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親としての矜持

『はぁ…またやっちまったな~……』


担当編集<月城つきしろさくら>が帰り、原稿をボツにされたことをミハエルに慰めてもらってから、蒼井霧雨あおいきりさめは、一人、仕事部屋にこもって凹んでいた。


本当は子供達に言い争っているところを見せたくないのに、ついつい熱くなってしまう自分が情けない。それは仕事に対する真剣さや情熱の表れではあるものの、やはり親が強い言葉を使っているところは教育上よくないことは承知しているのだ。


なにしろ親がそんな風にしていると、『他人に対して大きな声で罵ってもいい』と子供に思われてしまう可能性が高いのだから。


でも、子供達はちゃんと分かってくれていた。蒼井霧雨と月城さくらのそのやり取りは、信頼しあっているからこそのものだということを。


それはミハエルが、


「大丈夫。ママとさくらはケンカしてるんじゃないよ。ほら、アニメとかでホントは仲良しな人達がケンカしてるみたいに言い合ったりすることあるよね。あれだよ」


そう言って丁寧に子供達に諭してくれているからというのもある。


しかも蒼井霧雨と月城さくら自身、普段は実際に仲のいい様子を子供達の前で見せてもいるし。そして、私人としての月城さくらは、子供達にとっても<もう一人のお母さん>的な存在でもあった。


何しろ蒼井家と月城家そのものが家族同然の間柄なのである。


そんなこんなで、


「ママ~、ばんごはんできたよ~」


一人で凹んでいた蒼井霧雨に、末っ子の椿つばきがそう声を掛けてきた。


「あ、ありがとう」


言いながら出てきた彼女は、にこやかに自分を見上げる娘に向かって、


「ごめんね~、ママ、怖かったよね」


と申し訳なさそうに謝った。ここで、


『仕事なんだから仕方ない!』


などと開き直って自分を正当化しないのが、彼女の<子供達の親>としての矜持だった。


大人はとかく子供に対しては自分を正当化して『大人は間違えない』的に振舞ってしまうものの、彼女はそれを良しとしない。


「大人だってただの人間なんだから、間違うこともあるし失敗することだってあるよ。大事なのはそれを誤魔化したり道理を捻じ曲げてまで正当化しないことだと思う。


間違ったこと、失敗したことを、ちゃんと認めて謝る姿勢を大人こそが子供に見せるべきなんだ」


と彼女は思っていたからこそ、わずか十歳の娘にさえ丁寧に謝る。


その誠実さは子供にも伝わり、だからこそ、


「だいじょうぶだよ。分かってる。ママ。わたし、ママのこともさくらママのことも大好きだよ」


笑顔でそんな風に言ってもらえたのだった。



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