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異世界コンビニ☆ワンオペレーション  作者: 山下香織
第一部 第二章 異世界の住人
22/110

22・新たな問題

 私は少し――いや、かなりショックでした。


 この老け顔のエリオットが、まさか私よりも年下だったなんて。


「おい、なんで落ち込んでるんだよサオリ。やっぱり俺が居たら迷惑か?」

「迷惑です。誰かに買われてください」


 値段が三億円だと買い手もなかなか居ないような気もしますが、それしかエリオットがここから出て行く方法はなさそうです。


「用心棒として、三億円という値段はどうなのですか?」

「いや、高いだろ。そもそもそんな大金、王族くらいしか持ってないだろうよ」


「では奴隷としての価値は?」

「俺にか? 宝探ししか取り柄もないからな。そういう意味で雇ってもらえるのならアリだが、三億の元を取るのに何年掛かる事やら」


 どうしましょう。

 他に何かいい方法はないのでしょうか。


「問題は解決しましたね。では私はこれで帰らせてもらいます」


 解決なんてこれっぽっちもしていませんけど、天使カーマイルはそそくさと帰ってしまいました。


 長い金髪を地面に擦り付けながら、土にS字曲線を残す姿は、さながらナメクジの通った跡のようです。 


「賞味期限は一年……」


 一年もの間、エリオットをこのお店に置いておかなければならないのでしょうか。

 何か……何かないのでしょうか。

 

 どうする!? どうする私!!


「おねえちゃん、こーな」

「え? あ、はいはい。コーラ飲みましょうか」


 とりあえず、エリオットをそのままにして、ラフィーと一緒にウォークインに入ります。

 数に限りのある、コーラを手に取り、ふと思いました。


「コーラ、無くなったらどうしましょう。コーラなんて発注できないものね」


 発注?


 そういえば、この世界の物ならば、私がイメージ出来れば何でも頼めると言っていなかったでしょうか。


 発注……私がイメージ……私が見たもの……この世界の……何でも……!?


 私が元の世界に戻れるかどうかは、この際置いておいて、今大事なのは生きる事、ここで生活する事。

 その生活も出来れば快適なものにしたい、と思うのも心情というものです。

 

 私には羽根ペンだけではなく、神様公認の発注システムがありました。


「ふふ……うふふ」

「おねえちゃん?」


 試してみない事には分かりませんが、少しビジョンが見えました。


 やれるだけの事はやってみようと思います。

 それにはランドルフの協力も必要となるでしょう。


「とりあえず、ラフィー。エリオットから目を離さないでいてくれる?」

「ほむ」


「たぶん夜にはランドルフも来ると思うから、それまでは警戒を怠らないようにしないとね」




  ◇  ◇  ◇




「いらっしゃいませ、ランドルフ。久しぶりね」

「いや昨日会ってるけど」

 

