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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

通学途中の電車の中で

作者: 葉崎智虎

決して交わることのない、二人の少女の物語です。

──私はあの子のことが好き、なのだろう。

 名前は知らない。見たことはあっても話したことはないから。どこに住んでいるのかも、どの学校に通っているかも知らない。あの子はいつも制服を着ているから調べてみたらわかるかもしれないが、なんだかストーカーみたいで嫌だ。知っているのは、あの子が私と同じ電車で通学していて、私とは違う駅で乗り降りしているということだけ。


 ただの他人だ。本当ならそのはずだけど…それでも、気づくとあの子のことをいろいろと考えてしまっている自分がいるのだ。今までこんなに他人に対して執着したことはない。何かがおかしい。

 あの子の髪の毛はいつもさらっとしていてつやがある。あの子のカバンには小さいわんこのキーホルダーが付いている。あの子の目はいつも遠くを見ていて、肌はニキビ一つなくて、鼻はシュッとしていて…とても綺麗だ。一度だけあの子が同級生らしき人と話しているのが聞こえたが、声も綺麗だった。どこか大人びた、伸びやかな声だった。私よりも多分背が高いし、スタイルも良いだろう。少しだけ、うらやましさもある。

 あの子と一回だけでも話してみたい。触れてみたい。好きなものは何だろうか。食べ物、飲み物、音楽、本。アニメは見ないのかな。何か習い事とかしているのだろうか。部活は何に入っているんだろう。

 ただ友達になりたい、というのとも違うような気がする。もっと強い感情だ。なら、それは「恋」…なのではなかろうか。他にこの感情を表すことができる言葉は知らない。


 でも、あの子は私の存在なんて知らない。ただの一度も話したことはない。もしかしたらあの子も私のことを見たことあるかもしれないけど、でもそれだけ。何の関わりもないし、できない。作れない。ただでさえ人見知りだというのに、こんな感情を持って話しかけられるわけがない。しかも、どこの誰ともわからないような女に、同姓に、好きだと思われていると知って、あの子はどう思うだろうか。あの子は嫌がるんじゃないか。

 怖い。あの子に嫌われる未来が怖い。そんなのは絶対に嫌だ。傷つきたくない。ならばいっそ、この思いは私の内に秘めておくべきなのだろう…きっと。この胸の中にある限り、この想いは成功も、失敗もしないのだから。























──私には、一目惚れした人がいる。

 名前は知らない。だって学校も、住んでいる場所も違うから。彼女はいつも、私が乗っている電車に乗り、少し経ったら降りていってしまう。


 家から少し遠い高校に受かって、最初にこの電車に乗ったときに彼女を見た。自分の制服と大した差もないようなものを着ていたのに、その姿はどこかのモデルのように凛としていた。私より背丈が小さいのに、存在感は彼女の方が大きかった。天パ気味のその髪の毛は整っていなくてもまとまっていて、彼女の格好良さをより際立たせているようにも見えた。彼女を初めて見たときに、すでに私の心は動かされていた。なんてかっこいい人なんだろう。なんて凛々しい人なんだろう。なんて…愛おしい人なんだろうか。

 それからは、学校に行くのがすごく楽しみになっていた。電車に乗り、彼女が乗ってくる駅までの時間をつぶす。彼女が乗ってきたら、あくまで気づかれないように、慎重に彼女の方を覗く。彼女が目的の駅で降りるまで。それが日課になっていた。

 彼女はいつも一人だ。時折彼女と同じ制服を着た人を見かけるが、彼らは特に彼女のことを気に留めずにいるようだった。そんな様子を見て、少しだけ嬉しくなる。…私は少しだけ、独占欲が強いのかもしれない。

 彼女が年上だと友達に聞いたときは驚いた。なんでも一度ピアノの大会で見かけたことがあったらしい。道理でいつも爪がきれいなわけだ。ずっと同級生かと思っていたが、先輩でもそれはそれでいいかもしれない。元々年齢に関しては気にしてなかったし…うん。


 私は彼女のことが好きだ。だけど、今の関係は壊したくない。少なくとも、私から崩すことはしないだろう。

 できるなら、彼女に自分から気持ちを伝えることは避けたい。もし断られてしまったら、もう立ち直れないかもしれない。ずっと想っていた相手に拒絶などされたくない。絶対に嫌。彼女から何か言ってくれれば嬉しいが、そんなことはあり得ないだろう。そもそも私のことなんて知っているかも怪しい。その程度の関係性しか、彼女と私の間には存在しない。

 だから、私は私のエゴで何も伝えない。伝えられない。伝えられるはずがないのだ。こんな臆病な私には、決して叶わない片思いで十分だ。


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