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異世界コンビニ☆ワンオペレーション  作者: 山下香織
第二部 第四章 終わる世界
102/110

102・そして、異世界で

 アランが蘇りました。

 フォウのポケットに保存されていたアランの肉体に、魂が戻って来たのです。


「……」

「自分が誰だか、分かる?」

「アラン、だ」

「これから、どうする?」

「この世界で、生きて行くさ」


 このアランは、自分の事を『荒木信吾』とは名乗りませんでした。

 私はあえて、()()()()()()()()も、訊きません。


 私がフォレスの最期をアランに伝えると、アランは何も答えずに、ただ黙って静かに、聞いていただけでした。


 勇者も魔王も、存在する必要が無くなったこの世界。

 魔王因子がこの世から消えて、アランに掛けられていた呪縛が解かれたのです。

 彼は彼として、この世界で生きて行く事でしょう。

 ……まぁ今は、うちに居候しているのですけれどね。




 ◇  ◇  ◇




「宇宙とやらはどうだった?」


 エリオットがお店のカウンターから、話しかけてきます。


「何にも、無かった」

「そうか、まぁ気晴らしくらいにはなったんだろ?」


 ロケットに乗れる条件が揃ったので、せっかくだからと宇宙まで旅行に行って来たのです。


 乗るための資格だけでしたら、この世界が改変された時に既に持ってはいたのですが、万全を期すために、私がいくつかの()()()()を取得するまでは見あわせていたのです。

 そしてその旅行では、地球の女神に会う事もなく、ただ宇宙空間に漂ってきただけでした。


 帰ってきて真っ先に、お店に顔を出した所だったのです。

 バックルームのロッカーに行き、コンビニの制服に着替えました。


「お店番、交代するわ。ありがとうね」

「久しぶりだな、その制服は」

「そう、かも」


 今の所、お客様は見えていませんが、カウンターに立った私は、自分の心がとても落ち着いて行くのを感じます。


「ここが、本当の居場所って感じがするわ」

「おかえりなさい。魔王様」


 お店の天井付近から、デビが声を掛けてきました。

 翼は回復して、ちゃんと一対の羽として機能しています。


「お店は狭いんだから、飛ばないでって言ったのに。それにデビ、この世界にはもう魔王は存在しないのよ?」

「アタシにとっては、サオリ様が生きている限り、ずっと魔王様です。それよりも、この服、可愛い」


 デビは私が創造(つく)ったオリジナルの服を、気に入ったようです。

 ちゃんと背中の羽が干渉しないように、デザインされています。

 そしてこの世界では珍しいレースを多用していて、フレアスカートの上にフリルの付いたエプロン姿は、小さなメイドさんなのです。


「いつも同じ服しか着ない天使たちより、よっぽど天使に見えるわよ、デビ。……飛んでるし」

「えへへー、アタシ、嬉しい。ありがとう、魔王様」


 ニコニコしながらパタパタと、お店の外に飛んで行きました。

 デビがいまだに恐れている、怖い怖い光の天使たちと、鉢合わせしない事を祈ります。


「しかし、妖精の件は残念だったな。今のお前でも駄目だったとは」

「そうね。……妖精そのものは創造する事は出来るのだけど、フォレスの魂を呼び戻す事は、不可能だったわ」

「全能ってわけでも無いんだな。……じゃあ俺は久しぶりに遠出でもしてくるぜ」

「行ってらっしゃい、エリオット。もう体が()()()()()()から、ごゆっくり。あと、西のダンジョンにはゴッズアイテムが入った宝箱を設置したから、オススメよ」  

「いや、直接俺にくれても良いのに……」


 腰に『教授の鞭』というレアな武器を携え、冒険者として旅立つエリオットを見送りました。


 店内は静かな時間が流れ、来店するお客様を待ちわびます。


 しかし、暇です。

 コンビニの商品ラインナップも、考え直した方がいいかも知れませんね。

 ポーション以外の商品が売れているのを、見た事がありません。


 お店の入り口のセンサーが、来客を知らせるチャイムを鳴らしました。


「いらっしゃいませ!」


 反射的に反応しましたが、入り口を見れば、いつもの天使たちでした。


「いらっしゃいましたなの」

「こーな」

「馬鹿ですか」

「お帰りになったと聞いて」

「わた、わた……」


 いつものメンバーが勢ぞろいです。

 私が帰って来た事を、エリオットから聞いたのでしょうか。


 宇宙旅行から戻ってすぐに、お店に来てしまいましたが、王宮にも挨拶に行っていなかった事を思い出しました。

 そうそう王宮と言えば、エリーシアは無事に目を覚ました後、王宮へと帰っていましたが、元勇者の兄ローランドの事や、ジークに攫われた事など、トラウマになりそうな出来事はすべて、()()()()()()()記憶から抹消されているようでした。

 

 そんなわけでエリーシアは、魔法学院にも復帰したそうです。

 私もあそこの生徒のままなので、そのうち顔を出したいと思っています。

 

 そして、スタンプラリーの最後のハンコは、王都にありました。

 マスを全部埋めたら、何処かへの招待状が届くとされていたのに、結局何も起きませんでした。

 恐らくこれは、あの神様のいたずらだったのでしょう。どこまでもゲーム好きと言いますか……。

 でも、()()()()()()という事は、そういう事なのです。


「ミシェールはどうしたの?」

「第一天使は、サオリの部屋を掃除しています。毎日サオリの部屋だけです。他の部屋の掃除もするように言ってください」

「わ、わかったわ……」


 カーマイルには一応、約束はしましたが、あのミシェールは自分の信念に基づいて行動するだけなので、私の言う事も聞かなかったりするのです。

 いまだに『禁則事項です』という言葉を私に使う程の、意味不明さです。


「カミ! ころっけなの!」

「カミ! こーな!」

「もう、その呼び方は止めてって言ったでしょう? ここでは店長と呼びなさい」


 二人の能天気天使は、分かったのか分かっていないのか、元気に叫びました。


「「カミてんちょ!」」


 そうだ、肝心な事を忘れていました。

 私――


 ランドルフと婚約しました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次回、結婚式で最終回ですか。 [気になる点] サオリは地球にはもう戻ることがないのでしょうか。 [一言] 気が早いですが完結お疲れさまでした。次は商業デビューを果たされんことを祈念します。…
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