3話 あなたは何者ですか?
最近ところてんにハマってます。
「ぐぬぬぬぬ―――――」
勇者は、自分の愛剣を何とか持ち上げようと、うんうんと唸り、魔王は強かに打ち付けた頭に手を起き、もんどりかえっている。
その光景は、世界の命運を賭けて戦った2人とは思えない。
「ぷる♪ぷる♪」
そんな2人の回りを、アズライールを空中に跳ね飛ばしたスライムはぴょんぴょんと楽しげに飛び回っていた。
「スライムの分際で~~」
未だ、ずきずきと頭が痛むが、アズライールは立ち上がる。
自分の剣すらまともに持てないアホな人間は一先ず置いておこう。
それよりも、私に恥をかかせた、この低級種族にカーストを教えてやる。
「スライム相手に本気になる魔族。笑える。ぷぷ。」
ハルトは、頭の中央にコブが出来た魔族を見て、小声で馬鹿にした。しかし、その呟きは風にのりアズライールの耳まで届く。
「………決めた。アイツ絶対殺すわ。」
見れば、人間の少年は未だ剣を持ち上げようと中腰でぶるぶるしている。
自分の格好を棚上げし、人を小馬鹿にしてきたあの少年も絶対に許さないと、アズライールは怒りと羞恥に顔を染めながら心に決めた。
「おい、そこのスライム。此方を向け!」
「ぷる?」
スライムは自分が呼び掛けられたのが、分かるのか、アズライールに意識を向けた。
「よくも、余に恥をかかせたくれたな。その罪、死をもって償え。」
「スライムにやられた魔族が、余に、とか本当止めて。力抜けるわ。……いや、これこそがアイツの作戦か?笑わせて俺に剣を取らせない。だとしたら、出来る!!」
ハルトのその言葉に、アズライールはより一層顔を赤く染める。
アイツ殺すだけじゃ絶対に許さないわ。魂ごと消滅させてやるんだから!
そう決意を新たに、アズライールは杖を片手にスライムと相対した。
警戒心が欠如しているのか、アズライールが近付いても目の前のスライムはぷるぷるしてるばかりで全く逃げようともしない。
「逃げる頭もないとは、やはり低級。呪うなら愚かな自分を呪うがよい。」
スライムの近くまで行くと、アズライールは杖を振り被り、スライム目掛けて振り落とした。
ぐにゅぅ。
「ぬ?」
アズライールはスライムを破裂させるつもりで杖を振るった。しかし、目の前のスライムは破裂等せず、それどころか、自分の手に強い抵抗を感じる。
ぽよよ~~ん。
間抜けな音とともに、杖を持つ腕を上に跳ね返された。
「うそぉーーーーー!」
「ぷるーー!!」
そして、がら空きになった胴体目掛けて、スライムが飛び込んでくる。
アズライールは少し焦ったが、スライムの攻撃で自分がダメージを受ける事等ありえない。
そう思い、油断した。
「ぐほぉ!!」
自分の想像より、遥かに重い一撃を腹部に受けたアズライールは、数歩よろよろと後ずさると、お腹を抱えて蹲る。
「だーはっはっはっ!スライム相手に膝をつく魔族とかマジか!お前俺を笑わせる為にわざとやっているんじゃねーだろうな!」
ハルトはその光景を見て、ついに耐えきれなくなり、無遠慮に笑いだす。
「ぐぬぬぬ、魔王である私にここまでのダメージを与えるなんて。何なのこのスライム!」
ハルトの笑い声が聞こえてはいるものの、腹の痛みでそれどころではないアズライールにハルトに言い返す余裕はない。
「魔王だ?魔王ってのは勇者である俺でも勝てるか分からないくらい強いんだぞ。スライム相手に踞ってる魔族が魔王であってたまるか!」
勇者だと。
アズライールは、自分が勇者と嘯く少年にギロリと視線を向ける。
「貴様みたいに、自分の剣すらまともに扱えぬ阿呆が勇者であってたまるか!この阿呆が!」
アズライールはそれには堪らず言い返した。
「ほぅ、なら証明してやるよ。確かに何でか知らないが、馬鹿みたいに剣が重くて持てやしないが。俺は勇者!お前を倒したスライム、俺がけちょんけちょんにしてやるさ!」
ハルトはそう言うと、一時剣を持ち上げる事を諦め、アズライールを倒してご機嫌な様子のスライムの前まで悠然と歩いていく。
「悪いな、スライム。お前には笑わせてもらったが、あの自称魔王に、俺は俺が勇者であることを証明しなくちゃいけない。だが、安心しろ。笑わせて貰った礼に殺しはしないさ。ただ、ちょっと遠くまで蹴飛ばさせてもらう……ぜ!!!!」
ハルトはそういうとスライムを蹴り上げる為に気合を入れて足を折り曲げた。充分に為をつくると、足の甲でもってスライムを蹴り飛ばさんとする。
スカっ。
「消えた?!」
ハルトの足は間違いなくスライムに直撃するはずだった。しかし、その足は空振り、それどころか、スライムが消えたように見える。
一体どこに?
ハルトが周囲を確認しようとしたその刹那。
ハルトは自分の顎に柔い何かが触れた感触を得た。
「ぷるーー!!」
「うそぉーーーーー!!」
そして、そのまま顎をかち上げられ、空中に放り出される。
べちゃ。
トマトが潰れたような音が草原に響いた。
「な…なんでスライムがこんなに強いの?」
てゆーか、このスライム。
「勇者な俺をこんな容易く倒すなんて」
「魔王である余を打ち倒すとは」
「「まじでアンタ何者ですか?!」」
ハルトとアズライールの悲鳴にも似た心の叫びが仲良く辺り一体に響き渡る。
その叫び声を聞いたスライムは器用に体を変形させると、その体でピースサインを作り、より一層楽しげに声を上げた。
「ぷっるるーん♪」
それは、魔大陸アルカディアで生存を賭けて闘ったそれぞれの種族の最高峰に立った2人が、この世界の最弱とされるスライムに情けなく敗北した瞬間であった。
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