14話『拡散される勘違い』
「川瀬さん。今日はこんな夜遅くまでありがとうございました」
アパートの前に車を停車させ、運転席から降りて助手席の扉側へと回る。
助手席の扉を開けて、川瀬へ深々と頭を下げた。
「良いのよ。むしろ、連れ出したのは私な訳だし、こちらこそありがとう。こんな突拍子もないドライブに付き合ってくれて」
「僕的には楽しかったので気にしてないですよ。むしろ、また色々誘ってください! って、感じですね」
「ふふ、それじゃあ何か誘ったりしちゃおうかしら」
そう言いつつ、川瀬は運転席へ向かいそのまま座って、ハンドルを握る。
助手席のパワーウィンドウを開けて、小さく手を振る。
「それじゃあ、川瀬さんお気を付けて」
「ありがとう。慧斗、おやすみ」
ゆっくりと発車し、すぐにピンク色の軽自動車は見えなくなった。
二時間ほど運転した。
高速で軽自動車っていつも以上に周りを気にしつつ運転しなきゃならないので、疲労がすごい。
誰も見てないだろう……と、大きく欠伸をして、俺は自分の家へと帰宅したのだった。
ササッと風呂に入り、さっさとベッドへ飛び込む。
一瞬で意識を手放した。
◇
次の日、大学へ通うと妙な視線を感じた。
すれ違う人に見られているような感覚。
最初は自意識過剰なだけだろうと、気にしていフリをしていたが、物事には限度というものが存在する。
要するに、無視できないほど視線が鬱陶しい。
どこかで見たことあるなっていう人から浴びせられる視線。
きっと、同じ科目を履修したり、知り合いの知り合いだったりするのだろう。
「……」
何かやらかしたかなと頭を巡らせるが、思い当たる節はない。
でも、犯罪者って皆、「覚えてないです」って言うもんな。
もしかして、知らないうちに酔っ払って、車をボコボコに殴ってネットで晒し者にされちゃったのかな。
いや、でもそれなら全員に見られるから違うか。
「よ、敷田」
とんっと肩を叩かれる。
ビクッと体を震わせてから声のする方に振り向く。
そこで立っていたのは薄井だった。
「んだよ、驚かせるなよ」
「ついに俺は挨拶すらさせて貰えなくなっちまったのか」
「別に挨拶するなとは言ってないだろ……」
俺がそう口にすると、薄井は「それもそっかー」と呑気な顔をしている。
やはり俺が自意識過剰なだけだったんだと、薄井の様子を見て安心する。
「うし、授業行くか」
「それよりもさ」
「ん?」
足を止めた薄井。
今日も惚気話を聞かされるのだろうか。
そろそろリア充を妬み始める時期になるので、惚気話はやめて頂きたい。
「川瀬先輩と付き合ってんのか?」
薄井の唐突な発言に俺はポカンとしてしまう。
何を言っているのだろうか。
「ん?」
「だからさ、敷田は川瀬先輩と付き合ってんのかって」
「んなわけないだろ」
食い気味に否定する。
「やっぱ、そうだよな。流石に関係を知ってるとね、噂が流れてきても信じられないんだよ」
「噂?」
「敷田は新しい彼女を作ったらしいって噂。写真付きで」
「写真付きで?」
「うん。写真付きで回ってきた」
そう言うと、昨日の写真が俺のスマホに送られてくる。
俺が運転席から降り、助手席に川瀬が乗っている写真だ。
はたからみたら確かに付き合っていると勘違いされてもおかしくないだろう。
「昨日江ノ島に連れてかれてたんだよ。で、帰り俺が運転しただけ」
「昨日江ノ島連れてかれてたのかよ……。敷田も大変なんだな。暇人だと思ってたわ」
「暇人だったからこうなったんだけどな」
そっか、噂になっているんだ程度の認識でしかない。
むしろ勘違いでもあんな美人と付き合っていることなっているなんて勝ったような気分になる。
もちろん誰とも勝負してないけど。
「良くね? 噂になってても」
「良くはないだろ」
「なんでだよ」
「今のお前の評価は彼女と別れてすぐ違う女を創る節操のない人間だ。元カノも可愛くて、川瀬先輩も美人。モテない童貞共からの反感も買うだろうしな」
そういえば、俺って佳奈の彼氏っていう変な認知のされ方しているのだ。
だからさっきから妙な視線を感じていたのか。
ヒソヒソと「あの人女遊びヤバいらしいよ」とか言われていたのだろうか。
なんか一瞬にして嫌になってきた。
学校サボりたい……。
これはいつも思ってたわ。
「めんどいなぁ……」
また悪魔の証明だ。
やっていないことをやっていないと証明するのは非常に難しい。
やっていない証拠なんてこの世には存在しないのだ。
「ま、川瀬先輩と一旦距離置いとくのが正解かもな。逆にマジで付き合っちゃうのもおもろいかも」
「やめろ。俺が玉砕するだけじゃん」
「案外成功するかもよ」
「煽てても何も出てこないからな」
と言ってから、薄井にとっては面白さが手に入るのかと勝手に納得してしまった。
オモチャになるつもりは毛頭ないのでお断りするがな。
「ま、距離置くか……」
今のところ対策はそのくらいしか思い浮かばない。
俺は薄井のアドバイスを素直に受け入れることにしたのだった。




