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異世界コンビニ☆ワンオペレーション  作者: 山下香織
第二部 第二章 追跡者
65/110

65・魔王城跡地にて

 野営で一晩過ごした()()()、私たちは魔族領の魔王城跡地に居ました。

 周りを湖に囲まれた、何もない――本当に何もない所でした。

 巨大な湖の中央に浮かぶ小さな孤島に、私たちはただ、立ち尽くしていたのです。


「ここが、魔王城があった場所……」

「魔王はまだ……誕生していなかったので……四天王の一人が魔力で建てた……城でした」


 四天王ヴィーダ。

 次期魔王と称され、実際に魔王の因子を持っていたヴィーダは、サーラに瞬殺されてしまい、その魔王因子をサーラが取り込むきっかけとなった魔族軍の幹部だそうです。

 ヴィーダを倒してからのその後は、魔王になりかけていたサーラがその魔力で、魔王城を維持していたと言うのです。


「なつかしいなの」

「そうですね、ニナ」


 ニナとフォウの二人はかつてこの場所に、アランと共に乗り込んで魔王になりかけたサーラと対峙したのでした。

 そしてここは、私の知る魔王アランが誕生した場所でもあるのです。


「ここが魔族領なのね。次からは私でも転移出来るようになったから、もう戻りましょうか」


 昨日までの状態だと、魔族領に転移出来るのはサーラだけだったので、一度その地に足を踏み入れて私も転移出来るようにしておこうと、昨晩の野営の時に天使たちと相談して決定したのでした。


「近くに魔族の気配も無いですし、とりあえずの危険は無さそうですよ。もう少し偵察しておきます? リーダーのサオリが決めてください」

「え? うーん、どうしようか」


 カーマイルに言われて、迷いました。

 転移可能な場所を広げるのはいいのですが、フォレスがまだ目覚めていない状態で魔族と会敵(かいてき)するのは避けたい所です。

 ただの魔族ならまだしも、それが魔王だったり、もしくは魔王を呼ばれでもしたら最悪です。


「サオリ様、今の所魔王の居所は分かりません。少し探索しておきますか?」


 フォウがそう言うのなら、それでもいいかな。

 でもちょっと、その前に――


「ちょっと待ってね」


 私はある事を思いついて、ショルダーバッグからスマホを取り出しました。

 スマホで多く使われる事のある機能――『検索』を試してみようと思ったのです。

 なにせこれは、神様の手が入った特別製のはずですから、ただの検索機能ではないかも知れません。


「検索、検索っと」


 検索をするためのアプリはどれでしょう。

 私がいつも使っていたツールは、どれも消去されていました。

 そのかわりに、見た事もない知らないアイコンがいくつか表示されています。


「どれだろう……」


 髭を生やした、お爺さんの顔のアイコンがあります。

 これは神様でしょうか。

 とりあえす押してみましょう。――ポチっとな。


「なんじゃ?」

「うわ!」


 スマホのスピーカーから、神様の声が聞こえてきました。

 これって……通話機能!?


「ちょっとサオリ! それはいったい誰の声ですか!? まさか……」


 カーマイルの驚いた声に振り向いて、私は答えました。


「か、神様が出た……」

「おい、何か用かの? 忙しいんじゃ、手短にせい」


「神様ですって!? どういう事ですか?」と、目を丸くしているカーマイルを置き去りにして、私は神様の急かす声を響かせている、スマホに向き直りました。

 まさか、この世界で通信出来るだなんて。


「神様? サオリです……ちょっと聞きたい事がありまして」

「サオリなのは分かっておる。何の用じゃ?」


 やはりこのスマホはこの世界で、唯一無二のアイテムなのでしょう。

 でもまさか、神様とのホットラインになっているとは思いませんでした。 

 

「これに検索機能ってありますか?」

「あるぞ」

「どこです?」

「ちゃんと『けんさく』って書いてあろうが。よく見んか、ワシは忙しいんじゃ」

 

 そんなアイコンありましたっけ……?


