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異世界コンビニ☆ワンオペレーション  作者: 山下香織
第一部 第二章 異世界の住人
27/110

27・異世界の住人

「ない! ないないないない!」


 コンビニに戻るとランドルフはそのまま帰宅し、私はラフィーを連れてバックルームに籠りました。

 

 店内ではエリオットが腕立て伏せをやっています。

 お客様は誰一人来ず、ポーションは売れなかったようです。


 カーマイルはまたウォークインで寝ています。

 どうやら起きてからまた、トマトジュースを飲んだみたいですね。


 空のペットボトルが増えていました。

 洞窟に帰らなくていいのでしょうか。


 そして私はDOTの発注画面を睨みつけていました。


 ないのです。


 いえ、発注可能な商品は数百単位で増えていました。

 王都で見聞きしてきた、食糧や家具や衣料や雑貨などがズラリとDOTの画面に揃っています。


 ですが、肝心のアレがないのです。


 肝心の――家が!


「どういう事?」


 やはり大きさが問題だったのでしょうか。

 発注可能商品の一覧を見る限り、馬車で運べる大きさのものばかりです。


「うーん。残念」


 もう一度隅から隅まで、商品一覧を調べました。

 この際お城でもいいから、住む所が欲しいです。


 ベッドで寝たいです。――あ、ベッドは発注出来ますね。


 でもお店じゃベッドを置く場所がありません。

 バックルームは本当に狭くて、毛布を敷くだけで精いっぱいです。


「あーん。お風呂とベッドのあるおうちが欲しいよぉ……」


 ランドルフの住んで居るお城を思い浮かべます。

 

「もしかしたら、頼んだらあそこに住まわせてくれるのかしら」


 でもそれは、何かが違う気がします。

 私はこのお店から、離れてはいけない気がするのです。


 今でこそ結界はありませんが、それを補って余りあるものがここにあります。


 天使と、羽根ペンと、発注システムです。

 電気や水道さえ通っているこのお店を捨てる気になれません。


 このお店に居る限り、元の世界に戻れる可能性も、無きにしも非ずなのです。


「それに……」


 それに、シルバニアという国の名前と同じ家名を持つ、ランドルフの家。

 あえて訊きませんでしたが、どう考えても王族か、それに関係する家筋に違いありません。


 そんな面倒くさそうな家に、首を突っ込む事もしたくありません。


 でもよく考えたらあの人、私と結婚してもいいって言ってましたよね。

 そんなに簡単に決めてもいいものなのでしょうか。

 

 そう考えると、私の扱いは妾とかその程度なんじゃないかとさえ、思えてきてしまいました。

 あの家に私が、本妻として迎えられるわけがありませんもの。


 第五夫人とかなら、ありえるのでしょうか。


「お坊ちゃまのお遊びなのかなあ……」


 私は呟きながら、首に下がったペンダントに触れます。


 ランドルフが別れ際にプレゼントしてくれたものです。

 丸の中に十字架が三つ重なった、素敵なデザインです。


「お守りだ。これから王都に行く事が増えるようなら、いつも着けているといい」


 ランドルフからちゃんとしたプレゼントを貰ったのは初めてだったので、とても嬉しかったです。

 でも、どんな気持ちで贈ってくれたのでしょうか。


 今の私には計りかねます。


 魔王討伐の裏話といい、ランドルフの家の事といい、聞きたくもない事ばかりを知ってしまいます。

 

「こーな……」


 私の横でラフィーがスヤスヤと寝ています。


「可愛いなあ」


 天使が可愛いから、何でもいいや。


 余計な事は考えないようにしましょう。


 家が手に入らないのは残念ですが、発注出来る商品が今はたくさんあります。

 

