14.5話 書けなかった話【廊下での一幕】
楽しんで頂ければ幸いです。
ホームより独立自由都市リテラルへと続く廊下を歩いている最中、目の前にはレンとハルトが此方に聞こえないように会話をしているのが見えた。
自分の一歩を前を歩くピンクの髪を持つ少女アズライールにアズマリアは話しかける。
「ねぇ、アズライール。少し良いかしら?」
「何かしら?」
「あなた、魔法使いよね。異世界転移について話をした時、そこまでの反応が無かったけれど、どうしてなの?」
訝しげな表情をしていたアズライールは、アズマリアの質問に対して納得した表情を見せる。
「その疑問はもっともね。はっきり言って、異世界転移なんて現象は眉唾なものだと思ってるわ。」
「だったらどうして? 私も魔法使いの端くれだから言うのだけれど、次元を越える転移なんて、聞いた事がなければとても信じることは出来ないわ。どれだけのエネルギーが必要か分からないもの。」
「でも、私は別次元に存在する死界へと通じる魔法を使うことも出来る。他にも知らない世界があっても不思議じゃないし、魔法は想像と可能性よ。存在しないと疑いもするし、存在すると疑いもする。」
アズマリアは先を促すように首を少し傾げた。
「私とアイツが使った魔法は、いわば生と死よ。それは絶対不変の大原則。もしかしたら、それは世界を創る根源となるのかもしれない。私の魔法と、アイツの技が混ざりあっても世界が創られるとは思えないけれど、異なる次元へと転移することはあるのかもしれない。」
アズマリアは少しだけ驚いた。一回り程も幼い少女は、思考という一点において、自分よりも遥かに深く潜ろうとしているように感じたからだ。
そこに嫉妬はない。あるのはただの称賛だ。ゆえに、アズマリアは思ったことをそのままに、アズライールに伝えた。
「あなた、思考が凄く深いのね。」
「当たり前じゃない。私は偉大な葦でいたいのよ。」
「不思議な言い回しね。意味を聞いても良いかしら?」
「私達は、自然から見たらとても脆弱な存在。でも、私達は考えることで多方面に成長していくわ。偉大なのは私達じゃなくて、考えることそのもの。余談だけど、葦っていうのは植物のことよ。」
「それだと植物が脆弱みたいね。」
アズマリアが顔に笑みを浮かべていた。
「ただの比喩よ。脆弱の象徴が葦だったのかもしれないし、何となく目についた先にあったのか葦だったのかもしれない。知ろうとすることは大切だけれど、揚げ足を取るの楽しくないわ。そうじゃなければ…。」
アズライールの言葉を引き取るようにアズマリアが言う。
「浪漫がない。」
アズマリアのその言葉に、アズライールは嬉しそうに口に笑みをつくった。
「あなたとは気が合いそうね。」
「私もそう思ってたところよ。」
僅かに声を漏らして2人は笑い合った。
ふと前に目を向けると、レンが楽しげにハルトの肩を叩いているのが見える。
「あなたが人間を敵としてきたことは聞いているけど、やっぱりハルトの事も?」
「当たり前じゃない。敵よ。それも最大級に厄介な。」
アズライールは即答した。
「私達が貴方達を見付けた時、ハルトは傷ついていたわ。でも、貴方は魔力切れで倒れていたけれど傷らしいものは無かったわ。」
その指摘に、アズライールは顔をしかめる。彼女は決して馬鹿ではない。ハルトがいなければ、自分はゴブリンに陵辱されていただろう事は分かっていた。
「そうね。アイツがその気になれば、私を置いて逃げれた筈よ。」
そして、ハルトが本気でアズライールから逃げようとすれば、そうする事が出来たことも。
「だったら何故?」
「だから、アイツは厄介なのよ。」
実のところ、アズライールは勇者ハルトを憎み、同時に感謝もしていた。それはハルトが魔大陸アルカディアに細々と点在している村を避けて戦っていたからだ。
最初は偶然かと思っていたが、戦う場所は何れも村からは離れた場所ばかり、報告を受ける進行ルートがその間を縫うようにしていれば、嫌でも気付く。
「お互いが敵であるのはアイツも私も変わらない。でも、アイツ自身を否定は出来ない。ね? 厄介なのよ、勇者ハルトってやつは。」
アズライールは、少し先を歩く勇者に目を向けると、呆けた顔で突っ立ている。
だから、アズライールはその背中目掛けて走り出した。そして、勇者への苛立ちと、ハルトへの感謝をほんの少し込めて後ろからバシンと叩き横を通りすぎる。
「厄介なのは、きっとお互い様ね。」
その様子を見て、アズマリアはそっと呟くと、ハルトを通り過ぎレンの横へと並び立つ。
贅沢は願わない。けど、いつの日かあの2人が互いを敵ではないと言える日が来ることを、アズマリアは静かに祈った。
今回も読んでくれてありがとうございます。
今後ともご贔屓に。
【作者土下座】
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