「ではその検索で、特定の人物は探せま――」

「時間切れじゃ、余程の事が無い限り掛けてくるでないぞ。心得ておけ、バカチンが」

「ば、バカチン!?」


 その言葉を最後に、プツっと通信を切られてしまいました。

 なんだか忙しそうな様子でしたが、一応検索機能がある事は聞けました。


「ちょっとサオリ! 今のはいったい何だったのですか!?」

「何って普通に会話してたのよ。これがスマホの本来の機能よ。神様にしか繋がらないみたいだけど」

 

 サーラも興味津々な様子で近寄ってきて、スマホを眺めています。 


「凄い……ですね。……魔法でも、同じような事……出来ない……でしょうか」

「サーラなら出来ちゃうんじゃない? うん、そんな気がする」


 サーラほどの大魔法使いなら、いずれ通信魔法とか開発してしまいそうです。

 もしかしたら、サーラと同じレベルの魔法使い同士なら、可能なのではないでしょうか。

 この世界の通信手段で、魔法を使った伝書鳩みたいなものは見た事はありますけれど、その時は鳩がしゃべって伝言を伝えていました。


「それよりも、検索はどれかな……」


 スマホの画面のアイコンを一つずつ見て行くと、怪しいものがありました。


 『健作くん』


「どこの健作君よ……」


 そのアイコンにタッチしてみると、専用のブラウザが開き、文字が入力できるフォームが出てきました。

 どうやら検索アプリはこれみたいです。


「しかし健作くんって……神様は漢字が苦手なのね」


 とは言え、読みは合っているので、よく異世界の国の言語で再現出来たものだと、感心しました。

 さすがは神様と言った所でしょうか。


「では、さっそく」


 久しぶりの操作でも、スムーズに文字が打てました。

 検索――『魔王』

 けれども、入力した瞬間、画面が真っ暗になってしまいました。


「バグ? 何も表示しないんだけど」


 戻るボタンで検索画面に戻しました。

 今度は『魔族』と入力します。

 私は何か新しい情報が得られたらラッキー、という程度の期待しかしていませんでした。

 なので、このアプリが壊れていたり、意味の無いものだったりしても「あの神様(ジジイ)」とちょっと悪態をついて終わりです。


 画面はまたしても真っ暗になりましたが、今度はポツンポツンと小さな光点が、数か所で浮かんでいます。


「これって、もしかして」

「魔族の所在を示しているのでは……」

 

 横から覗いていたフォウが呟きました。

 検索した対象の情報を文字で教えてくれるわけでもなく、何か別のアプリが機能したのでしょうか。

 見た感じ、センサーのような? ――そうだとしても、どういう見方をすればいいのかも分かりません。

 これがセンサーだとして、光点の示す位置は? 方角は?


「ちょっとお借りしてもよろしいですか?」


 フォウにスマホを渡すと、何やら掲げたり向きを変えたりしていましたが、やがて――


「これ、向きを変えると光点も移動しますので、光点の実際の位置は変わっていません。つまり、方角は分かります」

 

 フォウがある方向に指を差しました。


「この光点が魔族なのだとしたら、あちらの方向に居るという事です」

「そうなの!?」

「ただ、距離が分かりませんし、魔族が単体なのか複数なのかも分かりません」


 これは、検証しておいた方がいいのではないでしょうか。

 もしこのアプリがセンサーとして使えるのだとしたら、この先ものすごく役に立ちそうです。


「ちょっとお待ちください」


 フォウがそう言うと、両手を組んで祈るようなポーズで目を閉じました。

 ほんの数秒だけ、そうした後――


「わたくしの魔力感知には、魔族は引っかかりません」

「と、言うと?」

「つまり半径五キロ圏内には魔族は居ません。その光点は五キロ以上先のものです」

「なるほど」


 私はこの世界での距離の単位を、聞いた事がないので知りません。

 ですが謎翻訳機能のおかげで、私には『キロ』と聞こえるのですが、元の『キロ』の単位を知らなければ翻訳しようがないのに、いったいどうやって『キロ』に置き換えたのか、本当に謎です。


 それにしてもこのアプリ、距離の表示は出ないものなのでしょうか。

 私が操作方法を知らないだけなのではないでしょうか。


「では、行ってみますか? サオリ」

 

 カーマイルに言われるまでもなく、私はその気になっていました。


「フォウのポケットに船はあるのかしら?」

「ございます」

「では、この湖を抜けて光点を目指してみましょう。このアプリがどれだけ使えるものなのか、検証するわよ」


 もし、この光点の場所に魔族が存在していれば、それはフォウの魔法以上の性能がこのアプリにはある、という事です。


 ポケットに船が収まっているという事に突っ込む事も忘れて、私たちはもう少しここで探索をしてみる事にしたのです。

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