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中村兄妹の異世界冒険譚  作者: 柚根蛍
第2章 〜最強のアサシン〜
19/87

#19 外の世界

 僕たちが修行を始めて二週間。

 当初の一ヶ月という目標を大幅に短縮し、僕、柊は30レベルに到達することができた。

 これもマグルさんの修行のお陰だろう。

 正直、最初に突然連れ去られて「強化してやる」と言われた時は、なんだこの人はとか思っていたけど……まぁ今はなんだかんだで感謝している。


 本当に強くなることに意味があるのか、と問われればそれは難しい話なのだけど。


 そして今日、僕達は新しい仲間のリリアと共に中央大陸へと戻ることになる。


「よく頑張ったな秋、柊よ。これで晴れてお前たちは修行を終える」

「長いようで、短い期間でしたね」

「毎日ぐったりの生活だったよ……」

「それで、中央大陸に戻る前にお前たちに警告しておく事がある。特にリリアータ。お前とかにな」

「あ?なんだ、マグル」

「向こうでは魔物を倒すな!捕まるぞ。そして危険なクエストには無闇に挑むな。それで死んだら胸糞悪い。そして最後!仲良くしろ、パーティ(仲間)は大事な存在だ」

「なんだそれ!?魔物、倒す、ダメか?」

「ダメだ!ここは人の目がないから特別だがな、一応暗黒大陸にも法は適応されてるんだ」

「わからない、でも、理解した」

「……まあいいだろう」


 なんだかんだで、心配性なんだよなぁマグルさん。

 とりあえずリリアに関しては僕たちがこの世界の常識を教えてあげなきゃいけないのかな。


「というか、結局。僕たちを連れ去った理由って何だったんですか」

「そういえば、いつもその話になると黙るよね?」

「……一つ言えることは、まだ知る必要はないと言う事だ。お前たちのこれからの人生は自身で決めろ。自由に生きるもよし、使命を背負って生きるもよし、全てから逃げてもよしだ」

「そんな、使命とかって。──まぁ、頑張って自由にやりますよ」

「死ぬなよ」

「もー、師匠は心配性なんだから!問題ないって、リリアちゃんもいるしね」

「ん?あたしか、あたしは、ここにいるぞ!」

「……まぁいい、そろそろ行くぞ」


 ようやく帰れるのか。

 ……って、やっぱり帰りも瞬間移動(テレポーテーション)って事は。

 覚悟をしていた方がいいかもしれない。



**********



「うっ……おえっ。本当、洒落にならなっ。うっ」


 毎度の如く、吐き気が襲う。

 拓けた草原の中、僕は腕を地面に突っ伏して呼吸を整えている。

 転移魔法体制−500%とか付いてるんじゃないのか?


「アキ、気分、変なのか?」

「酔ってるの、気持ち悪くなるんだよ」

「へー大変だな。頑張れ」

「いや、うん。もう大丈夫……ってマグルさんもう居なくなってる」


 さっきまで本当に一緒にいたのか疑わしくなる。

 結局別れの挨拶もしてないし……またどこかで会えるのかな。


「というか、なんだここ!?草が、緑だぞ!」

「そこからですか!?」

「花だぞ!図鑑で、見た!空気が、うまい!」

「おおー随分はしゃいでるね。ここが外の世界だよ!」

「はー、ここが……」


 リリアータ目を輝かせて、辺りを見回す。

 草の上をゴロゴロしたり、花の匂いを嗅いだり、柔らかい土を掴んで不思議そうに見ている。

 五感全てで、新しい世界を。全身で、感じている。


 少女の目に映るものは、全てが新鮮で、キラキラしていた。

 青い鳥の様な綺麗な羽の魔物。

 側にある河原、こんなに多くの水を見るのは初めてだ。

 自然にあふれ、とても豊満な土地。(なび)いている風がとても涼しく感じる。


「わはー!なんだ、ここ!外の世界、綺麗!」

「ふふ、こんなので驚いてたらキリがないですよ」

「だね!美味しいご飯とか、たくさんの人が居る街とか!」


 すごいはしゃいじゃって、本当に外の世界を知らなかったんだな、この子は。

 確かにあんな場所に住んでいたら無理もないかな。


「巨大な、建物──。あれは、なんだ?」

「あれが街ですよ」

「今からあそこに行くんだよー」


 転移した場所は、エラリス国の街、アーグスの近く。

 僕たちが最初にこの世界に転移してきた街でもある。

 

「ジャ、行くぞ!早く、早く!」


 ぴょんぴょんと跳ねて可愛らしげに言う。

 とてもワクワクしているのだということがこちらにも伝わってきた。


「おっけー、行こっか!」


 そうして、道中の景色をリリアと一緒に楽しみながらアーグスへと行くのであった。



**********


 

