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異世界コンビニ☆ワンオペレーション  作者: 山下香織
第一部 第三章 魔王と勇者
30/110

30・森の妖精

 勇者が……死んだ!?


 エクスカリバーが発注可能という事は、そういう事なのではないでしょうか。


 だとしたら……。


「ランドルフ!」


 勇者が魔王にやられたのだとしたら、調査に行くと言っていた、ランドルフの身も危ないに違いありません。


 私はすぐにラフィーを連れて、王都のシルバニア家へと転移しました。


「やあ、サオリ様。おはようございます」


 シルバニア家の馬車馬を管理する、トゥーリさんに挨拶もそこそこに尋ねました。


「おはようございます! ランドルフは? 今日から調査に行くと聞いたのですけど」

「ああ、ランドルフお坊ちゃまはもう、陽が昇る前から出発されましたよ。サオリ様」


 遅かった!


「呼び戻す事は出来る? 勇者が……勇者がやられてしまったのかもしれないのよ!」

「はて、それがどのような情報なのかは存じ上げませんが、騎士団は既に数時間前に出発を果たされました。呼び戻すにしてもまずは追いつかなければなりませんね」


 数時間の差は、距離にしてどれくらいなのでしょう。

 同じ馬で追いかけて、追いつくものなのでしょうか。


「どうしよう」

「騎士団は王宮直属なので、まずは王宮の方にご相談なさいますか? お取次ぎはうちのセバスが行いますが」


「そんな……時間あるかな」


 魔族領までは遠いのだから、時間はあると言えばあります。


 ただ王宮の方も、すぐに動いてくれるとは限りません。

 私なんかの意見を聞くとも思えません。


 どうする!? どうする私!


「馬を貸していただけますか? 私が行きます」

 

 私はすぐに決断しました。


「はい、構いませんよ。サオリ様。王宮の方はどうなさいますか?」

「一応、伝えておいてほしいの。ある筋からの情報で、勇者が倒されたかもしれないという事を」


「かしこまりました。一度バトラーのセバスを通して、王宮に伝えるように計らいます」

「ありがとう。トゥーリさん」


 ラフィーと一緒に馬に跨り、手綱を取ります。

 私の前に乗るラフィーは、馬のたてがみを掴んでいます。

  

「では、よろしくお願いいたします」


 すぐに馬を走らせました。

 まずは北へ!


「ラフィー、行ける所まで行くけど、道は分かる?」

「んー?」


 うわあ、天使の人選間違えたかもしれません。

 と、一瞬思いましたが、酔っぱらいのカーマイルを連れていっても、役に立ちそうもありませんね。


 北の方角は……分かります。

 とりあえず、進むしかありません。




  ◇  ◇  ◇




 どういう事でしょう。

 三か月も経っても、騎士団に追いつきませんでした。


 私は一日に進めるだけ進むと、目印を置いてコンビニに転移して戻ります。

 野宿をするつもりは、最初からありません。


 一度行った場所なら何度でも転移出来るので、毎日日帰りで少しずつ距離を稼いでいました。


 そして三か月も経ったのに、騎士団の影すら捉えられないのです。




「ここ、何処だろう?」


 ひたすら北に向けて、馬を走らせてはみたものの、森に入った辺りで迷ってしまいました。

 

 鬱蒼と生い茂った、木々の間から差し込む日差しが煌めいて、光の雨となって降り注ぐ森の中は、とても幻想的なのですが、そんな風景に見惚れている場合でもありません。


 道なりに進んではいるのですが、一向に森を抜け出せません。

 何度か分かれ道もあったので、間違えたのでしょうか。


「どうしましょう」


 馬を停めて少し休憩を取ろうとしましたが、前方に獣の影を確認しました。

 私に寄り掛かって、船を漕いでいるラフィーの頭をツンツンしながら、その耳元に囁きます。


「ラフィー、起きてちょうだい。右前方にウルフよ」


 二匹のウルフが、木の陰から姿を現しています。


「うーん」


 ラフィーはまだ寝ぼけています。


 天使が役に立たないという事は無いと思いますが、私は保険のつもりで、ノートと天使の羽根ペンと小さなインク壺をショルダーバッグから取り出しました。

 

 ある魔法の簡略文字列を、神様の洞窟でカーマイルに貰ったメモを見ながら、ノートに書き込みます。

 馬の鞍に跨りながら、左手にインク壺、右手に羽根ペン、ノートはラフィーの背中を机代わりにして置いて、我ながら器用に写しました。


 『極大魔法・爆炎(フレア)

 

 なかなか長い文字列でしたが、ウルフが動く前にほぼ書き込めました。


 攻撃指定範囲を入力。前方約二十メートル。

 使った事のない魔法なので、どのくらいの威力があるのかは分かりません。

 

 ウルフが動き出しました。こっちにゆっくりと向かってきます。

 私の魔法は、あと一文字を書くと完成し、発動します。


 私が持つノートを中心に、一メートルに及ぶ真っ赤な魔法円がホログラムのように浮かび上がり、回転を始めます。

 最後の作業を終えようと、羽根ペンがノートに触れた瞬間――


「うー、にゃー」


 可愛くも気の抜けた掛け声を発し、寝ぼけたラフィーが身を起こして私に寄り掛かりながら、左手をウルフに向けます。

 その動きで、ラフィーの背中で開いていたノートを、馬上から落としてしまいました。


 バシッ! という衝撃音と共に、二匹のウルフがラフィーの放った魔法に弾かれて、綺麗に弧を描きながら遥か空の彼方へと飛んで行きました。

 

