、流れに身を任せていただけ。

 そして、着地したところで、なんとか自分の任務をこなしただけに過ぎない。

 本当はこの一連の流れを全てを自分でやらなきゃならなかったのだろう。


 っと、反省会はここらにしておこう。


 「そう」


 何かを考えているのだろう。

 イマイチ読み取れない表情で頷きつつ、淡白な返事をした。


 「それなら慧斗も私の家に来れば良いんじゃない?」

 「はい?」


 突拍子のない提案に俺は思わず聞き返してしまう。


 「家に行ってどうするんですか?」


 一つ間を開けてから俺は更に問う。

 家に行って何をしろと言うのだろうか。

 もしかして、川瀬の隣でちょこんと座り話を聞いておけとでも言うのだろうか。

 変な構図すぎて言葉が出てこない。


 喧嘩しそうな川瀬と高橋。

 そして蚊帳の外の俺。

 どうしよう。

 容易に想像出来てしまう。


 「慧斗が何を危惧しているのか分からないけれど……」


 と、前置きをしつつ、俺の気になっていた点をしっかりと説明するかのように、口を動かし始めた。

 言葉を失ってしまっていた俺は、何も喋ることなく、ただ川瀬の目を見つめるだけだった。


 「私と千尋(ちひろ)が喧嘩していることを危惧しているのなら私の家に潜んで、ヤバいと思ったら助けに来てくれれば良いんじゃない?」


 潜む。

 この表現に引っ掛かった。


 「潜むって……。まるで、隠れるみたいじゃないですか」

 「隠れるみたいじゃなくて、隠れるのよ」


 何を言っているんだというような視線。


 「はぁ……」


 隠れるってどこにだよ。

 そう思案する。


 女性の部屋で隠れる定番の場所と言えばやっぱりベッドの下だと思う。

 いつの間にかに入り込んでいたストーカーが、ベッドの下で相手の女性の生活を覗き込むなんてことは結構耳にする。

 他の場所だと、屋根裏とかかな。

 全く知らない人が屋根裏に住み着いてて、家に誰も居ないタイミングで飯を食ったり、御手洗に行ったりするって、この前報道番組でやっていた。


 うーん、ダメだ。

 どれもこれも犯罪チックな想像しか出来ない。


 「全然想像出来ないんですけど」

 「押し入れに隠れてれば良いんじゃない?」

 「押し入れですか」

 「そう」


 押し入れに隠れる所を想像する。

 なんだろうか。

 どうしても青色のロボットが頭に浮かんでしまう。


 「でも、それじゃあ様子確認できなくないですか?」

 「少し開けておけば良いじゃない。そもそも私は穏便に済ませるつもりだし、心配しなくて良いわよ」


 川瀬はそう口にする。

 本人がそう言うなら、心配するだけ無駄なのだろうか。

 ま、杞憂で終わるなら、それはそれで良い。

 だが、実際にどうなるかなんて分からない。

 大丈夫だと安心しきっていても、実際はダメだった……なんてことは良くある。


 佳奈に浮気されるなんて思っていなかったのに、実際には浮気されていたしな。

 本当に一寸先は闇である。

 大丈夫なんてことはこの世に無いのだと教えられた。


 「心配なのは心配です」

 「なら、押し入れに隠れてなさいよ」


 ま、表に出て……ってのも、有り得ないし仕方ないだろう。

 ここは俺が素直に妥協して受け入れるしかない。


 「分かりました。じゃあ、押し入れで様子見てます。助けなきゃって僕が判断したら出ますからね」

 「良いわよ。っても、そんなこと起こらないから安心していて良いわよ」


 そう胸を張る。

 やっぱり心配するだけ無駄なのだろうか。

 そんな思いが走った。

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