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浮気現場を目撃するドン底から始まった異端なラブコメ  作者: 漆田
一章 〘浮気はきつし怒る乙女〙
19/43

19話『友達の推測』

 「犯人見つけたわ」


 隣に座る薄井に対して、そう声をかける。

 ここ最近はずっとこの話題で持ち切りだったこともあり、この端的な言葉で薄井にはしっかりと伝わった。


 「そうなんだ。良かったじゃん」


 ニカッと男らしく笑う。

 薄井には関係の無い話なはずだ。

 なのに自分の事のように笑ってくれる。


 「で、犯人は誰だったんだ?」


 首を傾げる。

 ミステリー小説でも読んでいるような感覚なのだろうか。

 ま、犯人は誰だろうって気になるのは当然だと思う。


 「犯人は高橋ってやつだよ」

 「汎用的な名前だな……。俺たちと同じ学年?」


 一般的な苗字を汎用的って言うのはやめた方が良いと思う。

 佐藤さんとか田中さんとかに殴られそうだ。


 「いや、先輩」


 そう口にすると、薄井は眉間に皺を寄せた。


 「ほら、飲み会の時に居ただろ。ボスとか言われてたやつだよ」

 「あー、アイツがやってたのか」


 頭を抱える。

 薄井からしたら知り合いが知り合いに嫌がらせしていた構図が完成したわけだ。

 そりゃ頭を抱えたくもなる。


 「理由とか聞けたか?」

 「うーん、キラキラしたいからって言ってたな」

 「は?」


 お前何言ってんだ。

 そう言いたげな視線。


 「俺は真面目な話をしてるんだ」


 肩をギュッと掴み、熱い視線を俺へと送る。

 思わず焼けてしまいそうになる熱さ。

 俺はひとまず、薄井を無理矢理引き剥がし、パタパタと顔を手で扇ぐ。


 「俺は至って真面目だ。大真面目だ」

 「キラキラしたいって回答が大真面目? んなわけあるかよ。ついに頭ぶっ壊れちまったか?」

 「ぶっ壊れてたら良かったって俺も思うよ」


 きっとぶっ壊れていたらここまで悩まずに済んだだろう。

 これでも頭の中は正常なので、苦しんでしまう。

 頭の中がお花畑であればどれだけ良かったことだろうか。


 「でもね、現実なんだわ。この二つの耳でしっかりと聞いたから。キラキラしたいからってね」


 訝しむような視線。

 まだ信じてもらえていないようだ。

 だが、お前信じろよ! と怒る気にもなれない。

 世間一般的には薄井のような反応が自然なわけだ。


 「俺の頭が既にぶっ壊れてて、正常な反応が出来ないんだったら話は別だけどな」


 俺は苦笑しつつ、付け加えた。


 信じるか信じないかはあなた次第です。

 そうようなニュアンスで薄井に言葉をぶん投げる。

 ぶっ壊れてると思うか、俺の言葉を真として受け入れるか。

 薄井次第である。


 「はぁ。詳しく話聞くから教えろ」


 面倒くさそうに髪の毛をたくしあげる。

 そして、机に頬杖をつき、こちらを見つめる。


 俺は全てを簡潔に話した。

 勝手な脚色をしないよう細心の注意を払いつつ、要点をつまむ感じで。

 一方的な感情を入れて話せば、高橋を悪者にすることなんて容易い。

 しかし、それじゃあやっている事が高橋と対して変わらない気がする。

 ま、俺の勝手なプライドだ。


 一通り話終えると、腕を組み、何か考えるように顔を顰めている。

 俺はとくに何か声をかけるわけでもなく、静かに考え込む薄井をただ見つめるだけ。

 じっくりと考えて、自分なりの答えを導き出して欲しい。


 そりゃ、俺の事を持ち上げて欲しいし、お前は良くやったと褒めてやって欲しい。

 だが、それは俺の希望でしかない。

 はっきり言って今の俺は正常な判断が出来ない異常な状態。

 高橋を根っからの屑と決め打ち、その思考を固めてしまっている。

 故に、柔軟な考え方が出来ない。


 なので、高橋が何を言っていてもコイツは屑だという思考に纏まってしまう。

 ここで第三者である薄井の意見を聞くことで、客観的にどう見えるのかを把握することが出来るってわけだ。

 薄井が口を開けるまで俺は待てを指示された犬のようにジーッと待機する。


 「まとめると、高橋先輩は長谷川先輩の株を下げたくないから、川瀬先輩の株が下がるであろう写真を拡散した……と」


 俺はコクリと頷く。

 ここまでギュッと纏められるのかと驚く。


 「ま、そんなところだな」

 「そうか。てか、疑問なんだが、高橋先輩は浮気の件知ってるのか?」


 首を傾げながら訊ねてくる。


 「いや、知らないんじゃない?」


 知っているのなら、株を下げないような工作をしようとしないだろう。