 魔王城、図書室──

 魔王は休暇であるため、いつものように本を借り、自室に向かおうとしていたところであった。


「おお、魔王様だ」

「やっぱりイケメンね、狙っちゃおうかしら」

「できるわけないでしょ。庶民的でも、私たちと釣り合う存在ではないわ」

「こら、静かにせい……」


 辺りから、様々な魔物の声が聞き取れる。

 魔王城は、一部エリアは一般用に解放されており、この図書室はその一つであった。

 魔王は、ずっしりと積み重なった本をカウンターに置く。


 すると、奥で作業をしていた司書が手を止め、魔王のそばにやってくる。


「おお、魔王様。今日も貸し出しですね、いつもご利用ありがとうございます」

「本は良いものだからな。新しい本も取り寄せられているようだし、助かるよハータット」

「なんと!」


 司書は大声を上げる。そしてハッと周りを見回すと、恥ずかしげに小声になった。

 周りからクスクスと笑い声が聞こえる。嘲笑とかではなく、ただその状況が面白おかしいのだと言うように。

 図書室の規律を誰よりも重んじる司書が、大声を出したのだ。それ程魔王という存在が与える影響は大きいものなのだ。


「いえ、失礼しました。こんな私めの名前を覚えてくださるとは。ここまで司書を続けていて感動したことはありませぬ」

「謙遜しなくていい。俺が勝手に覚えているだけだ」


 と、その時図書室にバサバサという異様な音が響く。

 魔王はその音の主、後ろの方を見る。

 すると、ちょこんと青い色の綺麗な羽をした鳥のような生き物がいるのを確認した。


「ああ、待っててくれ。今から自室に向かう、そこで話そうか」


 それを告げると、魔王は少々重そうに本を持ちながら図書室を後にしたのであった。



 そして、魔王が二階から三階へと上がる。

 ここからは魔王の関係者しか入れないシークレットエリアとなっている。

 しかし当然のように、その青い鳥は魔王のあとをついてくる。


 そして人目が消えると、鳥は姿を変え人の形になる。それでもその羽は健在なのだが。


「本、持ちましょうか」

「いやいい、レディに気を遣わせるのは悪いよ」

「……たらしめ」

「何か言ったか?」

「言いました、不快です」

「……君と姉くんは性格が反対だね」

「私より姉の方がきついかと思いますが、いろんな意味で」

「姉くんは最近会ってないからな……エルム大陸にいるんだったか」

「姉の話はしないでください」

「君からしたんだが……」


 そしてしばらく沈黙が続いた──。

 カツン、カツン。

 廊下にヒールの様足音が響く。もちろん魔王のものではない。

 一定間隔に足音が刻まれているのを聞いていると、音符を乗せれば音楽になるのではないか魔王は考える。それも、芸術ではないか?


 そうして魔王が鼻歌を歌い始めるのと同時に、自室に到着する。


「これからがいいところだったんだが」

「何をしているんですか、早く入りますよ」


 魔王を無視して、まるで我が物のように部屋のノブに手を掛け、開ける。

 そして無断で入り、部屋にあったソファに座りくつろいだ。


「ほんと、君は上下関係を気にしないな。逆にすごいぞ」

「魔王様が緩いからですよ。荒くれに殴られてもやり返さないチキンですから」

「あれは、あっちにもそうせざる負えない事情があったからだろ。流石に無意味に殴られれば、やり返さないこともないぞ」

「はぁ……これだから」


 この状況を二人の関係性を知らない者が見れば、上司と部下をあべこべで答えるだろう。

 

 魔王は机に本を置くと、ソファに座り喋り出す。


「それで、報告があるんだろ?私も時間はあまり使えない、手短にお願いする」

「監視していた例の異世界人の消息が、掴めました」

「それで?」

「二週間前に突如消息不明。今日エラリスのアーグス周辺を捜索していたところ偶然見つけまして……それでなのですが」

「ん?」

「二週間という期間の間に8レベルから30レベルに。そしてゴブリンと思わしき少女を連れていました。アーサーの勇者の姿は無く、代わりに一瞬だけ──黒尽くめの男がいました」


 黒尽くめ、という言葉を聞くがピンとこない。

 何故なら、そんな容姿の者はこの世界に幾らでもいるからである。


「そうか、二週間で22レベルの上昇。アーリエを狩っただけではそうはならない。もしや魔物或いは……スキル」

「そうですね、こればかりに関しては私も分かりかねます。まぁ、報告は以上ということで失礼します」

「あっ!ちょ……もう少しくらいゆっくりしてもいいのだが」


 本当にそっくりだ、あの鳥達は。……少なくとも言葉遣い以外は。

 

 しかし今回の情報はあまり有力なものではなかった、唯一手がかりがあるとすればゴブリンの少女だが、そちらも深い所へは繋がっていないだろう。


「退屈だな」


 そう吐き捨てると、魔王は机に移動し、頼りない明かりを頼りに、本を読み耽るのであった。

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