 私は『一括発注』ボタンを押しました。

 これによって、自動的に全部の商品が発注されるのです。


 個別に見るのも面倒なので、とりあえず全部発注します。


 その結果。


 次の日から一日に三回、配達の馬車が三十日間連続で、うちのお店に来る事になりました。




  ◇  ◇  ◇




「お疲れ様です。フーゴさん」


 日に三回来る配達の馬車の中で、フーゴさんは必ず一回は来ます。


「まいど! これは中に入らないから、店の外に積んでおくからよろしく!」


 一度の配達で馬車が五台来る事もあります。

 今日もそうでした。


 その馬車から下ろされた商品は、私には覚えのない材木です。

 どうやって馬車に積んでいたのかというくらい、大きなものです。


「ああ、俺らが使ってる馬車は空間魔法が施されているからな、幌の口に収まるなら長さはある程度融通が利くんだよ」


 フーゴさんは説明をしてくれました。

 なるほど、全体的に大きなものは幌に入らないので無理でも、長いだけのものなら何とかなるというのですね。

 

「でもこれは、何に使うのでしょう」

「このまま売るのか? それとも家でも建てるのか?」


「家!? あ、そのままそこに積んでおいてください」


 お店の裏に材木を置くように指示した後、私はバックルームに戻り、DOTを開きました。


「えっと、それらしきものは……あ! あった!」


 『図面』


 これでしょうか、カウンターに出て、お弁当のオープンケースに寄り掛かって寝たふり(・・・・)をしているエリオットに尋ねます。


「起きてください、エリオットさん。どうせ眠れないのでしょう? それよりも図面を見ませんでしたか?」


 アンデッドになってしまったエリオットは眠る必要がないため、睡眠はとらなくても済むのですが、これまで生きてきた習慣で、なんとなく寝たつもりで横になる事にしているそうです。


「図面? 商品じゃないものは全部カウンターの中だ」


 今の店内の棚はほぼ商品が収められ、売り物として並んでいます。

 食糧や、雑貨がほとんどですが、図面は売り物に見えないため、別にしておいてくれたようです。


 カウンターの内側に並べられた木箱の中を漁って行きます。


「図面、図面。えっと……これかしら」


 中から丸められた用紙がたくさん出てきました。

 黄ばんだ色合いのそれは羊皮紙というものでしょうか。


 開くと――


「図面だ!」


 ――部屋の見取り図や、外観の絵が目に飛び込んできました。

 どうやらお城ではなさそうです。


「家を建てるのか?」

「出来ればそうしたいのですけど、大工さんってどこで雇えばいいのかしら?」


「大工? 魔法建築士の事か?」


 この世界では魔法建築士と呼ぶらしいですね。

 魔法で家を建てちゃうのかしら。


「はい。この図面で家を建ててくれる人を雇うには、どうすればいいのでしょう」

「王都ならいくらでも居るだろうよ。ただ勝手に建てると捕まるぞ? 王都に居る限り家の建築は許可制だからな」


「そうなんだ」

「そりゃそうだろうよ。力のあるやつが魔力まかせに王宮より立派な自宅を作ってみろ、王様のメンツ丸潰れだ」


 そこらへんはランドルフに相談してみましょう。


「魔力があるだけじゃ、家は建てられないの?」

「図面があればちょっと知識があるやつなら何とかなりそうな気はするが、一応技術職だからなあ。いろいろと細かい技法も必要なんじゃないか? 俺には出来る気がしないしな」


「私、できまひゅよ……ひっく」


 横からカーマイルが口を挟んできました。


「カーマイルが家を建てられるの?」

「できまひゅよ? ひっく」

 

 実はこの天使、おうちに帰っていません。


 トマトジュースを飲んでは酔っ払い、寝て起きてはまた飲んでの繰り返しで、ずっとここに居座っています。

 トマトジュースの在庫がある限り、居続けるのではないでしょうか。

 

「なら、カーマイルに頼んじゃおうかしら」


 


 それから材料が揃った一週間後には、コンビニの裏に私の家が完成しました。


 カーマイルの魔法で、家が一軒建つのに一時間も掛かりませんでした。

 コンビニの建物より、少し大きいくらいの平屋のおうちです。


 建築許可はランドルフにお願いしたら、一発で通りました。


 その代り、この国に対して私も税金を納める義務が発生してしまいましたが、たいした額でもないとランドルフが言うので大丈夫なのでしょう。


 私、なんだかんだと、異世界の住人になったようです。



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