7話 葛藤×譲歩×共闘
新年度皆さんどうですか?
仕事ですが、自分はちょっと面倒なプロジェクトやることになったんで、憂鬱です。
1人月で3人月の仕事で良い?
笑いまじりに言われた時、これは割と冗談じゃなさそうだと感じた今日でした。
てわけで、今回も宜しくお願いいたします。
雄が邪魔をしやがって。目の前のアズライールへの下半身の疼きが、今はハルトへの憤怒に塗りかわっている。
そう言えば、腹も減っていた。見れば、この雄も中々旨そうだ。
ゴブリンはギザギザの歯を見せつけるように、口を拡げて見せると、ハルトに襲いかかる。
「くっそ!」
あわや食い付かれる寸前、ハルトは何とか自分の首とゴブリンの牙の間に、小刀を滑り込ませる事に成功する。
ギジギジと刃と牙を擦り合わせているゴブリンの口から漏れる生臭い息がハルトの鼻にかかる。
「くっせぇんだよ!」
あまりの臭いに、吐きそうになるのを抑えつけ、ハルトはゴブリンの腹を蹴りつける。
しかし、やはりそれは無駄に終わった。
ゴブリンはハルトに腹を蹴りつけられても、びくともしない。先程頭に受けた一撃よりも遥かに軽くなったハルトの攻撃。この獲物は自分より弱い。その確信から、ゴブリンは小刀を咥えたまま、器用に口角を上げて見せる。
「なめやがっ……がぁっ!」
ハルトが言い切る前に、腹を蹴り飛ばされ、ハルトは何度も地面を転がる。
「う、ぐぇ。」
そして、耐えきれず嘔吐した。ゴブリンのとは違う種類の刺激臭にハルトの目尻から涙が滲む。
くそっ!素のままじゃオレはゴブリンにも勝てない程、弱くなったってのかよ。悔しいが、逃げるしかねぇ。まだ囲われてはいない。だが、目の前のゴブリンは、どうやら俺をロックオンしちまってる。どうすりゃいい。俺は、ゴブリンごときに殺される訳にはいかねぇんだ。
ハルトの頭を過ったのは、自分と苦楽を共にしてきた4人の仲間。そして、こんな自分を勇者だと言って命を張ってまで、魔王の前まで送りとどけてくれた名も知らない戦友達。
そんなハルトの耳に、アズライールの魔法を唱える声が聞こえた。
「わらわらと、群がりおってからに! 氷魔法 凍床」
見れば、アズライールは迫りくるゴブリンの足元を凍らせ、巧みにゴブリンを転ばせていた。
しかし、この場に居るゴブリンはハルトに相対する者以外、我先にとアズライールを目指している。その距離は徐々に狭まり、アズライールの表情からは焦りが感じ取れた。
さっきは何でか助けちまったが、この状況は使える。もともとは、アイツは敵だ。ここで魔王が死ぬなら、それはそれで御の字じゃねーか。…同情はしねぇ。
ハルトはアズライール目掛けて走り出した。吊られてゴブリンもハルトを追い出す。
流石に、あの短い手足だとスピードは俺に部がありそうだな。それより。
「魔王!」
「なんだ!?」
「俺の後ろのやつに、さっきのやれ! それと、屈め!」
「んな?!」
アズライールがハルトを見やると、視界に入ったのは靴の裏、急ぎ身を屈め何とかかわす。自分の後方でぐしゃっと音が聞こえたが気にする余裕はない。
それは、少し先に此方に駆けてくるゴブリンの姿が目にはいったからだ。アズライールは咄嗟にそのゴブリンの足元に氷を発生させ、転ばせる事に成功する。
「っぶないわね!何すんのよこのアホ勇者!」
アズライールは、思わず素の口調でハルトに食いかかった。そこにはハルトに鼻を潰され、揉んどり打ってるゴブリンの姿があった。
「へっ、急所なら存外効くみたいだな。ところで、魔王。手ぇ貸せよ。」
「はぁ!? なんで勇者なんかと…!」
アズライールは、誰が手を貸すかと言い掛けたところで口を紡ぐ。わらわらと、自分目掛けてニタニタ進んでくれるゴブリン。
正直、この状況を1人で潜り抜けられるとは思わない。勇者の手を借りるなんて、本当はごめんだけど仕方ないわ。
アズライールは内心の葛藤を噛み殺し、勇者の提案を受けることにした。
「良いわ。不本意だけど、手を貸してあげる。」
「お前の周りに近付くヤツは俺が蹴り飛ばす。お前は常に俺らが囲まれないようにさっきの魔法使って、足止めしろ。」
「それだと、いずれ限界が来るわよ!」
「そうだ、だから少しずつ距離を取って、森に入るぞ! んで、入ったら即逃げる!」
「現状、それしか無いか。勇者の言うことを聞くのは癪だけど仕方な…。」
「ただし!」
一先ず同意の意を示そうとしたアズライールの言葉をハルトは遮った。
「逃げるのは別々だ! これが、俺の最大限の譲歩だ! 分かったか!」
「…一体何に対しての譲歩なのか、さっぱり意味が分からないけど、了解よ。こっちも何時までもアンタと行動したくないし。」
アズライールは、ハルトの言葉の意味を理解していなかった。それは、これまでの人生の中で、言い寄られる事などなかったし、男も女も視線に含むは、畏怖か敬愛。故に、性的な目線で見られたことなどなく、一度盛った雄の愚かしさ等知るよしもなかった。
だからこそ、アズライールは森に入って逃げれば、自分を追い掛けてくるゴブリンは半分になるし、木々に紛れればどうにかなるだろう、その程度しか考えていなかった。こと男女の関係に至っては、アズライールは乙女にすらなれていない。ハルトの譲歩の意味にアズライールが思い至る事はなかった。
ハルトはアズライールが自分の言葉の意味を理解していないことに気付いていた。意外とアホだなと思いつつも、言葉の真意を教えるつもりはない。
これは、譲歩。先程ゴブリンに引き倒された時に見てしまった、ただの少女としてのアズライールへの譲歩だ。ギリギリまでは付き合ってやる。その後は自分で何とかしやがれ、魔王。
「気張れよ! ロリペタ魔王!」
「あんたこそ! ツルペタ勇者!」
ここに、勇者と魔王の一時休戦と、期間限定の共闘が実現する。
ここまで、読んで下さってありがとうございます。最近、ハルトは視点が多いですけど、アズライールの方が好きです。
今後とも宜しく御願いいたします。
【作者土下座】
作者は、皆様からの反応を楽しみに小説を書いています。なので、プライドなんてゴミ箱にポイして皆様にお願い申し上げる。
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