 ……ってのは、一般的な思考に過ぎないか。

 高橋は明らかにぶっ飛んでいる。

 思考回路がめちゃくちゃな不良品と言っても問題ないだろう。

 とにかく、そういう人物だ。

 俺の常識が通用するとは思えない。、

 であるならば、浮気の件を知っていてもおかしくないか。


 「多分……」


 俺は自信なさげに付け足す。

 冷静に考えてみれば考えてみるほど、高橋が浮気のことを知っている可能性が高くなるんだから仕方ないだろう。

 自信なんてどこかへ吹き飛んでしまう。

 当然だ。


 「じゃあ、知っていたと仮定しよう」


 と口にした瞬間チャイムが鳴る。

 俺たちは廊下の端の方にある休憩スペースの簡易的な椅子に座っている。

 このチャイムは授業の開始を知らせるチャイム。


 「サボる?」


 俺は薄井へ問う。

 一回分の欠席をここで使用するのはかなり勿体ないと思いつつも、その欠席一回で薄井から話を聞けるのであれば悪くないかなと判断した。

 薄井は首を横に振る。


 「せっかく大学来てるのにサボるなんてもったいねぇーだろ! サボりたい時にサボれなくなるぞ」


 優等生ぶるのかなと思ったが、いつもの薄井で安心した。


 俺たちは教室まで走り、授業を受けた。



 授業が終わり、閑散とした教室。


 「僕達ここ残るので、電気消さなくて良いですよ」


 薄井はパッと勢い良く手を挙げ、教授にそう伝える。

 教授は「分かった。出てく時消してけよ」と、口にし教室を出た。

 これで本当にこの教室には俺と薄井の二人だけ。

 広い教室なのもあって、持て余している。


 「良し、知っていたと仮定しよう」


 この静けさに屈さず、薄井は授業前の話を持ち出す。


 「高橋先輩は浮気した人間の肩を意図して持っていることになる。それをするだけのメリットってなんなのか」

 「それがキラキラしたいからって奴なんじゃないのか?」

 「確かに現状のままならキラキラ出来るだろうな」


 薄井はうんうんと頷く。


 「今のまま周りに浮気のことがバレなきゃな」

 「と言いますと?」

 「そんな難しいことでもないだろ」

 「お前の考えてることなんか分かるわけないだろ」


 と口にすると薄井は不満げに視線を逸らす。


 「直に浮気が周りの人間にもバレるとしよう。長谷川先輩を手に入れてキラキラした理想を掴んだ高橋先輩はどうなる? 周りからは浮気男と付き合い始めた女として見られるわけだ」

 「そうだな」

 「そのキラキラしたなんとやらを理想としている人間のすることだと思うか? 少なくとも俺はリスクが見合っていないと思う」


 それはその通りだろう。

 メリットに比べてデメリットがあまりにも大きすぎる、ということか。

 キラキラ出来るというメリットは他にも努力次第で掴み取る事は可能だろう。

 しかし、ここで考えられるデメリット……浮気男と付き合う見る目のない女という評価はどう頑張っても払拭するのは難しいはずだ。

 こういう意味合いでの見合っていないということだと思う。


 「つまり?」


 俺が薄井へ訊ねると、白い歯を見せて笑う。


 「高橋先輩は何か隠してるんじゃないかと俺は踏んでる。あくまでも推測だからな。確証はどこにもないけど」


 ということらしい。

 これが言いたいのなら最初からバンッと言ってくれれば良いのとか思ってしまうが、それを直接薄井へ言うのは野暮だろう。


 「もう一回聞くべきかな」

 「どうだろうな。簡単に口を割るとも思えないけど。言わなかったってことはそれ相応の理由があるんだろうしさ」

 「ま、そうだよなぁ」

 「それにあの写真の二人は付き合ってないらしいって俺の彼女に言われた。聞いたらあの写真をくれた人がそう言ってたんだそうだ」


 どうやら約束は守ってくれたらしい。


 「だから、慌てる必要も無いんじゃないか?」

 「そっか」

 「それに俺よりも川瀬先輩の方が賢いだろ。あの人に色々助けを求めれば良いんじゃないか? 川瀬先輩的にも他人事では無いだろうし、手を貸してくれるだろ」


 薄井は「知らんけどな」とあっけらかんに口を動かした。

 そして、パッと席をたち、荷物を持つ。


 「そろそろ移動しようぜ」

 「お、おう」


 薄井のありがたーいお話をこうして聞き入れ、川瀬と直接会話する機会を作ろうと思ったのだった。


 それからは早かった。

 歩きながら、メッセージを送信し、後は川瀬の返信を待つだけ。

 簡単なお仕事です。

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