15話『一枚の記録』
川瀬を避け始めた。
ぶっちゃけ俺が邪推される分には構わないのだが、川瀬側にも迷惑がかかると思うと勝手なことは出来ない。
避け始めたと言っても、元々深く関わっているようなものじゃなかったので、メッセージを無視し、川瀬っぽいシルエットの人を見つけたら即座に離れる。
この二点を徹底したくらいだ。
メッセージを無視しても、川瀬から催促するようなメッセージは来ない。
放置したメッセージがそのままトーク画面に表示されているだけ。
他の用事でメッセージアプリを開く度に、無視したトーク内容がスマホの画面に表示され、申し訳ない気持ちに押しつぶされそうになるのだが、グッと堪える。
これは川瀬の為でもあるのだと、言い聞かせて……。
◇
「すまんな、わざわざ着いてきてもらって」
「良いよ。今日は俺の彼女友達と飲みに行くらしいから」
「ふーん。浮気されてないと良いな」
「お前が言うと冗談に聞こえないからやめろ」
俺と薄井は今、駅近くにある小さなカフェの一角でコーヒーを味わっている。
チェーン店なだけあって、ハズレがなく、ホッと一息つける。
店内は小さく、多少の圧迫感こそあるものの、そもそも来店する人数も少ないので、相対的に見れば対して変わらないのかもしれない。
五限が終わってから呼び出したのもあって、カフェの窓から見えるロータリーにはバスが何台も出たり、入ったりし、タクシーもそこそこの台数が入れ替わっている。
歩道もスーツをビシッときた大人な男性や、ブレザーを着こなす高校生、リュックサックを背負う大学生など。
様々な人達が行き来している。
まさに夕方だなと感じさせるひと時だ。
「で、呼び出した理由は?」
「写真の件だよ」
「あー、例の写真ね」
薄井はそう口にすると、手際良くスマホを取りだし、ササッと操作して、例の写真をまた見せてきた。
「これだろ?」
俺はコクリと頷く。
「この写真がどうしたんだ?」
「こうやって写真があるってことは誰かが撮ったってことだろ?」
「いや。ま、そうだろうけど」
「誰が撮ったんだろうなって」
あの時の状況を思い出しても、周りに人が居た記憶はない。
アパートの各部屋は明かりが点いており、部屋には人が居たんだろうなって思うが、写真の構図的に道路から写真を撮っている。
部屋からこの構図で撮るのは物理的に不可能だ。
「薄井はこの写真どっから回ってきたんだ?」
「いや、回ってきたって訳じゃないんだけどさ」
「ん?」
「あー、いや」
困ったように眉間に皺を寄せるとスマホをサッとしまう。
そして、カップの中に残っていたコーヒーをグビっと呷る。
「最初は回ってきたってよりも見せられたんだよ」
「はぁ……」
「彼女にさ、パッてスマホ見せられて。『これって飲み会の時に居た男の子と真衣だよね』って」
「ん? じゃあお前の彼女が写真撮って拡散したのか?」
「いや、それはねぇーよ」
薄井は断言する。
彼女だから信用出来るみたいな理論性ゼロな理由だろうか。
でも、あの薄井がそんな適当な論を口にするとは思えない。
ただ、人というものは女ができた途端にガラッと変わったりする。
そういう奴の九割は相手に影響受けてたりするんだけどね。
後の一割は傲慢。
続きを催促するように首を傾げた後、チョコチップ入りのクッキーをかじる。
「ずっと居たからだよ。お前の家の前に行く暇なんて無かった」
若干頬を好調させる。
なるほどな、つまり……だ。
昨日の夜は二人でお楽しみしていたからそんなの有り得ないよってことらしい。
すげぇ、説得力があるのに、同時に妬みも出てくるので気持ち良くはない。
「その写真見せられた時に、確認するから俺にくれって言って貰っただけだから。出処すら俺には分からん」
「そっか」
薄井よりも薄井の彼女へ訊ねるべきだったようだ。
「出処を突き止めてどうするんだ?」
薄井の問いに思わず固まってしまった。
そこまで考えていなかった。
なんとなく突き止めようと思っていたが、突き止めてどうしようとかは無い。
流れ出てしまったものを今すぐ取り消せなんてことは出来ないし、嘘でしたって拡散させるのも現実的でなない。
あれ、俺なんのために出処を突き止めようとしていたのだろうか。
「何も無い……」
「ま、それはそれで良いんじゃね。何もしないと相手も調子に乗るしさ」
「うーん、そういうもんか」
「そういうもんだろ」
薄井に止められることはなかった。
果たしてそれで良いのだろうかという一抹の不安を抱えつつも、出処をまた探り始めることにする。
探したところで何も無いのを理解しつつも。




