32・国王なのだ
次の日、私は何故か王宮に居ました。
それも玉座の間で、国王と対峙しています。
ランドルフが用があると言うので、付いてきたらこの有様です。
何故私がこんな場所で、国王やその側近に好奇の目で見られなければならないのでしょう。
私は右横に居るランドルフを睨みましたが、スルーされました。
左横にはラフィーも居ます。ホケーっとしています。――可愛いです。
国王側には先ほど紹介された、オクセントルテ宰相と、エリザベート王妃が並んでいます。
「そなたが我が孫、ランドルフが想いを寄せているという女性か? ワシは国王のデニスなのだ」
え? ランドルフって国王の孫なのですか? 王族関係だとは思っていましたが、そのまま直系血族ではないですか。
というか想いを寄せているとか、そんな事まで国王に報告していたのですか、ランドルフは。
玉座に座る国王は、口元のチョビ髭がとても印象的な、小さなおじいさんです。
なんというか、……ちんちくりんです。語彙力が無いのでこれ以上の表現が思いつきません。
「はじめまして、サオリと申します。この度は……えーと――」
「ワシはちょっと、困っているのだ」
私が国王に対して、どう挨拶すればいいのか分からずに口ごもっていると、それを遮るように話しかけてきました。
「お困りとおっしゃいますと?」
「うむ。困っているのだ。実は魔王がここへ来てな。脅されてしまったのだ」
「そ、そうなのですか」
そんな事を私に言われても、どうしろと言うのでしょうか。
あらためて横のランドルフを睨むと、横目で確認した彼は助け舟を出してくれました。
「実はねサオリ、魔王はこの国で平和に暮らしたいから、住む家の確保と、安全の保障をしろと言ってきたんだよ」
「魔王がこの国に住む? 平和に? この国をどうこうしようと言うのではないのなら、願ってもない事なのでは?」
魔王がどういうつもりか知りませんが、この国に危害を加えないで平和に暮らすと言うのなら、何も問題はないように思えます。
ランドルフは一度、国王に目配せした後、私に向き直って、言いました。
「サオリ、前にも話したと思うけど、もう一度言うよ。この世界の掟として、魔王は復活したら一年の内に討伐しないと、この世界は滅ぶのさ」
「あっ」
そういえば、確かに聞きました。
ランドルフがそんな事を言っていたのを、思い出しました。
「じゃあ、結局は魔王を倒さなければならないって事?」
「そうなるね」
新生の魔王がどんな性格なのか分かりませんが、せっかく平和に暮らしたいと願っても、この世界の都合で倒されなければならないとは、なんという運命なのでしょう。
「そこでなんだが、サオリ殿。ワシは困っているのだ」
さっきから同じ事しか言っていませんけど、この国王は大丈夫なのでしょうか。
魔王とは別の意味で、この国が心配になってしまいました。
「俺が説明しよう。いいかい、サオリ。魔王を討伐しないとこの世界は滅ぶ、そして魔王を討伐するには勇者じゃなければならないんだ」
「やっぱり」
私の想像した通りでした。
「そしてエクスカリバーも必要なのではなくて?」
「よく分かるね。さすがサオリだ」
それくらいは、誰にだって想像が付くと思います。
勇者にしか持てないという聖剣エクスカリバーは、特別中の特別な剣なのでしょうから。
「それで……蘇生魔法って事かしら?」
「そうじゃ! その通りなのだ! 是非、勇者を生き返らせてほしいのだ!」
なんだろう。……勇者といい、この国王といい、何故か癇に障る話し方に聞こえてしまいます。
まあ、それは置いておいて。
「この国に他に蘇生魔法を使える方は、居ないのですか?」
「居ないのだ!」
「残念ながら、どんな大賢者様だろうと、蘇生魔法を使える者はこの世界には居ないんだよ」
そんなにレアな魔法だったのですか。
知りませんでした。
そういえば、回復魔法でさえ、十二人居る天使の中でたった一人しか使えないと、カーマイルから聞いた事があります。
「でもあれですよ? 今から蘇生魔法を施しても、たぶん、……いやおそらくアンデッドとしてしか生き返りませんよ?」
「そうなんだよな……」
「アンデッドでも聖剣エクスカリバーさえ持てれば魔王を討伐できるのだ。それでお願いするのだ」
それでいいのでしょうか。
元々勇者ローランドはそれほど強い勇者でもなかったわけで、結局は聖剣と天使の助けがなければ前魔王も倒せなくて、今回の魔王にしたら、一度やられているじゃないですか。
「本当にそれでいいのですか?」
「これで、いいのだ!」
「すまないね、サオリ。この事は王宮会議で、既に決定しているんだ」
この時、初めて勇者ローランドに同情しました。
こんな国の、こんな世界の都合でアンデッドとして生き返らなくてはならないとは、勇者という職業も大変です。
元はと言えば、私がすぐに蘇生魔法を施さなかったのが悪いので、何も言えませんけど。
「分かりました。仕方ないですね」
「仕方ないのだ!」
「責任は全部この国が持つ。すまないが頼まれてくれ、サオリ」
「では、お店に戻ったらすぐにそうします」
この国王の前で、羽根ペンを使う気になれなかったので、そう約束しました。
「そうじゃ、サオリ殿。そなたの店の営業許可と、家の建築許可、土地の使用許可諸々の課税金、金貨三千枚は免除なのだ」
「え? あ、……はい。ありがとうございます」
税金が金貨三千枚……三億円だなんて聞いていません。
ランドルフは、税金なんて、たいした額じゃないって言ってたのに!
「たいした額でもないが、免除になってよかったね。サオリ」
「感覚が違う!」
思わず声に出してしまいました。