「あら、ホームラン」

「むにゃ、むにゃ」


 ラフィーは、コテッと馬のたてがみに寄り掛かり、また寝てしまいました。

 インク壺と羽根ペンをバッグにしまった私は、ノートを拾うため、馬から降ります。


「よいしょっと」


 まだ赤い魔法円を浮かばせているノートを地面から拾った時、目の前の空間につむじ風が発生しました。

 珍しいな、と思って見ていたら突然、巻き上がる風の中から少女が現れたのです。


「今度はなに!?」


 少女は大き目の緑の葉を、幾重にも重ねたドレスを着ていました。

 うっすらと透けた感じが、実際の葉っぱとは違います。


 十歳くらいのラフィーより、更に小さい子です。


「あの……旅のお方……」


 脅えたような態度で話掛けてくる少女を見ていると、私の方は逆に少し余裕が出来てきました。

 でも油断は禁物です。この子が危険な魔物ではないという確証もありません。

 

「こんにちは。私たちに何かご用ですか?」

「は、はい。私、フォレスと申します。この森の妖精です。……あの……申し訳ないのですが……」


 なんとこの子は妖精さんでした。

 妖精にしたら、少し体が大きいように思えます。

 私の勝手なイメージなのですけれど。


「それ……」


 妖精フォレスは、私の持つノートを指差します。

 ノートを中心として、真っ赤な魔法円がいまだにクルクルと回転しています。


「これ?」

「うわ! あ、はい。あの……その魔法円、炎系ですよね?」  

 

 ノートを軽く振ったら、えらく驚かれてしまいました。

 

「そうですね。撃ちそこないましたけど、爆炎(フレア)というらしいので、やはり炎系なのでしょうね」

「なのでしょうね、って他人事みたいに言わないでください。……ご自分の魔法じゃないのですか?」


「いや、この魔法はまだ、使った事がないんです。私。あ、もしかして見てみたいとかですか? あと一文字で発動できますから一緒に見てみますか?」


 私はノートを開きました。


「あぶ! あば! ちょ! やめろ! 止めてください! この森を破壊するおつもりですか!? それ、めちゃくちゃ威力高いですよね? 絶対、この森を燃やし尽くす程の魔法ですよね!? 本当に止めてください! それを止めるために私はあなたの前に現れたのですよ!」


 あ、……森に炎。――すっかり失念していました。

 この魔法がどのくらいの威力か分かっていなかったのもあって、……いやまさか、森を燃やし尽くすような威力とも思わなくて、うっかり発動してしまう所でした。

 

「ごめんなさい。……私、何も考えてませんでした」

「考えなしにも程があると思います! 周りは木ですよ? 木! 燃えちゃうんですよ!」


「本当にすいません……」

「だからすぐにそれ、消してもらえませんか?」


「はい。いますぐに……」


 バッグから羽根ペンを取り出して、逆さに持ちました。

 キャンセル方法は分かっています。

 

 ノートに書き込まれた文字列に、羽根ペンの羽根の部分を当ててスライドさせました。

 羽根に擦られて、文字が消えて行きます。


 完全に消去したのを確認して、ノートを閉じます。

 真っ赤な魔法円も、スウッと消えて行きました。


「消しました。お騒がせしてすいません」

「よかった……この森の最大の危機を脱しました。ありがとうございます」


「そこまでの魔法を使うつもりはなかったのですが……」

「いえいえ、私にはそれがどれくらい大きな魔力なのか分かります。確実にこの森を消滅させる所でした」


 神様の魔力恐るべし。私は反省しました。


「そうだ、フォレスさん。ここを王都の騎士団が通りませんでしたか?」

「騎士団ですか? 私は見ていませんが、ここを抜けて行ったのでしたら、森の一部である私が気づかないはずがありません」


 道を間違えたのでしょうか。

 それとも騎士団は、違うルートを通って行ったという事でしょうか。


「魔族領に向かっているのですけど、この道でいいのでしょうか」

「魔族領!?」


 妖精のフォレスは魔族領という言葉に強く反応しました。

 何か知っているのかもしれません。


「何かご存じですか?」


 フォレスは森の空を見上げ、目を細めて、懐かしむような表情で口を開きました。


「実は……一年以上前に魔族領へと向かう一行と、魔族の者がここで戦ったのです」

「魔族の者?」


「はい。その戦いで魔族の者は敗れ、今はこの森の土となりました」

「そんな事が? その魔族に勝った人たちはそのまま魔族領へ?」


「はい。目的も存じています。魔王になりかけている友人を助けるために、魔族領へと向かったのです」


 魔王になりかけている友人……。


 魔王は復活したのではなく、新たに誕生したという事でしょうか。

 それが四年という短い期間で魔王が出現した事の、カラクリだったのかもしれません。


「その中に勇者は居ませんでしたか?」

「居ません。魔力数値が異常な男性が一人と、魔法探偵の女性が一人。それと人間以外の女性が三人のパーティーです」


 私は『魔力数値が異常』や『魔法探偵』という言葉も気になりましたが、それよりももっと引っかかった事を訊ねました。


「人間以外の女性とは?」


 フォレスは、私が想像もできなかった単語と、たった今頭に浮かんだ単語とを同時に発しました。


「一人は竜の子。あと二人は天使です」



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