 夜になり、いつものようにランドルフが巡回にやってきました。

 驚いた事に、私が気絶してから一日しか経っていませんでした。


「こっちではいろいろあったのよ。そうか、一日しか経ってないのかあ」


 エリオットが何十日も掛けて移動したはずの洞窟へ、ラフィーは気絶した私をその日のうちに運んだと言う事になります。


 ラフィーは転移出来ないはずなので、私を担いで走ったとでも言うのでしょうか。

 気になるので、後で訊いておこうと思います。


「それよりも、サオリ。そこの二人はいったいどういった関係なんだい?」


 一人はエリオット。――お弁当のオープンケースに寄り掛かって座っています。

 もう一人はラフィー。――カウンターに乗って、足をプラプラさせて座っています。


 なんだか説明するのが面倒です。


「禁則事項です」

「え?」


「冗談よ、ランドルフ。これから説明するわ」


 昨日からこれまでの事を、掻い摘んで説明しました。




「蘇生魔法!? 生き返った!? 天使!? 神様だって!? それに……結界が無くなった!?」


 ランドルフは、頭を抱えてしまいました。


「そうなのよ、ランドルフ。お店の結界はもう無いの。それとエリオットはお店(うち)の食品……商品らしいから、盗難防止でここから出られなくなってるの」

「なんてこった」


 ランドルフからしたら、たった一日で一変してしまった私の状況に、頭を抱えるしかないようです。


「でね、ランドルフ。ちょっと相談があるの」


 今日も鎧姿のランドルフの腕をとり、バックルームに引っ張って行きます。


「ちょっと裏でお話ししてくるから、ラフィーはエリオットの事、見ていてね」

「あい。おねえちゃん」


「俺は何もしねえってば」


 エリオットはそう言いますが、私は彼の事を信用できないのです。

 それに引き替え、なんていい子なんでしょう。うちの妹は。


 バックルームでランドルフに椅子を勧めましたが、鎧のままではお店の小さい椅子に座る事は難しいようです。


「俺はこのまま立っているからいいよ」

「そう? その姿で居るのも大変なのね」


「騎士団はいつでもこの格好なんだよ」


 夏の時期とかはとても暑そうですね。


「ところで、ランドルフ。あなたにお願いがあるの」

「うん。なんだい? 言ってごらん」


 私はちょっとした計画を打ち明けました。

 そう。……ささやかな希望を。


「明日ならちょうど非番だよ。いいぞ、付き合おう」

「やった! ありがとう、ランドルフ!」


 明日はランドルフに、王都を案内してもらう事になったのです。


「デートだね。ランドルフ」

「あっちの二人はどうするんだ?」


「あう……二人きりにしておくのは危ないかも」


 一日中ラフィーに見張りをお願いして、私だけお出かけというのも気が引けます。

 ――それに。


「それに、エリオットが何かやらかしたら、きっとラフィーは彼を殺してしまうわ」

「え? 逆じゃなくて?」


「うん。あの子は強いのよ。何十匹もの魔獣を前にして、怯むこともなく、なおかつ巨大な魔法を使って撃退しちゃうくらいなの」

「そうなのか、だけどエリオットは外に出られないから、ここに残すしかないんだろ?」


 そう。エリオットを一人残して、大丈夫でしょうか。

 

「ちょっと心配だけど、でも結局はここから逃げる事も出来ないのだから、放っておいてもいいのかも」

「お店さえ壊されなければいいけどな」


「そこまでする意味もないでしょう?」


 だったらラフィーだけ連れて行く事で決まりです。

 元々彼女は私の護衛役なのですから、私が駄目と言っても付いてくるかもしれません。


「じゃあ明日、お願いしますね。ランドルフ」

「ああ、任せておけ」


 デート。

 ラフィーを連れて行くとしても、私にとってはデートです。

 

「ああっ!」

「どうした? サオリ」


「着ていく服がない!」


 そうでした。


 私、お店の制服以外は、下に着ているTシャツしか今は持っていないのです。

 他にはお店に置いてある、昼間のシフトの制服でもある黒いポロシャツのみです。


「服装なんてどれだっていいじゃないか。まあその縞々のやつはちょっと目立つかもしれないけどね」

「これはさすがに着て行かないけど……Tシャツのままでいいかぁ」


「王都を見て回るだけだろう? 服装なんて気にする事もないさ」

「そうだけど……」


 すっかりデート気分だったので、ちょっとくやしいです。


 コンビニの商品にコスメティック製品は色々と揃っているので、お化粧する分には困りませんけど、服だけはどうにもなりません。


「残念……」

「それよりも、今夜は大丈夫なのかい? あっちの彼はどこで寝るんだい?」


「心配してくれるの? ランドルフ。たぶんエリオットはお弁当ケースの場所から動かないと思うけど」

「そうか。天使の子が君を守ってくれるようだし、心配はいらないようだね」


 いや、そこはもうちょっと心配してくれてもいいのよ、ランドルフ。

 他の男が同じ屋根の下で、君と一晩過ごすなんて耐えられないよ、とかないのかしら。


「じゃあこれから戻って資料整理をしなきゃならないんで、俺は帰るよ」


 なさそうですね。


「うん。分かった。じゃあ明日、楽しみにしてるね」

「朝一番で馬車で迎えにくるから、じゃ、また」


「ちょっと待って、ランドルフ」


 そのまま彼の腕を引き寄せ、顔を近づけ、目を閉じて――


「おねえちゃん」

「「うわ!」」


 すぐ横にラフィーが居ました。


「ど、ど、どうしたの? ラフィー」

「あのね、エリオットがね、おなかおなか言ってる」


「お腹? 痛がってるの?」

「わかんない」


 お腹でも壊したのでしょうか。

 すぐにカウンターに戻ります。


 腹痛とかでしたら、羽根ペンによる回復魔法が使えるかもしれません。

 

「どうしました? エリオットさん」

「サオリ、おかしいんだよ……」


 一瞬、またこの人は芝居を打っているのでは、と考えましたが、その表情は真剣でした。


「何がおかしいのです?」

 

 エリオットは自分のお腹に手を当て――


「腹が、減らないんだ」

「え?」


「腹が減らないんだよ。昼間えびピラフを食ったっきりだってのに」


 そういえば私はそろそろ、お腹が減ってきました。


「それに正直に言うが、昼間食ったえびピラフ……味がしなかったんだよ」


 味覚に異常があって、食欲がない。そういう症状の病気という事でしょうか。


「どこかに痛みはありますか? お腹は痛くありませんか?」

「いや、まったく。痛みはどこにもない」


「生き返ったばかりですし、まだ調子が戻っていないからではないでしょうか」

「そうなのかもしれないが……だが、喉も乾かないし、トイレにも行っていない。まったく出る気配もないんだ」


「分かりました。ちょっと待ってください」


 私は一人バックルームに戻り、ノートを開きました。

 ミシェールはいつも来れないようなので、既に面識のあるカーマイルの名前を最初から書きます。


 せっかく生き返ったのに、原因不明の異世界の病気でいきなりまた死なれても困ります。

 困った時の天使頼みです。


 すぐに光の収束、膨張が始まり、ノートの文字が消えた時、彼女は現れました。


「なんでまた呼ぶかな!? その機能は魔王討伐の時に勇者が使うものだって説明しましたよね!?」


 あ、やっぱり怒ってました。



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